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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年01月28日

不況を切り拓く鍵

ヒット商品応援団日記No336(毎週2回更新)  2009.1.28.

前回、不況を超える特効薬等ないと私はブログに書いた。創業の時、お金も物も情報も何も無かった時代、あるのは情熱だけであった時代を思い起こすことから始めることが必要であるとも書いた。それから、本格的不況はこれから始まるとも。
今、雇用をめぐる正規・非正規社員、あるいはワークシェアリングといった課題が論議されているが、米国における格差や貧困問題と比較し、まだまだ日本は捨てたものではないなと思う。先日、「サンデープロジェクト」に、ブッシュ政権に辛口評論をコラムに書き、オバマ新大統領のブレーンの一人であるクルーグマン教授がインタビューに答えていた。そんなこともあり、再度クルーグマンの著書「格差はつくられた」(早川書房刊)を読み直してみた。確かに、米国における金持ち優遇税制は極端である。例えば、ヘッジファンドの経営者に対しては特別な税制となっている。通常の経営者の場合は収入に対し35%の税負担をする。が、ヘッジファンドの場合は、キャピタルゲイン税率で納税し、わずか15%となる。この税率の差を同じにすれば毎年60億ドルの収入が得られ、この1/3、20億ドルはたった25人によってであるという。オバマ新大統領が就任演説で述べた、直面する危機は「一部の者の強欲と無責任の結果」としたことも分かる気がする。

ところで米国と日本の消費心理を比較すると、私たちが直面している「不況心理」の違いがよく分かる。周知のように、米国での消費はほとんどがクレジットカード、しかもリボ払いである。この借金が約1400兆円あるといわれている。そして、今回の金融破綻によりカードローンが組めない、貸し渋り状態で消費に向かうにも向かえないといいうことである。日本の場合は現金決済が多く、あるいはパスモやスイカといったICカードの利用が高いように、ある意味現金主義である。しかも、金融資産は正式ではないが目減りしても1400兆円ぐらいは保有している。1400兆円の借金をしている米国生活者とは根本的に異なる。ところで、この金融資産の内、50歳以上が70%を占め、よく言われることだが、子供達への相続金額は平均1500万円となっている。この50歳以上とは団塊世代以上のシニア世代であり、お金も物も情報も何も無かった時代、映画「Always三丁目の夕日」のような時代をくぐり抜けてきた世代である。以前、このブログにも書いたことがあったが、豪華客船「飛鳥」に乗る世界一周旅行などは一部あっても、その多くは京都や奈良といった青春フィードバック、「思い出旅行」になると。つまり、それほど突出した消費は見せないものの、堅調な消費世代であると考えるべきである。

この世代の多くはあと数年で年金受給者となり、今までの蓄えから即生活に困窮するような不況心理にはない。もし不安があるとすれば子や孫の未来についてである。自分達の消費は抑えても、子や孫には「何か」をしてあげたいという心理だ。今、ドコモのCMで孫に携帯をプレゼントするあの世界である。収縮する消費市場にあって、キーマン、鍵となる市場は団塊シニア世代ということだ。つまり、既に死語となってしまった6ポケットではないが、財布は団塊シニアであるが、使うのは子や孫という訳である。そのためには団塊シニアがお金を出しやすいように、例えば「孫の日」のような記念日や三世代向けのメニュー開発をすることである。「孫の日」は日本百貨店協会が10年ほど前に仕掛けた記念日であるが、百貨店だけのものではない。スーパーも、専門店も、ファミレスも、商店街も、アイディアフルに売り出しを組めば良いのだ。三世代メニューというと、ホテルや旅館と旅行会社だけのものではない。レストランや飲食店、あるいは任天堂DSのWiiなんかで三世代で遊べるゲームソフトを開発しても面白い。

誰を顧客とするのか、既にシニア世代を戦略顧客としてキャンペーンを展開している企業がある。その代表は格安航空券・旅行で若者を主対象として成長してきたH.I.S.である。その戦略メニューは「インプレッソ」という添乗員同行のパッケージツアーであり、更に顧客への「安心」を提供するために世界に次々と支店をオープンさせている。京都・奈良観光の延長線上に気軽に安心していける海外ツアーをポジションしていると言えよう。
旅ばかりではない。少し前に取り上げた鹿児島県阿久根市のスーパーAZのように、お年寄りのために片道100円のバスを運行し、65歳以上のお年寄りには5%のキャッシュバック、更に商品MDでは仏壇まで用意する。つまり、「お年寄りに優しい」スーパーという信頼・安心が若い世代にも共感を呼び、消費を活性させているという。

少し先になるが、今年はどんなバレンタインデーになるであろうか。義理チョコから自分へのご褒美チョコへ、洋チョコから和チョコへ、と推移してきたが、このような延長線上では売上を落とし続け、不況を切り拓くことにはならない。少し視野を広げ、母の日のように祖父母の日として、「何か」をプレゼントするアイディアもある。お年寄りにふさわしいチョコはどんなチョコになるであろうか。そして、そのお返しのホワイトデーはドコモの携帯電話どころではなくなると思う。
従来求められてきた家族は「親子関係」がほとんどであった。当たり前のことだが、祖母も祖父も家族の一員である。「孫の日」が祖父母から孫へのコミュニケーションだとしたら、孫から祖父母へのコミュニケーションがあってもおかしくはない。逆に、ごく自然なこととして新たな市場開拓につながる着眼だと思う。現代は関係喪失の時代である。視点を変えれば、従来からある「関係市場」の周辺に新たなギフト市場が生まれる。その鍵となるのが、やはりシニア世代である。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:43│Comments(0)新市場創造
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