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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年08月19日

観光産業の次なるパラダイム

ヒット商品応援団日記No393(毎週2回更新)  2009.8.19.

今年のお盆時期の高速道利用が例年以上に増え、30km以上の渋滞率が昨年の2.3倍にもなったと報じられた。勿論、1000円乗り放題という割引制度によるものであるが、都心から地方への移動よりも、地方から都心への車移動がかなり多かったようだ。いつもならばガラガラの都心であるが、今年は他府県ナンバーの車が至る所で見受けられた。いわゆる「都市観光」であるが、東京の場合はTOKYOという世界の「今」、その新しい、面白い、珍しい出来事集積の魅力を求めてである。ライブコンサートを始め多くのイベントがこの時期組まれているが、その象徴が東京ディズニーリゾートである。まだ、夏休み期間が終わっていないので、その集客数の増減結果が得られていないが、昨年はオープン25周年という特別な時であり、恐らくマイナスになることが予測される。もし、大きく昨年度を割り込むことになったら、本格的な消費氷河期に入るということだ。

ここに面白い事例がある。千葉県の森田知事の公約であった東京湾アクアライン料金が8月1日から800円となったが、その値下げ効果についてである。今年の5月の連休中の木更津市のデータによると、
東京・横浜→千葉県/1万7300台、千葉県→東京・横浜/1万8300台 となっている。
この移動台数が800円によってどう変わるかであるが、間違いなく千葉県から東京・横浜へと流出する台数の方が更に大きくなる。つまり、木更津市内の商業施設は更にガラガラになる。こんなことは当たり前のことで、横浜にはアウトレットを始めとした巨大な商業集積がある。一方、千葉県には房総の鴨川シーワールドやマザー牧場といった観光地があるが、どちらが顧客吸引の魅力集積があるか、考えるまでもない。

JTBは「安近短」という日帰り観光需要に答えるべく、地域資源(温泉等)を活用したプランを携帯やPCで予約&決済できるJTBウォレットを7月に急遽発売した。ファストフーズ、ファストファッション、という言い方をするならばファストツアーであろう。また、最近の日帰り観光メニューの中心になりつつあるのが、観光バスによるアウトレット日帰り旅行である。高速道の割引制度が常態化することとは、地方から都市への移動がより活性化する。都市から地方へと移動を促すには今以上の地域資源の特徴集積をはからなければ地域間競争に勝つことはできないということだ。

年間所得100万円減少時代という生活のあらゆるところに行き渡る数年前までは、一点突破戦略ではないが、際立つ特徴によって観光集客が可能であった。例えば、宮崎県の綾町は、日本一の照葉樹林のある村で、ここに大きな吊り橋をかけ年間100万人もの観光客が訪れてるようになった。古くは、大分湯布院や熊本黒川温泉、滋賀県長浜の黒壁、こうした地方に多くの観光客が訪れるようになったのも、かたくなに里山や町並み、小川、樹林、こうした自然や文化を守って来た結果であった。それが都市生活者にとって魅力となってきたということだ。
ところが、最近の人気観光地にはもう一つの要素が加わるようになった。それは「お得感」ということになる。山梨に「ほったらかし温泉」という絶景露天風呂がある。”星空が天井”という謳い文句のように他にはない眺望をもつ温泉である。この温泉には「あっちの湯」と「こっちの湯」というユニークなネーミングの湯がある。(最近ではペット用の「わんこの湯」もオープンしたようである)開業当時、お金が無かったこともあり、従業員3人でスタートした温泉で、いわばセルフ式の温泉である。入浴料は大人700円、小学六年生以下400円という安さである。ここ数回、百貨店マーケットを事例に取り上げてきたが、観光マーケットも百貨店を支えてきたマスマーケットと重なっている。

少し前に、旅館やホテルにまで「わけあり商品」の波が押し寄せているとブログに書いた。例えば、オーシャンビューではない部屋は半額にするといった具合である。既にこの夏、H.I.S.は「航空会社を選ぶことは出来ない代わりに安いツアー」という安さのわけあり理由を明確にしている。あるいは従来であれば部屋でとる食事は、大きなホールでのブッフェスタイルというセルフ式にリニューアルし、少しでも安い価格で提供できる旅館が増えてきた。「ほったらかし温泉」ではないが、ホスピタリティというサービス業においても、こうしたセルフ式が多くなるであろう。

周知の激安旅館ホテルのアウトレットで注目されているトクー!トラベルのようなところも出てきた。一休は高級ホテル・旅館を対象としてきたが、トクー!トラベルはごく普通の旅館やホテルを対象とした廉価版である。海外激安航空チケットで急成長したH.I.S.に象徴される時代を第一次価格破壊期とするならば、次の段階に進んできたと言えよう。前回イオンの880円ジーンズを第二次価格破壊期に向かっていると書いたが、観光産業においても同様である。但し、間違ってはならない。ただ、安いだけの価格破壊はブームがそうであるように一定期間で終わる。一番心配なのは「安全」である。わけありに嘘が含まれていることが分かったとたん、しかもそれが健康や生命に関わることであった時、瞬時に「わけありブーム」は終わる。しかも、情報の時代は常に情報偽装が裏に隠されていると理解した方が良い。このブログを書いている最中に、10月1日から燃油サーチャージが再びかかるとの報道があった。ある意味、観光産業も2度目のサバイバル時代に向かうということだ。更に、3人の方が新型インフルエンザによって亡くなられたことを受けて、政府は本格的な新型インフルエンザの流行が始まったと発表した。悪い予感であるが、観光産業が一番早く消費氷河期を迎えるかもしれない。

この時代重要なことは、原則として価格を超える「何か」、そうした新しい価値創造にチャレンジすることだ。百貨店はグループ企業が開発したPB商品の売り場を拡充したり、新たな市場として中国出店を加速させているが、観光産業も同じ岐路に立たされている。つまり、アウトバウンドからインバウンド(中国富裕層の招致など)への転換、国内においてはPB商品という低価格旅行の実現ということになる。消費は未来に対し、悲観的であるか、楽観的であるかによって決まる。回りを見ても悲観的なことばかりの時代である。巣ごもり生活にあって、一番影響を受けるのが観光産業だ。これは私の持論であるが、「今」という既成を壊すことによってしか、未来には届かない。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:09│Comments(0)新市場創造
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