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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年09月20日

もう一つのビジネス大国ニッポン

ヒット商品応援団日記No403(毎週2回更新)  2009.9.20.

鳩山新政権が矢継ぎ早にマニフェスト実行に取りかかっている。共同通信を始めとした世論調査では各社70%を超える高い支持率である。政権交代という変化を望んでの選挙ではあったが、多くの生活者にとって、新政権が行う変化がどんなものであるか、まだまだ分からない。こうした現実に応えるためのスピードあるアクションであろう。しかし、もう一つの理由は、恐らく今年の11月末頃には雇用を含めた不況の深刻さが更に拡大することが分かってのことだ。昨年秋、H&Mが銀座に出店した時、銀座の風景が変わったと私はブログにも書いた。それと同じような光景が福岡にも及んでいると、9月18日の日経MJが1面で報じている。「低価格店主役 街の顔がらり」という見出しである。基準地価が2年連続して下落したことを受けての商業の変貌である。

変化とは、既成、既得権益者にとって生き残る術を探ることであり、一方その変化をチャンスに変えようとする人々との戦いでもある。必ず、混乱、混迷、時には予想外の痛みも伴う。群馬八ツ場ダム工事中止ばかりでなく、政治が変わるとはビジネスの在り方も、生活の在り方も変わるということである。今回の政権交代に一番注目していたのは海外メディアであった。概ねどんな変化を見せるか注目したいとする好意的なものであったが、逆に日本国内の方が変化を遠巻きにして見ているような感がしてならない。そうした変化への視点の違い、視座の違いについて書いてみたい。

この政治変化に対する外国と日本の受け止め方の違いは日本文化の受け止め方の違いと良く似ている。数年前から、日本のコミックやアニメといったサブカルチャーに対し、欧米では「ジャパン・クール」というキーワードで広く知られていた。そのきっかけとなったのが、周知の宮崎駿監督の「千と千尋の神隠し」がアカデミー賞最優秀長編アニメ賞受賞に始まる。1995年以降、こうした注目を追いかけるように「機動戦士ガンダム」や「どらえもん」といったアニメが世界へと浸透していった。勿論、そうしたアニメと併行して「ポケモン」などのコンピュータゲームも世界へと広がっていくのだが。一言でいえば、日本人が知らないところで、世界中から高い評価を受けていたということだ。

2000年代に入るとイタリアやフランスでは禅ブームが起きたり、確か3年ほど前だと思うが北米全体のジャパニーズレストラン登録は1万店近くにまで至っている。勿論、そのオーナーの多くは米国人や中国人であるが、寿司はsushi barとなって世界都市へと広がったことは周知の通りである。世界の人達は、sonyやHondaと同じようにジャパンブランドとしてアニメやコミック、あるいは禅や寿司といった日本文化の理解をしているということだ。

こうしたいわゆるコンテンツ産業が周辺産業のキラーコンテンツとなっていることに、日本人の理解はごくごく限られた人達だけとなっている。秋葉原を歩けば分かるが、家電量販店とアニメソフトといった集積の周辺には、例えばメイド喫茶といったアンダーグランドファッション、コスプレのようなニュースタイルが生まれ、そうしたスタイルは既に韓国や中国の若者へと浸透している。1990年代半ば、エヴァンゲリオンを最後に真性オタク(おたく)はいなくなるが、産み出したサブカルチャーはマスプロダクト化され、表舞台へと出てくる。その先にグローバル化という市場があったということだ。

実はこうしたコンテンツ産業の原型は江戸時代にある。今日のライフスタイルの原型が江戸時代にあることは私の持論でもあるが、コンテンツ産業としても立派に成立をしていた。浮世絵、歌舞伎、人形浄瑠璃、落語、といったエンターテイメント(娯楽)ビジネスであるが、特に浮世絵は見事なくらいにプロジェクト化されており、今日私たちが耳にする写楽や北斎はプロジェクトチーム名のことである。「案じ役」というプロデューサーのもとに、絵師(画工)、「彫り師」、「刷り師」が集まりチームとして活動していた。こうした浮世絵を支えていたのが、「連」という好き者、職業や年齢、性別を超えて「好き」という一点で集まった集団によってであった。今日でいうところの「オタク」である。この連を束ねた総合プロデューサーの一人が蔦屋重三郎と言われている。今日で言うと、ご本人も浮世絵に影響を受けたと言っている村上隆氏によるアーチスト集団「カイカイキキ」といったところである。

日本は製造業、モノづくりの国と言われてきた。しかし、そうしたモノづくり評価と共に、こうしたサブカルチャーが世界中に輸出されている。ある意味、「モノづくり」と対比した言い方をするならば、「物語づくり」と言える。今、新政権発足と共に、日本の進むべき道について成長戦略か成熟戦略かが議論されている。成長戦略のシンボル的存在をユニクロとするならば、成熟戦略としてはサブカルチャーにおける物語づくり産業、コンテンツ産業だと私は思っている。考えがまとまったら書こうと思っているが、ブランドという文化販売の再生に、この「物語づくり」戦略が鍵になることだけは間違いない。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 14:17│Comments(0)新市場創造
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