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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年05月13日

個人サイズの合理主義 

ヒット商品応援団日記No366(毎週2回更新)  2009.5.13.

前回、「顧客に近づく」という日本小売業調査結果を踏まえ、なかなか消費の表舞台に出てこなかった「平成世代」について少し書いてみた。旧来の価値観や慣習がもろくも崩壊していく様を物心つくやわらかな幼少期〜青年期にかけて目の当たりにしてきた世代である。私はそんな醒めた目で見ざるを得ないこの世代を「20歳の老人」と呼んだが、その根底にある新合理主義がこれからの消費のキーワードになると仮説した。
実は、この新合理主義の前提となるのが、「過剰認識」である。逆に「不足認識」と言葉を変えても同じである。生活していく上で、何が過剰で何が不足しているかという認識である。これはコインの表裏であり、個人間、世代間、あるいは時代間で、この生活認識は大きく変わる。

昨日、伊勢丹吉祥寺店が来年3月に閉店すると報じられた。少し前には三越池袋店が51年間にわたる営業の幕を閉じた。流通の統廃合は競争市場下にあって常にある事だが、以前から指摘してきたように百貨店が対象とする市場は、いわゆる中流層で、この市場は既に崩壊してしまっている。昨年、H&Mが銀座に出店した時に、GAPやZARA、ユニクロによって最も影響を受けるのが百貨店のファッション売り場であると指摘したが、百貨店の収益を決めるファッションの不振は閉店という現実となった。今注目されているフォーエバー21も新宿マルイのリニューアル後のMDも全て同じである。マスメディアは総称してファーストフードのように気軽に手軽に買えるファッション業態として「ファストファッション」と呼んでいるが、ここにも新合理主義が見られる。

平成世代を老人のような醒めた目という表現を私は使ったが、おそらく回りからは過剰な情報が日々聞こえてくるのに、自分の声が届かないという失語世代であると思っている。「私は」、と発語する時、一体誰が認め、あるいは保証してくれるのかが分からない。自分自身を確認する手段を持ち得ない、手段を失ってしまっているように見える。今回の派遣切りの延長線上に内定切りもあり、マスメディアはかなり報道していたが、誰一人怒りや義憤をぶつける事はなかった。「言ったところで」、と沈黙する学生が多かったように言葉からも見捨てられているように見える。

この世代を「巣ごもり消費」の典型であると書いたのも、自分の手が届く範囲内でしか消費しない、行動しない、発語しない、という意味である。キリギリスよりアリ、冒険より安定、変革より保守、不満より不安、大より小、言葉より実感、・・・・・これからも続々とキーワードが出てくると思う。ベストセラーとなった森永卓郎氏の「年収300万円時代を生き抜く経済学」ではないが、身の丈サイズの幸せを手に入れる、そんな個人サイズの合理主義を想起させる。

この個人サイズの合理主義は平成世代ばかりでなく、他の世代、他のエリア(都市と地方)においても浸透していくと考えている。「何が合理であるか」が、あらゆる消費の最大キーワードになってくる。昨年のヒット商品の一つであるパナソニックの電球型蛍光灯のように価格は高いが長持ちし電気代も節約できて結果として安く済む、といった費用対効果を物差しとした合理主義もある。1年前から生活者の消費キーワードとなっている「わけあり消費」も、その「わけ」が合理的判断の物差しとなっている。数年前から始まっている単位革命、例えば大家族の場合は業務用食品ショップで大量に買うことが合理主義となり、単身者やDINKSのような場合は小単位、食べ切りサイズが合理主義となる。1980年代から始まった個性化の時代、好き嫌いが消費の第一義であった時代を終え、価格認識に基づく個人サイズの合理主義の時代に入った。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:47│Comments(0)新市場創造
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