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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2006年08月09日

現代隠居文化

ヒット商品応援団日記No88(毎週2回更新)  2006.8.9.

紳士服チェーンのアオキがフタタに対しTOBによる統合の申し入れを行ったが、周知の通り団塊世代の退職というビジネススーツマーケット縮小をにらんだ業界の再編である。こうした団塊世代に対する市場変化が急速に起きている。まずは、来年から始まる40〜50兆円という退職金争奪戦であるが、このブログでも何回か取り上げたので今回は団塊世代の自由時間消費はどんなかたちとなるのか、江戸時代の文化を引っ張っていった「ご隠居さん」と「団塊世代」とを比較しながら、考えを書いてみたい。ところで江戸時代では同じものを使い続けることに誇りを持つ文化であった。いわゆる「年代物」で、今風にはヴィンテージものということになる。この考えはモノだけでなく、人も同じで、年寄りは尊敬される存在であった。今のように少しでも「若く」といったアンチエイジング流行ではなく、年齢相応のスタイル、渋さが求められていた。ある意味では「チョイワルオヤジ」とつながっていると思う。
ところでその江戸時代の4大隠居文化は、「魚釣り」「盆栽」「歌舞音曲」「俳句」であった。今なお残っているのが江戸前のはぜつりであるが、自然が残る地方や海外へと釣り場は広がるであろう。私の大学の先輩の一人は、1年の内約半年は北海道紋別で暮らし、カヌーと釣りで遊び、残る半年は東京暮らしである。つまり、まだ自然が残る日本の隅々まで魚を求めて足をのばすであろう。そして、その足は開高健さんのようにアラスカや南米アマゾンまでのびていくと思う。勿論、道具に凝るだけでなく、好きな場所には何回となく足を運び、いつしかそこに住み着く人も出てくる。盆栽はといえば、今なおフアンは多いが、その植物のもつ生命美を凝縮した空間に置き換える技術や美的感性は奥が深い。ただ、生きている植物と遊ぶという世界へ少し着眼を広げてみると面白い。例えば、江戸時代の庶民の身じかな植物といえば「朝顔」であった。朝顔、昼顔、夕顔のように花を咲かす時間が異なる植物である。月見草、宵待草、月下美人、みな咲く花を見て時を知っていた訳である。まるでオーロラのように「この時だけ」に咲く花を見るための観光があってもおかしくない。この延長線上には「この時」を追いかける旅もある。沖縄をスタートに桜前線と共に約半年をかけて北海道まで桜を愛でる旅である。365日、24時間、自由時間となる団塊世代ならではの旅である。さて、歌舞音曲であるが、これは何回か取り上げてきた「オヤジバンド」がこれから大流行りとなる。勿論、クラシックからロックまでである。コンサートの種類も能や狂言から世界の民族楽器によるものまで多種多様となる。団塊女性では既に流行っているブラダンスが更に盛んになる。この世代にとって、1ドル365円時代の最初の海外旅行といえばハワイであった。思い出フィードバックではないが、京都・奈良と共に必ず一度は再訪する地の一つである。さて、俳句であるが、家を捨てて俳句の旅に出た松尾芭蕉の生き方まではいかないにせよ、自己を含めた表現の旅は盛んになる。絵手紙や本格的な絵画まで、あるいは陶芸など表現の世界は広い。
ところで、こうした隠居文化、道楽は全て旅となっていく。別な言葉で言えば「時間を楽しむ」ということになる。亡くなられて随分時間が経つが、好きであった江戸を杉浦日向子さんは次のように書いている。
「江戸の人々は”人間一生、物見遊山”と思っています。生まれてきたのは、この世をあちこち寄り道しながら見物するためだと考えています。・・・・・ものに価値をおくのではなく、江戸の人々は、生きている時間を買います。芝居を観に行く、相撲を応援しに行く、旅に行くーーーと、後にものとして残らないことにお金を使うのが粋でした」(「お江戸でござる」杉浦日向子より)
大移動化社会、大観光化社会の到来に対し、どんな「素敵な意味ある時間」を提供できるかが団塊世代、特に都市市場に対するマーチャンダイジング&マーケティングの要諦となる。夕張市の破綻のところで少しふれたが、地域活性には必ず観光政策が入っている。しかし、旧来のような名所観光をベースに温泉&グルメなどといった延長線上の観光であれば活性などとはほど遠いものとなる。「意味ある時間」とは限られた時間(亡くなるまでの20年前後)の意味であり、「人生」「生き方」といった精神世界にふれる時間となる。こころの旅であり、こころの琴線にふれる「何か」が団塊世代を動かすことになる。今、地方自治体の観光課や商工会において地元地域の再発見といった活動が進んでいる。政府もそうした活動に支援をしようとしており、私が暮らす東京では日本橋の新たな街作りがテーマとなっている。ここで重要なことは、古くからある歴史的建造物や街並の上に築かれた物語ではなく、以前取り上げた(「次」を見据える視座「野生の思考」   2006.3,19,http://remodelnet.cocolog-nifty.com/remodelnet/2006/03/index.html)「アースダイバー」(中沢新一著)のように地中深く数千年数万年という時に眠っている世界、未知であり何か既知でもあるような「想像力」を働かせる物語が団塊世代の興味の扉を開くこととなる。(続く)

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:39│Comments(0)新市場創造
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