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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2010年05月23日

足るを遊ぶ

ヒット商品応援団日記No468(毎週2回更新)  2010.5.23.

前回、消費が少し明るくなってきたと書いた。1−3月の個人消費がプラス成長であったといった経済指標もさることながら、心理化された市場の在り方を見ていくとそんな感がしている。つまり、明るさがどこから発せられているのか、その心理はどういう理由からなのか、を感じ取ったからであった。
そして、過去2年間ほどのわけあり商品ブームは終わったとも書いたが、わけありという情報、それに基づく価格が日常化したとその理由を書いた。もう少し言葉を付け加えるとすれば、過剰なわけあり情報が行き交う日常にあって、生活者は重要なわけ情報と不用なわけ情報とを自らの実体験に基づいて峻別できるようになったということである。

このわけありブームを引き起こした巣ごもり消費生活の2年間、LED電球やHV車が代表するように長期間で見ていけば結果として「お得」といった新しい生活合理主義が生まれた。この点については既に何回か書いてきたのでここでは書かないが、もう一つをキーワード化すれば「納得消費」であろう。価格に対する納得を得るために、細部と全体、あるいは仮想と現実、これらを自由に行ったり来たりできることによって納得感が創造される。例えば、都市において急成長しているネットスーパーが典型で、この構図が理解できると思う。あるいはここ数年のプロモーションのほとんどが、無料お試しという体験実感によるものが実証している。

この巣ごもり生活というのは単に家に籠ることではない。昨年からのいわゆる1000円高速は大渋滞以外にユニークな副産物を産んでいる。それはキャンピングカーといった本格、構えたものではなく、自家用のバンにマットを敷いてSAで車中泊するといった旅の楽しみ方である。目的はカメラ撮影といった各人の趣味が多いようであるが、手軽に気軽にお金を使わずに楽しむファストファッションならぬファストトリップである。しかも、こうした車中泊を含めた生活用品が売れているという。従来から言われていた安近短は、更に安く、遠くに出かける奇妙な旅を生み出している。

4年ほど前、「今、地方がおもしろい」というタイトルで、都市の舞台には上がっていない多くの食を中心とした地方の物産に着目すべきであると指摘したことがあった。以降、東京銀座を中心に各都道府県のアンテナショップが次々と出店し、最近ではアンテナショップ巡りのガイドマップが作られ、シニア世代を中心に人気スポットとなっている。また苦戦する百貨店にあって常に集客できるのが全国駅弁大会であるが、東京に居ながらにして地方を楽しむ、これも巣ごもり生活の定番メニューとなった。

つまり、従来の概念、従来の商品や売り方から外れた巣ごもり生活の知恵、楽しむ工夫が至る所で出てきたということである。前々回のブログにも書いたが、家計(財布)という経済を考えると自ずと選択肢が狭まり、その範囲内での変数(工夫)を考えることとなる。消費を変えるその変数に個々人のお得であるための創意工夫、アイディアが付加されてきたということだ。こうしたアイディアグッズや材料というと東急ハンズや西武ロフトとなるが、100円ショップのダイソーや手芸用品のユザワヤにまで裾野が広がっている。
1000円高速の副産物は旅館・ホテルも、高速道路のSAも、等しく従来の考え方、多くの顧客がそうであるからといった延長線上に全てがあると考えてはならないことを教えてくれている。
少子化が進んでいる社会にあって、例えば使われない小学校の活用がオフィスを始めとした再生が計られているように、家庭内に既に在る物を異なる使い方をする生活者が増えてきたということである。そうした顧客を顧客としなければならない時代ということだ。

「足るを知る」という戒めがあるが、戒めではなく「足るを遊ぶ」、「足るを楽しむ」時代に入ろうとしている。従来の物充足ではなく、モノを生かすことを遊ぶということである。それはモノにとらわれない自由な発想を生む。消費という欲望が少しずつ変わり始めたのかもしれない。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:49│Comments(0)新市場創造
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