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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年02月18日

変化への眼力

ヒット商品応援団日記No342(毎週2回更新)  2009.2.18.

昨年10ー12月のGDPが内閣府から発表があった。年率換算−12.7%という数値であるが、その内訳を見ていくと輸出が−13.7%、設備投資が−5.3%、個人消費は−0.4%となっている。いわゆる生活実感からいうと、年越し派遣村に表れているように、大企業しかもGDPの2割を占める輸出企業が−13.7%という大幅なマイナス数値となっており、これが生活者のグローバル実感であろう。一方GDPの約6割を占める個人消費は−0.4%と小さい。これは、既に1年以上前から巣ごもり準備に入っていたということだ。つまり、いざなぎ景気を超えたといわれてきた景気も企業収益には大きく寄与したが、多くの生活者の収入は逆に減ってきていたことによる。つまり、個人消費のマイナスはリーマンショック以前の数年前からその予兆はあり、今回のGDPを押し下げる主要因にはなってはいないということだ。そのことと共に、他の主要各国のGDPとの比較において、日本がいかに偏った産業構造になっているか、食料自給率を含め大きな岐路に立たされていると思う。

もう一つ見ておかなければならない点は未来投資はどうかということである。企業にとって未来投資にあてはまるのが設備投資であり、分野にもよるが−5.3%と先行きは暗い数字である。一方、家庭の生活経営における未来投資の一つは子供への教育である。昨年秋の家計調査を見ても教育費の大きな増減変化はない。その象徴例ではないが、ベネッセが運営する進研ゼミの生徒数は順調に伸びている。
ちなみに、2008年度の企業倒産件数は12,681件で周知のように増加の一途を辿っているが、自己破産件数は2007年度は14.8万人で4年連続減少している。つまり、家庭経営の方が堅実で、先を見通しているといえよう。つまり、消費が低迷していると言われるが、これが普通であり、この消費マーケットでビジネスをしていくということだ。もっと正確にいうならば、世界不況であり、金融不況であり、輸出不況ではあるが、消費不況ではないということだ。

ところで、文芸春秋3月号に作家五木寛之と宗教学者山折哲雄の対談「不況と親鸞」が掲載されている。周知のお二人であるが、今日の行き詰まりは何に起因しているか極めて示唆的な内容となっている。是非、読まれたらと思うが、その対談の中で山折哲雄はコトの本質を次のように語っている。
「経済学者たちはなぜ<景気循環>という言葉ひとつで片づけないのでしょうか。百年だろうと二百年だろうと、要するに景気は循環するわけですから。更に、<景気循環>を大和言葉に言いかえれば、<無常>です。そんなことは日本人は昔からわかっていたはずなのに、その無常観をなぜ手放してしまったのか。こちらのほうが問題なんですよ。」
この言葉を受け五木寛之は、米国が民主主義の国であるというのは建前で、実際は神国アメリカであり、その神を企業家も政治家もどこかへ置き忘れ、マネーゲームに狂奔してしまったことに起因する、と語っている。そして、その象徴例ではないが、ドル紙幣には「IN GOD WE TRUST」と印刷されているが、この「見えざる神の手」が資本主義を支えてきたことを忘れてしまったと。

私のブログにも「不況ならではのヒット商品があるのですね」といったコメントが寄せられているが、無常観ではないが、世の中常ならず、そうした変化を取り込み生き抜く知恵を日本人は古来から持ってきた。ここ1年ほど消費の動向について書いてきたが、そのほとんどが「消費の移動」についてである。全て、生活を取り巻く環境変化に対応した消費移動である。繰り返し書かないが、訳あり商品のように少しでも訳あって価格の安いところへと移動したり、ブランド好きにおいても既存の専門店ではなく、アウトレットや中古ショップへと移動する。あるいは昨年の忘年会事情でもおもしろい現象が見られた。右肩下がりのファミレスが安価な忘年会メニューを用意したこともあって、久しぶりににぎやかになった。勿論、ファミレスの一次会で終了であるが、思わぬところで新しい需要が生まれている。
先日、あのティファニーが円高還元から9%ほど価格を引き下げると報じられ、さらに全世界では売上が21%ほど減少しているという。価格を引き下げても元の売上には戻らないということは自明である。つまり、減少した21%は経済的理由から買えなくなったか、もしくは他へと消費移動が起こったということだ。勿論、ティファニーを好きでたまらないとする人が79%いるということだ。

私たちマーケッターの眼力を発揮すべきは、この消費がどこに移動しつつあるのかを見極めること、及びティファニーの79%ではないが、好きで買い求めてくれる継続顧客にどうすべきか、この2つだ。例えば、私のブログに「美味しい100円おやつ」のトラックバックが寄せられているが、こうした傾向も多くの流通で見られるようになった。セブンイレブンでは少し前までは100円菓子がほとんどであったが、最近では60円菓子(豆大福)まで広げたMDを行っている。勿論、100円大福の時と較べてサイズは小さくなったが。大福好きの顧客に応えるには60円の大福を提供するということであろう。この100円と60円の差の意味はどんな変化があろうが継続した顧客関係を創ってくれる。100円顧客と60円顧客、こうした顧客と一緒に変わること。これがこの時代に不可欠な眼力である。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 12:35│Comments(0)新市場創造
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