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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年04月19日

消費バブルの崩壊と不況の深化

ヒット商品応援団日記No359(毎週2回更新)  2009.4.19.

崩壊だとか、破局、恐慌といったおどろおどろしいタイトルはつけないようにしてきたが、ある新聞記事を読み、米国だけでなく日本も消費バブルの崩壊と不況が深化していたと直感した。それは定額給付金を地元商店街の活性に役立てようと行政がプレミアム分を負担した商品券の発売結果についてである。

「定額給付金の支給に合わせて発行されている割り増し付き商品券(プレミアム商品券)に関し、都内で先行発売した中野区で、予想外の「販売不振」に関係者が頭を悩ませている。港区内で3月に緊急不況対策で発売された商品券も半分近くが売れ残っている。消費刺激策として考えられた商品券そのものの消費が思うように進まない情勢だが、中野区などは「消費活性化のため、購入を」とポスターなどで呼び掛けを強め、販売期間を延長し売り上げを伸ばしたい考えだ。・・・・中野区は、区商店街連合会などが1セット(代金1万円)で1万1000円分の買い物ができる商品券を5万セット発行した。先着順で1人3セットまでと決め、11日から販売開始。週末の11、12の両日で完売との期待もあったが、15日時点の販売は約2割の約1万2000セットにとどまっている。・・・・・一方、定額給付金支給に先立ち、港区商店街振興組合連合会は区の補助を受け、3月3日〜4月8日に10%のプレミアム付き商品券を販売した。1セット1万円で計3万セットを発行したが、約1万セットが売れ残っているという。」(4/16毎日新聞都内版より)

やはりそうだろうなという思いと共に、何かが起こりつつあるなと感じた。「やはりそうだろうな」とは、1万円に1000円のプレミアムをつけた商品券程度では売れないという消費心理からである。小売業・専門店を現場をやっている人間にとって、最低でも20%は下げないと「お得感」は無い、と思う筈である。お役所仕事とはこのようなものだと思うが、このプレミアム商品券は全国にわたって展開されており、またこれから実施されるが、地方の場合は選択肢が限られているためある程度売れるとは思う。しかし、東京では「イオンの反省」ではないが、あらゆる業種・業態で一斉に値下げ競争が始まっている。そんな中で10%程度はプレミアムにはならないということだ。おもしろいことに、中野区などの失敗を踏まえ、墨田区では15%のプレミアムとし、区内での使い先を広げ、墨田区民以外でも購入できるようにするという。まあ墨田区の場合はそこそこ売れるとは思う。しかし、収入が増えない、あるいは下がり、社会に蔓延する不安の時代にあって、消費不況は構造的なものだ。

周知のようにOECD(経済開発協力機構)が今年度の主要国経済の発表が3/31にあった。鉱工業生産という輸出依存型経済の日本は−6.6%、米国は−4.0%、ユーロ圏は−4.1%、、中国は+6%台、インドは+4%台、という内容であった。1970年代の2度にわたる石油危機、更には変動為替への移行というニクソンショックによって、日本の産業は大きく変わった。日本は当時と同じような、いやそれ以上の転換が求められている。、1929年に起きた世界恐慌と単純比較はできないが、当時の指標を上回る悪化が起きており、既に恐慌状態にあると指摘する専門家もいる。恐らく世界恐慌という言葉をマスメディアが使わないのは社会不安を煽ってはいけないという自主規制からであろう。

もう1つの「何かが起こりつつある」とは、消費バブルであったとは誰も言わないが、誰に言われるまでもなく生活者は過剰な消費であったことを感じ取っている。それが崩壊したという生活実感である。バブルはその渦中にいるときはバブルであるとは誰も感じも認識もしないものだ。以前、いざなぎ景気を超えた平成景気という政府発表に対し、勤労者収入は下がっており、そんな好景気感は一部だけで多数ではないと指摘したことがあった。その一部とは東京や名古屋であり、輸出大企業であり、更には金融・不動産関連企業、つまり今回のサブプライムローン問題に端を発した世界同時不況に、善かれ悪しかれ直接関与したエリア、企業、人達である。私たちはこの市場を「新富裕層市場」と呼んできた。

また、2002年以降株価も上がったが、周知のように昨年株バブルもはじけ、保有する企業もシニアを中心とした投資家も売るに売れない塩漬け状態となり大きく資産価値を落とした。実は、2002年〜2007年にかけて全体市場、特に東京の消費を牽引してきたのはこうした新旧富裕層であった。1980年代の後半のような本格的なバブルではないが、いわば平成のミニバブル期と言えよう。この新旧富裕層において昨年バブルがはじけ、損を覚悟で株を売り国債のような元本保証された商品へと買い替えが進んだ。つまり、貯蓄から投資へという流れは大きく逆転した。消費対象としてきた高額商品やブランド、更には百貨店へと波及してきた。これがこの1年ほどの変化である。

誰も言わないが、この数年間TVメディアや雑誌を賑わせてきたニュースの多くは、実は消費バブルであったということだ。ミシュランガイドに載った店も既に数店閉鎖している。「サライ」を始めとした雑誌に食堂や丼の特集が組まれる時代だ。リーマンショック以降、NYのブロードウェイミュージカルも集客数が激減し、大人気であった「ヘアースプレー」をはじめ9つの大型ミュージカルが幕を閉じた。東京でも今年に入り、人気劇団である四季までもが値下げに踏み切った。もっと象徴的なことは、2010年に銀座に大型旗艦店を計画していたあのルイ・ヴィトンが実施を断念し、そのビルにGAPが出店する。

こうした2極化した市場、共に消費不況にある。つまり、モノが売れない時代であるということだ。この「売れない」という意味は、私のブログを継続して読んでいただいている方は理解していただいていると思うが、新たな消費の移動が始まっているということである。○○したつもり、××の替わりに、といった消費の移動である。例えば、行楽地に行ったつもりで近くの公園で遊ぶ、オシャレはしたいが服を買う代わりに柄タイツを買う、欲しいブランドは新品を買う替わりにアウトレットで買う、こうした消費を私は「つもり消費」「替わり消費」と呼んでいる。その象徴例が、実は昨年末年始の消費行動に表れていた。低迷する百貨店にあってデパ地下の高額おせちが飛ぶように売れていた。○○へ出かけたつもりで、あるいは××を買う替わりに、家でおせちのホームパーティを楽しむ、といった消費の移動である。

この移動を促しているのが「価格」という訳だ。安い価格へという流れであるが、ポイントになるのが「割安感」である。長持ちするとか、食べごたえがある、使い勝手が格段に優れているといった価格観である。勿論、価格以外の理由からのものもある。例えば、大手コンビニは揃って増収増益であった。この好決算の理由の一つがタバコを買う顧客が自販機からコンビニに移動したtaspo効果のような場合もある。不況期のマーケティングとは、この消費の移動先を見出し、見極めることに尽きる。その際着眼すべきが、私が繰り返し書いてきたその消費が「どんな意味」を持っているかである。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:50│Comments(0)新市場創造
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