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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年08月26日

政権交代で消費は回復するか

ヒット商品応援団日記No395(毎週2回更新)  2009.8.26.

大手新聞社を始めマスメディアが行った世論調査では、そのほとんどが民主党による政権交代が確実であると。いささか先走ったテーマであるが、その政権交代によって、どんな変化が生まれるのか、私の専門は消費論であることから、その消費変化について書いてみたい。
前回、新型インフルエンザによって、消費は巣ごもりから氷河期に向かったと書いたばかりである。新しい政権が、まず立ち向かわなければならない困難さがこの新型インフルエンザとの戦いである。米国CNNは秋から冬にかけての感染者は米国民の30〜50%を占め、180万人が入院すると予測されていると報じている。消費もそうであるが、不安の時代、自己防衛の時代とは、一言でいえば信用できない社会にいるとの認識である。信用できるのは自分と家族、それに長く付き合った分かり合える人達だけだ。以前、そうした信用が収縮する時代の消費について次のように書いたことがあった。
y(消費)=a(収入)x(信用)
「信用」足り得る社会が存在しえて初めて消費は活性されるが、消費に回せる収入はこの10年間で100万円減少した。新政権がまずすべきは、いや新型インフルエンザのウイルスは予想を越えたスピードで襲ってきており、超党派でこの「信用」を回復することだ。新型インフルエンザの本格的流行に対し、政府などのパフォーマンスはいらない。現場の医師達が戦える環境づくりと予算を作ることだ。そして、米国のように、もしワクチンの副作用によって亡くなる人が出た場合、国が保証するということだ。こうした新型インフルエンザ流行への対応のなかに、信頼回復への芽がある。収入がすぐには増えないと誰もが思っており、まずすべきは信用収縮の連鎖を断ち切ることだ。

新政権への信頼は、「新しい」政策への期待として現れてくる。その新しさが期待に沿うものであるか否かである。その新しさの象徴となっているのが、「子育て支援」であろう。現政権が行ってきた定額給付金やエコカー取得の減税、あるいはエコポイント付き電気製品などは一種の「分配政策」であるが、購入者や商品が偏っていることから内需拡大の面では限定的であった。つまり、車も家電も買い替え需要の前倒しであり、買える人だけの減税措置ということだ。
今回の「子育て支援」がユニークなのはその規模(年間5.5兆円)もさることながら、子育てファミリーという所得減少が一番生活に影響を与える対象世帯であることと、単発ではない子供通じ将来が見える継続的制度あることから、消費にはダイレクトに反映される。他の政策が消費という経済効果に結びつくにはかなりの時間を必要とするのに対し、この子育て支援はストレートに消費に向かう。

この「子育て支援」をもっと平易に表現するならば、極論ではあるが社会が子供を育てるということである。江戸時代の長屋社会の現代版といったところであると理解している。例えば、江戸時代にも不倫をし子を産むが子を残して失踪する若い娘もいたようである。大家というコミュニティリーダーは、授かった生命を長屋という社会で育てていたことを彷彿とさせる制度だ。しかし、育てるにはお金も必要となる。面白いことに、例えば江戸時代では便所の排泄物を農作物の肥料として結構な金額で販売し、大家は長屋運営の収入としていた。いくつか資料が残されているが、年間2〜3両位の収入になっていたようである。こうした売買が加熱し、高額で取引する業者も出てきて幕府は規制するぐらいのエコ社会(工夫社会)であった。

「子育て支援」の考え方に象徴的に現れているが、1990年代半ば以降米国に見習った日本の与党の言う「成長戦略」とは根本的に異なるものである。この成長戦略とは、企業であれ、個人であれ、「頑張った者が報われる社会」を目指した戦略と言えよう。この一部の「頑張り」が市場全体を引っ張っていくという考え方である。しかし、こうした競争は格差を生み、しかも構造化してしまう結果となったことは周知の通りである。日本の場合、成長を促す「頑張り」を大企業、輸出企業、投資家と言っても間違いはないと思う。政権交代が実行された場合図式化してみると、大企業から中小企業へ、輸出企業から内需企業へ、投資家から生活者へと、「頑張る」主体を変えたということだ。「子育て支援」はこの生活者に頑張ってもらおうということである。

もう少し分かりやすく言うと、従来は公共事業といった財政支出を通じて景気回復を行い、結果消費に結びつける考え方であった。しかし、今回の「子育て支援」はダイレクトに行うもので、消費に結びつくか否かはすぐに結果が出る政策である。他にも、大企業から中小企業へ、輸出企業から内需企業へという図式で比較すると、今まではグローバル競争に勝っていくために法人税率を大幅に引き下げられてきたが、民主党は大企業向け法人税率を据え置き、様々な租税特別措置を廃止する予定で、大企業は実質増税になる可能性がある。一方、中小企業向けの税率を11%へ引き下げる上、中小企業向け予算も大幅に増やす予定であるため、政権交代によって中小企業が恩恵を受けるであろう。

恐らく、政権交代が実行された場合、江戸時代の長屋社会の大家ではないが、「頑張った人が報われる社会」から「頑張れる人が報いる社会」へと社会価値観が大きく変化していくと思う。昨年のダボス会議で、あのマイクロソフトのビルゲイツが「創造的資本主義」(Creative Capitalism)を提唱していたことを思いだす。
「わたしは楽観主義者だが、同時にせっかちな人間でもある。現状のスピードに満足していないし、このままではすべての人々に行き渡るものではないだろう。世界の先進地域が富の偏在を加速させ、一方で日々の生活費が1ドル未満で水や食料さえ満足に得られない人々がいる。純粋な資本主義では、人々が豊かになればより社会が豊かになり、人々が貧しくなれば停滞、やがてゼロへと向かう。われわれは豊かな人々と同様に、貧しい人々にも貢献するような道を見つけなければならない」(2008年1月ダボス会議での講演より)

私の言葉で言うと、パラダイムチェンジ(価値の転換)ということになる。勿論、政治、経済、社会、といった大きな枠組みの転換であるが、何よりも生活者自身の価値観を変えていくということだ。「子育て支援」もそうであるが、消費氷河期の入り口まで来ている情況にあって、消費には若干薄日がさす程度であろう。消費の原則は、未来に対し楽観的であるか、悲観的であるかによって決まる。そして、収入は更に減ることはあっても増えることはない。私がこの1年半ほど価格に関して書いてきたが、この傾向は更に進化していく。1ヶ月ほど前にエコポイント対象商品であるクーラーが売れていないと書いた。売れている商品の一つが除湿器であるという。7月は雨が多い月で、室内干しには除湿器で間に合わせるという、いわばクーラーの代替商品ということである。ここにも消費移動が起きていたということだ。こうした代替消費はこれからも続くが、「子育て支援」が満額実施される来年からは少しの晴れ間が見られるかもしれない。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:43│Comments(0)新市場創造
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