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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年07月15日

老舗への着眼

ヒット商品応援団日記No383(毎週2回更新)  2009.7.15.

以前、世界で最古の会社である金剛組について書いたことがあった。創業1400年以上、聖徳太子の招聘で朝鮮半島の百済から来た3人の工匠の一人が創業したと言われ、日本書紀にも書かれている宮大工の会社である。何故、1400年以上も生き残ってきたのか。実は日本ほど老舗企業が今なお活動している国はない。創業200年以上の老舗企業ではだんとつ日本が1位で約3000社、2位がドイツで約800社、3位はオランドの約200社、米国は4位でなんと14社しかない。何故、日本だけが今なお生き残り活動しえているのであろうか。大不況と言われている今日、乗り越えるためのヒントがある。

その金剛組であるが、最大の危機は明治維新で、廃仏毀釈の嵐が全国に吹き荒れ、寺社仏閣からの仕事依頼が激減した時だと言われている。明治政府が行った神仏分離令であるが、その意図を超えて廃仏運動へと全国へと広がり、有名な話では国宝に指定されている興福寺の五重塔が売りに出され薪にされようとしたほどの混乱であった。
更に試練は以降も続き、今回の大不況と同じように米国発の昭和恐慌の頃、仕事はほとんど無く、三十七代目はご先祖様に申し訳ないと割腹自殺を遂げている。何がそこまで駆り立てるのか、守り、継承させていくものは何か、老舗に学ぶ点はそこにある。今風に言えば、ブランド価値とは何んであるか、ということにもつながっている。

金剛組の場合は、宮大工という仕事にその「何か」があると思う。宮大工という仕事はその表面からはできの善し悪しは分からない。200年後、300年後に建物を解体した時、初めてその技がわかるというものだ。見えない技、これが伝統と言えるのかも知れないが、見えないものであることを信じられる社会・風土、顧客が日本にあればこそ、世界最古の会社の存続を可能にしたと思う。金剛組の場合、数年前にも経営危機があり、潰させてはいけないと、同じ大阪の高松建設が支援に動いたと聞いている。前回、榊原英資氏が提案する「日本回帰」もこうした価値観を持った社会、風土だと思う。

日本には「用の美」という考え、いや美学思想がある。勿体ない精神の根底にある美学、使い続ける美学、生活美学。少し理屈っぽくなるが、使われ続けるという時を積み重ね、何層にも積み重ねられた顧客の使用価値集積の美学と言った方が分かりやすい。そこには「あっ」と驚くような美はないが、何故かしっくりする、手に馴染む、変わらないけれどそれがうれしい、そんな美への共感である。食で言えば、変わらぬ味、ふっと和む味、何度食べても飽きない味、そんな表現となる。そうした美への共感を元に、実は「信用」が生まれてくる。私たちは、それを「暖簾」と呼んできた。暖簾をブランドに置き換えても同じである。それは大企業であれ、商店街のお惣菜屋でも同じである。大きな価値潮流に置き換えて言うと、トレンドライフから、ロングライフへと価値の転換が起き始めているということだ。

今モノが売れない、価格しか競争力はないと言われ、激しい市場競争下統合再編が起きている。これは一つの生き残り策であると思う。もう一つはやはりこうした老舗の生き方に学ぶことだ。金剛組の場合は、外側からは見えない、何百年後かには分かってもらえる、そんな視座が必要ではないかと思う。「非競争の力」とでも表現すると、オリジナリティやオンリーワンといったキーワードを思い浮かべると思うが、何のためにビジネスするのかといった原初的なことだ。変化を追い求め、わずか1年半ほどで数百店舗にまで急成長した専門店が、その臨界点を超え急速に売上を落としている事例は山ほどある。これは変化市場で生き抜くために通らなければならない壁である。しかし、一方で非競争という視座に立てば、こうした壁はない。あるのは「変わらぬ何かであり、変えない何か」である。そうした継続力を真剣に、誠実に、納得のいく品質で、・・・・日本に少し前までごく当たり前であった商人・職人の心構えや技に着眼すべきということだ。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:38│Comments(0)新市場創造
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