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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年12月06日

2009年ヒット商品番付を読み解く

ヒット商品応援団日記No425(毎週2回更新)  2009.12.6.

日経MJから今年度のヒット商品番付が発表された。毎年、ヒット商品がどんな消費傾向によるものなのか読み解いてきたが、番付に入った商品の多くはこの一年間ブログで取り上げてきた商品がほとんどである。同じことを書いても仕方がないが、一年間の整理の意味で、私なりに読み解いてみたい。
全体に言えることだが、パラダイム転換期という時代の踊り場に立ち止まり、「次なる何か」を探しに出かけている「消費者像」が目に浮かぶ。探しに出かけるところは「過去」であったり、「環境・エコ」であったり、あるいは生活防衛のための「価格」といったところである。

東横綱 エコカー、 西横綱 激安ジーンズ
東大関 フリー、    西大関 LED
東関脇 規格外野菜、西関脇 餃子の王将
東小結 下取り、   西小結 ツィッター
東西前頭 アタックNeo、ドラクエ9、ファストファッション、フィッツ、韓国旅行、仏像、新型インフル対策グッズ、ウーノ フォグバー、お弁当、THIS IS IT、戦国BASARA、ランニング&サイクリング、PEN E-P1、ザ・ビートルズリマスター盤CD、ベイブレード、ダウニー、山崎豊子、1Q84、ポメラ、けいおん!、シニア・ビューティ、蒸気レスIH炊飯器、粉もん、ハイボール、sweet、LABII日本総本店、い・ろ・は・す、ノート、

1、「過去」へ、失われた何かと新しさを求めて

大仰に言うならば、戦後の工業化・近代化(都市化)によって失われたものを過去に遡って取り戻す、回帰傾向が顕著に出た一年であった。しかも、今年の特徴は、数年前までの団塊シニア中心の回帰型消費が若い世代にも拡大してきたことにある。復刻、リバイバル、レトロ、こうしたキーワードがあてはまる商品が前頭に並んでいる。花王の白髪染め「ブローネ」を始めとした「シニア・ビューティ」をテーマとした青春フィードバック商品群。1986年に登場したあのドラクエの「ドラクエ9」は出荷本数は優に400万本を超えた。ブログにも書いたが、若い世代にとって温故知新であるサントリー角の「ハイボール」。私にとって、知らなかったヒット商品の一つであったのが、現代版ベーゴマの「ベイブレード」で、昨夏の発売以来1100万個売り上げたお化け商品。この延長線上に、東京台場に等身大立像で登場した「機動戦士ガンダム」や神戸の「鉄人28号」に話題が集まった。あるいは、オリンパスの一眼レフ「PEN E-P1」もレトロデザインで一種の復刻版カメラだ。売れない音楽業界で売れたのが「ザ・ビートルズ リマスター版CD」であり、同様に売れない出版業界で売れたのが山崎豊子の「不毛地帯」「沈まぬ太陽」で共に100万部を超えた。
更に、今年の特徴の一つが「歴史回帰」である。国宝阿修羅像展についてはブログにも書いたので省くが、歴女ブームの火付け役となったのが「戦国BASARA」で、累計150万本売ったとのこと。
こうしたヒット商品番付に載るほどのヒットではないが、2年前にネット通販で話題となった「美少女キャラのお米」がある。秋田羽後町出身の編集者が村起こしとして企画したものだが、その包装ビジュアルには「美少女と日本の田園風景」が描かれていて、実は羽後町を多くの若者が訪れているという。こうした傾向も今なお残っている日本の原風景への、いわばオタク文化・美少女キャラを通じた「故郷回帰」の一つであろう。あるいは、私たちより上の世代にとって竹久夢二は大正ロマンのシンボルであったが、現代の若者にとってはメイド喫茶や萌え系キャラは平成ロマンのシンボルということになる。故郷を持たない都市漂流している若者にとって、虚構であるキャラクターの向こう側に、リアルな故郷を見出したということだ。歴史の向こう側に、あるいは昭和の遊びやゲーム、音楽や書籍に何を求めているのか多様さはあるものの、こうしたタイムトンネル型消費傾向は当分の間続く。

2、「エコ」は生活そのもの、持続する新しい合理的ライフスタイルへ

誰もが予測したように「エコカー(HV車)」、「LED電球」、「下取りシステム」といったエコ商品、省エネ商品、循環型生活への意識化の仕組みが番付けに入った。その他前頭には以前ヒットするであろうと書いた花王の「アタック Neo」という節水型洗剤やエコ容器のコカ・コーラの「い・ろ・は・す」も入った。
エコカー・LEDがヒット商品となったのも買いやすい価格へとハードルが下げられたことによる。前者は周知の官製販促である減税・補助金であり、後者は競合の参入による市場拡大に伴う価格ダウンによるものであった。しかも、両商品共に、燃費や耐久性といった観点から「お得な買い物」という商品である。
このように、生活者にとってエコライフも「お得」な省マネーの時代へと既に入っているということだ。つまり、「省」という視点で商品やサービスを見直してみるということである。省エネから始まり、省スペース、省時間、省人。人についてもそうであるが、省く(はぶく)という単純な意味ではなく、生かし切れているかという意味も含めてである。今までのライフスタイル変化の中心は省時間であった。特に、都市型ライフスタイルの場合夫婦共稼ぎが多く、全てが時間に追われる生活であった。そうした意味で、省時間型道具、省時間型サービス、省時間型メニューに注目が集まり、いわば「便利さ」を生活へと取り入れてきた。しかし、こうした便利さを買ってきたライフスタイルから、省マネー型、しかもエコ型という新たな合理的なライフスタイル、しかもセルフスタイルへと変化し始めたと理解すべきであろう。
まだ、CO2の排出量取引の価格設定が定かではないが、中長期的に見た場合「エコはお得」という新しい価値観が生活にも産業においても確立された時、省エネ技術大国である日本は独自な国家になり得ると思う。つまり、全てに於いてエコな生活となり、それが普通であるという価値観へと進化していく。エコ経済、エコ社会の良きモデルが江戸であったように、東京を始めとした都市はエコな街づくりへと向かっていく。

3、「価格」の津波は、あらゆる商品、流通業態、消費の在り方を根底から変える

少し前にファミレスの元祖「すかいら〜く」の最後の1店がクローズした時、新たな価格帯へと再編されてきたことを「新価格帯市場」というキーワードを使ってブログにも書いた。ファミレスにおいては客単価1000円の「すかいら〜く」業態は客単価750円の「ガスト」業態に再編した。今回の番付にも、西の横綱の激安ジーンズは1000円以下、東の関脇の規格外野菜はわけあり価格、西の関脇の餃子の王将は安くて満腹、前頭のファストファッションは「フォーエバー21」のように上から下までコーディネートして1万円以下、更には韓国旅行、お弁当、sweet(宝島社)、・・・・・新たな価格帯市場を形成したシンボリックな商品が並んでいる。どれもこれもブログで書いてきた商品ばかりなので個々については触れないが、こうしたシンボリックな商品の価格帯を軸にして市場は再編されるということである。消費は収入の関数であり、この10年間で年間100万円収入が減少した時代にあっては至極当然のこととしてある。前回の番付に「ひき肉ともやし」が入っていて確かに不況期に売れる商品であるが、日経MJが載せることではないだろうと書いた。今回も同じ意味合いで「粉もん」(お好み焼き粉)が入っている。確かに、こうした不況型商品が売れる傾向は続いているということである。
こうした生活者の価格意識に合わせるように、次々と新価格帯市場形成へと参入が始まっている。例えば、売れない音楽業界にあってTSUTAYAはCDのPB化によって999円で発売すると発表があった。JALの地方空港撤退に伴って、その隙き間を埋めるように本格的なLCC(ローコストキャリア)が生まれた。物流大手の鈴与はFDA(フジドリームエアライン)を誕生させ、燃費の良い小型機2機からスタートするという。街角には必ず置いてある自販機であるが、昨年大阪でゲリラ的に80円台の飲料自販機が現れ、その波は東京にも出始めている。今年もミシュランガイドが発表されたが、ほとんど話題にすらならない。逆に、B級グルメを競う「B-1グランプリ」に行列する、そんな空気感が支配している。数年前までは居酒屋の客単価は3000円であったが、この1年ほど前からは2000円となった。しかし、最近では1000円となり、先日の朝日新聞は「せんべろ酒場」と表現していた。「千円でべろべろに酔うことが出来る」という意味で、これが笑えない現実である。

さて、こうしたヒット商品を見ていくと新たな価値観を求めながらも堅実な消費を求めるといった、生活仕分けが進んでいることが分かる。今年の年末消費を見ても、クリスマス用のホールケーキは小さくなり、福袋も実物を見て予約販売するといった先行バーゲンのような売り方となった。年末年始の旅行予約も安近短の韓国旅行が人気だという。縮小というキーワードが使われると思うが、私は数年前から消費は好みといった厳選から量や回数を減らす減選へ、便利さからセルフ方式へとゆるやかに移行してきたと指摘してきた。生活仕分けという俯瞰的視点に立ったキーワードであれば、まさに「省」の時代に入ったということだ。今年の流行語大賞は「政権交代」であったが、消費も「便利さ」から「省」へと交代したと言うことである。(続く)


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