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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2010年05月12日

ライフスタイル変化の今

ヒット商品応援団日記No466(毎週2回更新)  2010.5.12.

この10年ほどの間に多くの消費キーワードがメディアを通じ流布されてきた。それらキーワードはライフスタイルという価値観のもとで、商品というモノとして生活へと取り入れられてきた。世相を反映したものとしては新語・流行語大賞を見ていけばその変化の有り様が分かるが、消費となるとまた異なるものとなる。ただ、新語・流行語大賞と共通する傾向としては、翌年には死語大賞になる、つまり「あっという間に終わる」速さであろう。消費の世界では、プロダクトサイクルが極端に短くなったと言われていることと同様である。

ライフスタイルを文字通りリードしてきたのが百貨店であった。1980年代始めの頃であったと思うが、西武百貨店が「おいしい生活」という広告キャンペーンを展開し、話題になったことがあった。糸井重里氏によるコピーであるが、「おいしいことに理由はいらない。好きか嫌いかがテーマ」だとする、つまりマス市場を構成する中流層がモノ消費の舞台の中心にあることを前提とした広告キャンペーンであった。ある意味、生活者はモノの豊かさ、おいしい生活を求め百貨店へと足を運んだ。こうした百貨店という業態が右肩上がりに成長していく市場情況とパラレルな関係であった。つまり、百貨店がライフスタイル創造のリード役、シンボル的役割を果たしていた。

1990年代の初頭、バブルの崩壊によってそれまでのライフスタイルの根底にあった多くの価値観(及び中流意識)が崩壊する。いわゆる不動産神話を入り口に、大企業神話、金融神話、終身雇用神話、といった神話崩壊と共に、国内における産業の空洞化、グローバル経済化が始まり、1998年以降収入も減少へと向かう。消費現場ではユニクロを筆頭に「デフレの旗手」が表舞台へと上がっていく。こうした傾向と共に、「違い」を求めた個性を売り物とした専門店群も出現する。この時代のライフスタイルをリードした流通はこうした多様な専門店を編集したSC(ショッピングセンター)であった。より独自な専門領域に特化したライフスタイル提案を行う。しかし、かたわらに神話崩壊による不安を抱えながらの「個性生活」、「上質な生活」がキーワードであった。

さて、これからが本題であるが、2000年代に入り、次のような2つの価値軸の間を振り子のように消費は振れてきた。勿論、過剰な情報の時代であり、その多くは断片情報であることから、振り子はキレイに弧を描くことは無い。ある時はいきなり反対へと振れ、ある時は小さく行きつ戻りつする。

・アーバンライフ(都市)とローカルライフ(田舎)
・ファストフード(ファッション)とスローフード(ファッション)
・エンターテイメント(リゾート)とナチュラル(リゾート)
・ヘルシー系とガツン系
・プロサービスとセルフサービス
・高機能と単機能
・個人単位と家族単位
・所有と使用

大きく言えば、過去と今、和と洋、情報(ヴァーチャル)と体験(リアル)、外向きと内向き、フローとストック、こうした多種多様な「変数」が消費のゆくえを決めている。

これだけの変数があると「正解」を見出すのは極めて困難である。しかも、周りばかりを見るキョロキョロ消費、情報に過剰反応する消費もあれば、そうした消費を冷ややかに見る我が道消費も出てきている。
ただ、こうした変数に囲まれながらも、家計(財布)という経済を考えると自ずと選択肢が狭まり、その範囲内での変数を考えることとなる。例えば、外食の頻度を減らし内食への転換であるが、ご飯を美味しく食べるために高機能な炊飯器は高くても購入する。この延長線上には、お弁当族に対し、5月末には炊きたての炊飯機能付き弁当箱も売り出されると聞いている。長い目で見れば、結果お得で豊かさを享受できるということである。

数年前、スローフード、スローライフが田舎暮らしとして注目されたが、いまやそんな経済的ゆとりはないと、そうしたスローライフ的ゆとりは影を潜めたように見える。しかし、スピード一辺倒の時代にあって、ひととき心和ませてくれているのが植村花菜さんが歌う「トイレの神様」である。亡きおばあちゃんと自身の思い出を歌った曲であるが、時間は通常の曲の倍以上の9分52秒である。全てが圧縮される時代に逆行するようなスローな曲である。あるいは、地方の村起こし、町起こしのB級グルメも新しい郷土料理であり、かたちを変えたスローフード、地産地消のメニューである。更にはファストファッションが今を映し出すトレンドとなり多数を占める中で、同じような低価格帯で買うことが出来る「森ガール」のようなナチュラルテイストのファッションも生まれてきている。これら価格という一つの時代要請を踏まえた、選択肢の範囲内での商品MDである。

つまり、財布のなかでの選択肢という狭まれたなかで、かたちを変えて消費の移動が起きている、あるいは「森ガール」のような隙き間市場も生まれている。わけあり商品も、代替消費も、あるいは何々をしたつもり消費も、全て狭まれたなかでの消費移動や新たな消費創出ということである。昨年特徴的な消費傾向であったのが、歴史・過去回帰とエコはお得とした新合理主義的なものであった。
その良き事例が既に出始めている。低迷する百貨店のお中元ギフトが既に始まっている。三越、高島屋のお中元テーマはエコ・ギフトである。有機野菜の詰め合わせセットなどが代表的ギフト商品となっているが、その中には懐かしい夏の風鈴なども入っており、一つの消費傾向は踏まえていると思う。ただ、想定されるギフト単価が昨年度とほぼ同じ5000円台と聞くと、今ひとつ「お得感」が乏しく、大きな消費移動を起こさせるようなヒットにはならないと思う。

ライフスタイル変化としては、「おいしい生活」から「上質な生活」を経て、今「お得生活」が広がっている。つまり、「お得」であることへの知恵や工夫、アイディアが求められているということだ。消費の変数それぞれに「お得」であるかを加えて検討してみるということである。その「お得」は経済ばかりでなく、時間や便利さといったお得もある。その「お得」がどんな消費の移動を起こさせるものなのか、新たな隙き間市場として創造できるものなのか、マーケティングのストーリーを考えてみることだ。そして、安心、安全という不安が一掃された前提で、そうした中から小さなヒット商品が生まれる。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:03│Comments(0)新市場創造
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