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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2010年01月24日

仮想と現実、行ったり来たり

ヒット商品応援団日記No438(毎週2回更新)  2010.1.24.

先日、日本百貨店協会から2009年度の売上高6兆5842億円との発表があった。前年と比較し10.8%減少し、過去最大の下落幅であったと。しかし、この売上規模は1980年代末の売上規模であり、所得水準もほぼ同じ時期となっており、まさに消費は所得の関数であることを表している。特に、百貨店についてはこのブログで何回となくその中心とする中流顧客層が崩壊したことを指摘してきたのでこれ以上は触れない。ただ、所得レベルが20年余前のバブルに向かっていた時期であることを想起すべきで、しかしその市場は1億総中流時代のそれとは根底から異なっていることを再認識すればよい。

その百貨店であるが、西武百貨店とYahooショッピングのコラボレーションによる「人気グルメ&スイーツ お取り寄せ市」に多くの顧客が集まっている。Yahoo!ショッピング食品部門の年間ベストストア2008年第1位の「オーガニックサイバーストア」や2009年上半期第1位の「花畑牧場」の人気商品に加え、ネット通販では体験できない商品のお試しやその場で味わえるイートインもあり、人気を呼んでいる。3月には同様の試みが東武百貨店と楽天市場との間で物産展「楽天市場うまいもの大会」が開催される予定である。日頃、自社以外のネット通販に縁の無かったデパート顧客層と、試すことが出来なくて躊躇していたネット顧客層を互いに取り込む意図で行われたものだ。こうした有店舗と無店舗の組み合わせはファンケルのように以前からあり、最近ではファッション商品などについては欲しい商品を店舗で確認し、安いネット通販で購入するといった女性達も増えている。

また、1/20の日経MJにはインターネットで人気の「脱出ゲーム」を取り上げていたが、倉庫などを使って実際に行うイベント「リアル脱出ゲーム」が話題を集めているという。このイベントへの参加チケットは、早々に完売し常に入手困難とのこと。謎解きのわくわく感やスリルを実体験でき、その上脱出のために参加者同士が協力し合う。そんな「人肌」というアナログ感覚を感じるつながりが意外にネット世代に受けているという。いわば、虚構のネットゲームを実際にリアル体験できることへの着目である。

こうした事例が出始めたというのも、インターネットの生活への普及がかなり浸透定着してきたということだ。もっと簡単に言えば、コンビニがそうであったように、生活の一部としてネットを使いこなすために次の段階に進んできたということである。別の言葉で言うと、仮想と現実、虚構と体験、デジタルとアナログ、流通という視点で言えば無店舗と有店舗、こうした異なる世界を自在に行ったり来たりする段階に至ったということである。そして、流通もこうした行ったり来たりという顧客要望に応えなければならないということだ。

前回、NHKの大河ドラマ「龍馬伝」を引用して、断片情報ばかりが行き交う情報の時代には「複製(虚構)は常にオリジナルの存在を必要とする」と私はブログに書いた。立ち帰るオリジナル、つまり現実、体験、アナログ、有店舗といったオリジナル世界が極めて重要になったということである。過去回帰、歴史回帰もこのオリジナルを探しに出かけるということである。美少女キャラをパッケージに使いあきたこまちをネット通販し注目を集めた秋田県羽後町の村起こしに、美少女アニメオタクが羽後町を訪問するのも、いわば虚構の美少女アニメの故郷訪問であり、こうしたオリジナル体験確認のようなものである。勿論、前回書いたように龍馬ゆかりの地の旅も同様である。そして、気をつけなければならないことは往々にして一過性のブームで終わってしまうことにある。つまり、仮想と現実、虚構と体験、これらの「行ったり来たり」全体を視野に入れたビジネスを考えなければならないということである。

さて、こうしたネットストアと既存店舗流通によるクロスメディア化はこれからも進んでいくと思う。私の友人も健食や美容関連のサプリメントの有店舗販売とネットストアを組み合わせているが、それぞれ売れ筋商品は異なるものの相乗効果が生まれ順調に売上を伸ばしている。こうした多大な投資は難しいとする個人商店の場合は、課題は仮想と現実、虚構と体験、これらを組み合わせることにある。小さな成功例であるが、ネットストアを運営しながら、その購入顧客の中からママ友グループのリーダー候補を選び、サンプル品や売価を安くしたりといったインセンティブをつけ、いわゆるママ友リーダーの使用体験を通じた共同購入を促進していく仕組みが採られているストアがある。ネット上でのサンプル投入はコストがかかる、使用体験してもらうにもどんな方法を採れば良いのか、こうした難しいネットストアの問題解決法の一つだ。
インターネットの世界が特別なものではなく日常化した時代では、仮想と現実、行ったり来たりを視野に入れた全体ビジネスを考えなければならない。 (続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:41│Comments(0)新市場創造
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