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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年03月01日

もう一つのニッポン

ヒット商品応援団日記No345(毎週2回更新)  2009.3.1.

ここ数回、映画「おくりびと」や小説「悼む人」、更には吉田拓郎の最後の全国ツアーに先駆けたアルバム「ガンバラないでいいでしょう」について書いた。一見なんの脈絡もないように見える3つの映画、小説、曲であるが、私の眼からは共通して見えてくる潮流がある。
「おくりびと」では、死を忌み嫌い隠してきた社会の皮膜をはがし、実は身じかな日常であることを気づかせてくれた。ともするとタブーとしてきた死への認識を根底からくつがえし、その奥にある日本人の死生観を表に出してくれた。「悼む人」では過剰な情報社会の中で、「何」が自分にとって必要で、大切な情報なのかを気づかせてくれ、実は裏側に潜む情報へと向かわせてくれた。「ガンバラないでいいでしょう」は、頑張らないことの大切さ、自分を責め傷つけることはやめにしようじゃないか、あるがままに生きてもいいんじゃないか、そんなメッセージを送ってくれた。過剰な生き方、生き急ぐのはやめにしようじゃないか、というメッセージだ。

あるいは今年の元旦のブログに作家水村美苗氏の「日本語が亡びるとき」を引用し、日本人の精神の証しである国語が亡びゆく様に警鐘を鳴らしていると書いた。そして、その亡びゆく問題の根っこにある近代文明とは一体何であったのかという原点に立ち帰り始めたとも。
混乱、混迷が深まる時代にあって、起点とすべき、回帰すべき視座が明確になっていない点に対し、日本とは何か、日本人とは何か一つの潮流が見え始めている。例えば、経済でいうとグローバリズムとローカリズム、地球環境では工業化とエコロジー、文化では英語と国語、ライフスタイルでは洋と和、もっと身近なところでは公と私、それら全て近代化によって生まれた課題だ。

今、起きている潮流を消費という側面で見ていくと、この十数年、手に入れた物的豊かさは知らず知らずの内に実は過剰へと向かっていた。そんなことへの見直しが企業ばかりか生活においても始まっているということだ。生活経済の危機をきっかけに、モノの過剰さを削ぎ落とし、更に削ぎ落とすことによってコトの本質が見えてきたということである。手に入れた便利さというモノの豊かさとは逆に、失ってしまった何かを探しに出かけ始めた、それを私たちは回帰現象と呼んできた訳である。ここでは繰り返し書くことはしないが、消費面では記憶を辿る「思い出消費」ということとなる。

近代化とは極論ではあるが、全てを量に置き換えて合理化し数値化していくことであり、あらゆるものを工業として考えていくことであった。もっと極端に言えば、0と1に分けて考えるデジタル発想ということだ。つまり、理屈っぽく言うならそうした発想、価値観からこぼれ落ちてゆくことの大きさに気づき始めたということである。
しかし、例えば合理化という生産性から外れた日本の農業に若い世代がチャレンジし始めているのも、こうした生産性ではかることができない大切さに気づきはじめたということだ。農業の工業化をはかる米国などと比較して生産性の低い日本農業であるが、生産性を超える「何か」を見出してくれると思う。食は命を育むことであり、中国冷凍餃子事件は広く裏側にある生命観を思い起こさせた。自己防衛策として、家庭菜園や農家レストラン、あるいは農業体験へと向かわせた。それは「悼む人」のように裏側に潜む情報へと向かわせ、「おくりびと」における死生観にもつながるものである。

まだ仮説の段階であるが、いままでの「何か」を探しに出かけた回帰現象は徐々に終わっていくと思う。例えば、2000年前後の頃から古民家ブームをスタートに和カフェや和菓子といった和スタイルがブームになり、癒しというキーワードが流行った。ある意味、単なるトレンドとしての「和」は終えようとしている。それはいみじくも和の本質へと深化し、日本とは、日本人とは何かが「おくりびと」ではないが、日常の中のものとして自覚され始めたからだ。表層をなぞっただけの漢字検定や漢字をテーマとしたバラエティ番組もブームとして終えるであろう。

和ブームを終え、また洋へとライフスタイルが振れるかというとそうではない。以前、土鍋という和道具に着目すべきとブログに書いたことがあった。土鍋は炊く、煮る、焼く、蒸す、毎日多様な使い方ができる合理的な極めて生産性の高い生活道具である。しかも、和であることの最大特徴である旬素材を使った炊き込みご飯といった季節を楽しむ、和道具の知恵を使ったライフスタイルへの着眼だ。一昨年のヒット商品であった湯たんぽもその優しい暖かさと省エネ=低コストからであったが、これも古来からの頭寒足熱という理にかなったものだ。
こうした次なる芽は日常の当たり前の生活の中に生まれつつある。過剰なものを削ぎ落としながら、足下に眠っている知恵を使った「新しい和魂洋才」のライフスタイルが創造されていくであろう。私は、それを「もう一つのニッポン」と呼んでいる。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:48│Comments(0)新市場創造
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