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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2010年05月02日

初めての日本人、勝海舟と坂本龍馬

ヒット商品応援団日記No4623(毎週2回更新)  2010.5.2.

NHKの大河ドラマ「龍馬伝」を楽しく見ている。スタートしてから3話まで見終えてブログにも書いたが、劇画、コミック動画として見事に創られている。司馬遼太郎の原作とはやはり異なるもので、それは脚本の福田靖氏と演出の大友啓史氏の二人による創作コミックである。劇画手法の持つ過剰さは逆に現代のスピード感によくマッチしていて逆に心地よいぐらいである。
当時のブログに、「龍馬伝」という仮想現実物語がどの程度消費に結びつくか、情報消費、物語消費のこれからを占う一つの指標になるからである、と私は書いた。多くの方も予測していたように、歴女や龍馬オタクが坂本龍馬ゆかりの地、土佐、長崎、京都を巡る旅が盛んであると報じられている。

ところで、この大河ドラマが一つの機会であったが、それほど熱心な司馬フアンではなかった私も今一度司馬遼太郎が書いた膨大な量の著作、小説、エッセイ、対談集などを再び読み始めた。
4月25日第17回「龍馬伝」は「怪物、容堂」がテーマであった。勝海舟と龍馬が容堂に会いに行き、海軍を造ることへと向かう大きなテーマである。そんなTV画面を見ながら、司馬遼太郎が「龍馬がゆく」を書いた20年後、勝海舟と龍馬の描き方について「自作再見『龍馬がゆく』」(「以下、無用のことながら」/文春文庫)で次のように書いている。

「幕末、勝海舟という人物は、異様な存在だった。幕臣でありながら、その立場から自分を無重力にすることができた上に、いわば最初の”日本人”だったといえる。」
また、海舟の性格の性悪さにも言及し、
「しかしながら、海舟のえぐさは、そういうえぐさをいわば糖化し、かれの中で、”日本人”として醸造し、それ以上に蒸留酒にまで仕上げたことである。
さらにいえば、かれはそのもっとも澄んだ分を門人である浪人坂本龍馬にうけわたした。」
そして、20年経っても海舟のことが気になり、司馬遼太郎は咸隣丸が造られたオランダの造船所を見に行ったりもしている。オランダは最も古く国民国家をつくった国であるが、そのことに触れながら
「当時かれ(龍馬)と海舟以外に存在しなかった。”国民”という宙空の光芒のような場所から出たものにちがいなく、そういう数行を『龍馬がゆく』で書き足したいように思うし、あるいはそれは説明にすぎず、無用だとも思ったりしている。」

司馬作品は多くの研究者、専門家によって夥しいほどの評論も書かれているが、歴史の表舞台ではなくその影にいる人物、時代の脇役のように見えるが実は大きな役割を果たしている、そんな人物ばかりを表舞台に上げて書いている、それが司馬作品の最大特徴だと思う。「坂の上の雲」の秋山兄弟、「功名が辻」の山内一豊、それほど多くの作品を読んだ訳ではないが、司馬遼太郎が作品の主人公に取り上げなければ歴史の片隅に置かれ忘れ去られてしまうような人物ばかりである。その最たる人物が龍馬であろう。

そして、明治維新という複雑怪奇な激動の時代を読み解くために、司馬遼太郎はわかりやすく勝海舟と坂本龍馬という二人の人物を配置してくれた。ある意味、一つの変革時代のモデル、革新モデルを提示してくれたと私は理解している。外へと開かれた世界へ向けて、日本とは何か、日本人とは何か、を終世書き続けた作家であったが、ウイキペディアを見たところ、読売新聞によると「龍馬がゆく」の発行部数は2400万部とのこと。藤沢周平や池波正太郎と共に、日本人が最も好きな作家の一人である。しかし、奇妙なことに、こうした作家の作品が翻訳され海外で読まれているという話は聞いたことが無い。漢字という表意文字とひらがなという表音文字をもつ日本語の特殊性。しかもコミュニケーションにおける関係によって主語が変わり、丁寧語すらも多様にある。そんな言語を翻訳することは極めて難しいと思う。しかも、司馬作品の底流にある「いたわり」、「他人の痛みを感じること」、こうした日本観、日本人観の理解が更に難しくさせているのだと思う。

「龍馬伝」に話が戻るが、龍馬が勝海舟と出会うことによって、単なる脱藩した浪人から、日本人へと醸造され、蒸留酒にまで至る道程がこれから番組として展開されていく。司馬遼太郎によれば、”国民”という宙空の光芒のような場所が何であるかが主題となる。劇画「龍馬伝」ではどんな描き方をするのか、私の「龍馬伝」の楽しみ方である。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:41│Comments(0)新市場創造
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