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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2010年03月07日

問題点と市場機会

ヒット商品応援団日記No449(毎週2回更新)  2010.3.7.

「問題点と市場機会」という言葉はマーケティング立案の要となるもので、私が若い頃外資系広告代理店に在籍していた頃、戦略を導き出すための方法として盛んに使ってきたものである。一言でいうならば、生活者の問題にこそ、解決すべきヒントやアイディアが隠されているという原理原則のことである。問題点というと堅苦しく聞こえるが、もっと役に立つには、もっと喜んでもらうにはと考えても良い。そして、生活者が困り求めている主要な問題点4〜5つぐらいを左ページに置き、それらに対する解決策を右ページに置き、それら全体を俯瞰的に見据えながら市場の可能性を探るわけである。そうした意味で、徹底した問題点の抽出と分析を行う方法である。

先日NHKの番組で高齢化社会をプラスの面から見直す良き事例が取り上げられていた。社会保障費の負担が増え続け、介護現場には人手不足、・・・・多くの課題を抱えていることは周知のことであるが、この高齢者の介護食に世界の注目が集まっているという。栄養素はもとより味も見た目も優れた介護食が作られており、嚥下障害や摂食障害に対する解決ノウハウも蓄積されつつある。世界一の長寿国ならではの一つの「商品」、輸出可能なビジネスの可能性を持っているということだ。他にも、ロボット技術を生かした介護ロボットも研究されている。これも高齢化社会における問題点=市場機会ということだ。

先日基調講演で訪問した京都府美山でも限界集落が多数存在していた。自然資源を豊富に持つところであるが、高度成長期には都市との交流を活性化するために山にトンネルを掘り道路を整備した。しかし、逆に若い世代はそのトンネルをくぐって都市へと出かけ、人口が流出してしまう、そんな笑えない現実があるところであった。しかし、美山は主産業である林業が衰退していくなかで、その森をマイナスに見ていくのではなく自然観光資源へと転換した、これも良き事例である。100%実施されてはいないと聞いたが、間伐がなされた美しい森林であった。森が保たれていれば、そこに流れる美山川も清流となる。そして、美山の小学校にはプールがなく、夏には美山川がプールになる。結果、そんな自然との生活を求めて若い世代のIターンも増えつつあるという。

昨年のヒット商品の最大特徴の一つが「過去回帰型商品」で、しかも若い世代へと広がっていた点にあった。サントリー角ハイボールやオリンパスペンのようなOLD NEW ・古(いにしえ)が新しいとする過去回帰型商品と共に、映画「Always 三丁目の夕日」ではないが昭和回帰といった「思い出消費型商品」の2つの方向の回帰型商品がある。後者については一時期流行った「揚げパン」のように、小学校の給食で出された揚げパンを懐かしく思う「プチ思い出商品」も含まれる。昨年のお化け商品としてヒットしたベーブレードなどは父親にとっては懐かしいベーゴマであり、子にとっては新しい遊び道具である。
問題点と市場機会という整理の仕方に準じれば、「つらい現実」や「突破したい現実」、あるいは「うまくいかない現実」といった問題を解決するために「楽しかった過去」へと向かう。介護食も美味しかった楽しかった若い時を思い出させ、食べる力を引き出すことへとつながるという。理屈っぽく言えば、過去回帰とは、一種の現実に対する自己癒し、心理的な自己治癒行為としてある。

そして、何よりも重要なことは誰を顧客とし、どの問題の解決にあたるかである。前回も指摘したようにマスメディアからの情報は全て断片情報として扱わなければならない。本来であれば、顧客調査を実施すべきと思うが、多くの費用を必要とし、誰もが実行することは難しい。既にあるそれら断片情報も情報であり、異なる世界の多くの断片情報にも共通項を見出すことも可能である。その共通項こそ顧客が抱えている問題点であるということだ。私が社会的事件を取り扱ったり、どんな歌が流行っているか、どんな本が読まれているか、そんな現象を取り上げるのも共通項としての生活者心理の在り方を見定めるためである。

私は時代転換の踊り場にいるという表現をよく使うが、それだけ問題が奔出しているということでもある。断片情報ばかりで問題を見えなくさせている時代には、「それは本当に問題なのか」と4〜5回繰り返し突き止めたら良い。大小、複雑に絡み合った問題をほどき整理していく作業である。そうすれば問題の本質にたどり着くことができる。そして、最後は思い切ったアイディアに着眼してみることだ。勿論、実行は小さくであるが。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:17│Comments(0)新市場創造
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