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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年08月31日

成熟した消費へ

ヒット商品応援団日記No396(毎週2回更新)  2009.8.31.

予測通り、民主党政権が生まれることとなった。この4年ほどの間、消費に影響を与えるであろう事柄や変化するであろう新たな消費の芽、既に起こった消費変化の「何故」・・・・・こうしたことをブログに書いてきたのだが、今回の衆院選挙結果ほど直接消費を反映したことはなかった。私の言葉で言えば、多様な判断によってであるが、消費変化は選挙結果を物の見事に映し出した。格差という言葉が貧困に変わり、エブリデーロープライスがごく普通のこととなり、大手流通も軒並み新たなディスカウント業態を出店するようになった。行列の先には250円弁当や500円のデパ地下弁当、あるいはつめ放題イベント。提供者も利用顧客もわけあり商品を探り、生活のあらゆるところにアウトレット化が浸透した。今夏、エコポイントの付いたエアコンは売れなかったが、その代替商品として除湿器が売れた。選挙結果については多様なことの結果ではあるが、消費という面においては、この10年間で100万円の所得が減少した結果をストレートに反映している。

この10年ほど、沖縄、鳥取、大阪・京都に行くことが多かった。行けば、必ず商業施設や商店街、市場を歩いて見て回る。どんな店が新しく出来、どんな店が退店したか、店頭に並ぶ商品や価格を見て回ったが、定点観測的に言うと、圧倒的に人通りが減って賑わいが見られないという点であった。勿論、観光コースから外れた横丁や路地裏であるが、本来あるべき生活の臭いがどんどん消えている感がしてならない。暑い沖縄にも関わらずひんやりと澱んだ空気のコザの商店街しかり、那覇国際通りから市場通りを抜けた先のサンライズ商店街もそうしたところの一つだ。鳥取駅から県庁へと真直ぐに伸びた商店街もシャッター通り化している。この通りに交差するように広がる飲食街も、夜7時過ぎにも関わらず歩く人は極めて少ない。

周知のように沖縄では完全失業率は20%を超えたままとなっている。働く場と生活する場とは本来一体であり、そこから地域固有の臭いがしてくるものだ。鳥取では若者の人口流出が止まらず、数年前から60万人を切り全国一の小さな県である。民主党のマニフェストには地域主権とあるが、その具体的政策の多くは書かれてはいない。今まで財源論や道州制のような行革論はあっても、「何で食べていくのか」という産業創造についてである。この地域主権の中心に、何で食べていくのかを置き、それは地域自身がシナリオを書かなければならない。その延長線上に、結果として道州制のような行政再編があっても良い。

少し前に「子育て支援」について書いたが、高速道無料化についても判断するのは私たち自身となる。従来の税金の使われ方は、道路であったり、建物であったり、企業や団体への支援であったり、そうしたことを通じて税金が使われてきた。そうしたことの間接的な結果として、消費に回ったり、貯蓄に回したりして生活が運営されてきた。しかし、民主党の「子育て支援」をユニークで面白い政策であると評価したのは、こうした中間的な企業や団体、組織を介さずに、ダイレクトに生活者に対し支援する発想・方法であった。ある政治家は子育て支援金がパチンコに使われたら生活支援にはならないと指摘していたが、生活者をバカにした発言であろう。しかし、使い方、内容については生活者個人へと、いわば自己責任にまかせるということだ。高速道の利用についても、排ガスという環境問題を判断するということだ。ある意味、生活者の成熟度がためされると言っても過言ではない。

新しい政権を選択したとは、一人ひとりが特定領域ではあるが、自己責任として引き受けるということである。従来であれば、政治家まかせで「何か期待できそう」と一票を投じてきたが、選挙後も少しではあるが何かを引き受けるということだ。このことは大きく消費の在り方を変える。消費を単なる経済行為として、好きだから買っていた世界から、もう一つの意味を求められていることを自覚することとなる。例えば、スイスのように隣の農産物輸出大国フランスから安価な商品が流入するが、政府の助成を受けながらではあるが、自国商品を使い育ててきたのがスイスの消費者、生活者である。そこには単に安いからという理由だけで商品を選択する訳ではない。「暴走する資本主義」を書いたロバート・ライシュが指摘したように、生活者は消費者であり、投資家であり、そして良き市民であるべきという「成熟さ」をスイス国民に見出すが、日本もまたそうした認識が求められている。

この数年間、「わけあり消費」に代表されるように工夫・アイディアを巧みに使って生活してきた。この体験は以降の消費の基礎となることは間違いない。良い意味で学習してきたということだ。新しい政権が誕生してもすぐ経済が良くなり、所得が増えるとは誰も考えてはいない。私が消費氷河期の入り口まで来ていると指摘してきたが、多くの生活者が実感していると思う。へたをすると新型インフルエンザによって本格的な氷河期に入ってしまう恐れもある。しかし、ここ数年の体験学習によって新しい消費への考え方が生まれてきたと思う。どんな考え方によるライフスタイルなのか、未だ適切なキーワードにはなり得ていないが、成熟した消費に向かっていくことだけは間違いない。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 10:45│Comments(0)新市場創造
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