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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年04月26日

映像の裏に潜むもの

ヒット商品応援団日記No361(毎週2回更新)  2009.4.26.

ブログを閲覧する人間であれば100%スーザン・ボイルおばさんの歌声を聴いたと思う。youtubeにアップロードされた英国のオーディション番組『Britain’s Got Talent』に現れたあのスーザン・ボイルおばさんである。親しみを込めて「おばさん」と呼ばせてもらうが、一見して60代に見える47歳の女性、キスを一度もしたことのない独身女性が恋のやりとりをテーマとした「Cry Me a River」を歌うのである。誰もが勝手に外見と同じように歌も冴えないものになるだろうと思っていた。が、である。ワンフレーズ聴くか聴かない内に、驚きから感嘆へと変わる。その素敵な歌と共に、人は外見じゃない、見た目で判断してはいけないと、教えてくれた。

今、私たちを取り巻くあらゆることは映像が支配している世界と言っても過言ではない。「見た目」という価値観がどんな時間的推移となって今に至っているか正確な分析はまだ誰も行ってはいないが、情報発信のメディアとそれを受け止める生活者側の意識変化の相互によるものであろう。
まだモノ不足であった1970年代までは、それまでの「見た目」以前のモノ欲求から少しづつ「違い」の芽が出始めた頃であった。1980年代に入り、豊かさと共に次第に「見た目」を含めた情報価値のウエイトが高まってくる。その代表事例が、1980年代初頭のDCブランドブームであり、デザイン価値が生活者、若者の大きな関心テーマとなった。そして、バブル崩壊はあるものの、1990年代は競争市場下で差別化のために、商品からパッケージデザイン、VMDによる店頭での陳列、店の雰囲気、広告や販促といったトータルコミュニケーションがテーマとなった。「見た目」はその中でも最重要テーマとなった。つまり、最近まで「見た目」が一番、「中身」という商品やサービスは二の次、三の次の時代となった。

しかし、周知のように「見た目」にいかに嘘が多かったか、多くの情報偽装事件を2年ほど体験学習してきた。同時に、昨年からの世界同時不況をきっかけに、一斉に消費価値観そのものが変わった。「巣ごもり消費」あるいは「○○したつもり消費」「××の替わり消費」というキーワードに代表されるように、「見た目」から「内実」へと大きく振り子が振れた。そうした消費のキーワードが「わけあり消費」であり、「見た目」で選ぶのではなく、規格外でも内実さえ良ければ安いものを選ぶといった価値観へと変わった。あるいは初期は値段が張るが、長く使えば結果得になる。一言でいえば、大量生産大量消費、特に使い捨て時代は終焉したということだ。

「見た目」という映像情報の中で一番大きな役割を果たして来たのがTVメディアであった。あったと過去形にしたのは、「見た目」を全てに優先し、しかも善悪、好き嫌い、といった二元論で全てを編集するやり方にある。以前、筑紫哲也さんが亡くなった時、次のようにブログに書いた。
「天野祐吉さんは『ニュースに声を与えてくれた人』と語っていた。同時に、膨大な情報を整理し、防波堤の役割を果たしてくれていたと思う。多事という情報を争論できるようにしてくれた訳である。言葉は声であり、また文字である。」
言葉を失い、膨大な映像情報だけを繰り返し流す、しかも狭い特定情報だけを流す大量生産大量消費メディアに成り下がってしまったからだ。

その象徴例が今回の草なぎ剛による「公然わいせつ容疑」の事件報道であろう。たしかに法的には反する行為ではあったが、逮捕するほどの行為ではなく微罪である。これほどまでに揃って大騒ぎする事件ではない。「見た目」という視座しかない「声」を失ったTVメディアにとって、「見た目」の代表として人気の高い草なぎ剛があったのだと思う。しかも、あろうことか後に発言を訂正したが、あの総務大臣が草なぎ剛を「最低の人間」呼ばわりするといった大騒ぎである。しかし、生活者の側の興味はそんなところにはない。もし、あるとすれば、深夜全裸になって騒いだ草なぎ剛は、何を脱ぎ捨てたかったのだろうかという「声」を聴きたかったと思う。これは私の勝手な推測ではあるが、「見た目」という衣を脱ぎ捨て、あるがままの自分、等身大の自分になりたかったのではないかと。吉田拓郎流に言うならば、「ガンバラないけどいいでしょう」ということだ。「見た目」は創られてきた。しかし、生活者はその奥にある「内実」へと向かっている。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:51│Comments(0)新市場創造
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