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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2007年04月18日

自分確認市場

ヒット商品応援団日記No159(毎週2回更新)  2007.4.18.

総世帯数が5000万を超え、生活スタイルはもとより生活単位においても個人化が進行している時代である。こうした一種バラバラな時代にあって、常に「自分確認」が必要となり、目に見えない様々な不安が確認を更に促す。自分確認をし何かに帰属させたいとアニメやフィギュアという虚構の世界に求める人を「オタク」と呼んでいる。一方現実世界の自分を「自分にご褒美」という形の消費によって確認する市場を「ミーギフト」と私たちは呼んでいる。この2つの市場は個人化という根っこのところではつながっており、その消費という表現の仕方が異なっているだけである。
ところで、自分確認は自分自身で行うことと共に、回りの人達との関係確認という市場をも形成する。帰属する共同体との関係、絆を確認し合うアイデンティティのことであり、一般的には記念日や行事といわれているものだ。会社という共同体ではバレンタインデーといった関係確認であったり、家族という共同体では誕生日、結婚記念日、卒業、入学、喜寿、米寿、といった様々な記念日となる。「今」という時代は時間のスピードは凄まじく、あらゆる時の境目を無くしてしまう。昼と夜、季節、仕事という社会時間とオフの私生活時間、こうした激変する時間の中で自分確認、アイデンティティ(自分を何かに帰属・同一化させること)の確認という「境目=時」を自ら作ることが不可欠な時代となっている。数年前から人気となっているブラダンスのようなクラブから始まり、mixiのようなSNSといったネット上の共同体まで、一人になればなるほど帰属する共同体は多様に無数生まれてくる。「自分探し」は中高生のものであるが、社会人にとってはいくつもの「自分確認=アイデンティティの確認」が日常的なテーマとなる。

”この味がいいねと君が言ったから7月6日はサラダ記念日” 俵万智

1987年260万部というベストセラーとなった「サラダ記念日」の一首である。青春期にあって人と人との関係の中で、その想いを瑞々しい感性で歌ったものであるが、マーケティングという視点に立てば、今日の生活者心理に潜む「時」認識を彷彿とさせる歌となっている。
心がそう想えばどんな小さな、ささいな出来事も自分確認できる「記念時」となる。つまり、マーケティングとしては、顧客に「そう想える」出来事を創ることによって、記念としての商品が販売できるということだ。一見普通に見える商品購入も、実は「今日はチョットうれしいことがあったから」といった「ヒトリッチ市場」となる。数年前から、「お一人様仕様」の旅や飲食などが若い女性に人気となっているが、最近では男性版「お一人様仕様」がホテルなどで出始めている。人間は一人では生きていけないが、ひととき自己納得、自分で自分を癒す市場はこれからも増大していく。
この「自分確認・自己納得市場」は、極論ではあるがどんな商品でもサービスでも購入&消費される市場という側面を持っている。当人が「そう想える」ということが唯一条件となる市場だ。ある意味心理市場というより、宗教市場と言った方が正確である。勿論、その宗派は「自分教」である。つまり、「そう想える自分確認」ができる、いやさせてくれるサービス市場と言った方が正確であろう。自己を投影した商品やサービスという「ナルシスト」な市場であり、今後も市場全体を覆っていく。

不安の時代にあって、「内なる自分」と「帰属する共同体」とを行ったり来たりすることの中に「自分確認市場」が生まれてくる。さて自分確認という自分の中に「何」を見出したいのであろうか。マズローの法則から言うと自己実現ということになるのであろうが、もっと日常的で手の届くものとしては「小さな幸福」だと思う。バブル崩壊後10数年を経て、島田洋七の「佐賀のがばいばあさん」やリリー・フランキーの「東京タワー」のような、どこにでもある「小さな幸福」に戻ったのだと思う。
こうした時代の市場創造は、新たな共同体を創っていくことだ。「孫の日」を筆頭に無数の業界団体による記念日が創られているが、これはこれで消費を促進させる一つの方法ではある。しかし、これからは、「好き」を入り口としたクラブのような、江戸時代でいうところの「連」のような共同体を創っていくことだと思う。その仮想共同体のコンセプトは、勿論「家族」となる。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 11:43│Comments(0)新市場創造
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