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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2007年03月04日

パラダイム変化の構図

ヒット商品応援団日記No145(毎週2回更新)  2007.3.4.

パラダイムとは元々ある専門科学で使われていたことばであるが、今やビジネスやマーケティングの世界ではよく使われることばで大きな枠組み・価値観のことを示したことばである。このパラダイム変化、特に生活者の価値観変化の構図が大分明らかになってきた。1992年のバブル崩壊以降、様々な変化が怒濤のように押し寄せてきた。大企業神話の崩壊、終身雇用制度の崩壊、1997年をピークに世帯収入の減少とデフレの出現、グローバル化の進展と規制緩和、少年犯罪を含めた社会不安の増大・・・・・。企業にも、個人にも、勿論コミュニティにもである。その変化をどう受け止めてきたのか、その構図の発端は一昨年の映画「Always三丁目の夕日」から始まる昭和ブームであり、ベストセラーとなった島田洋七さんが書いた「佐賀のがばいばあちゃんシリーズ」であると考えている。家族、絆、貧しさ、遊び、やっていいこと・悪いこと、教育、愛情、希望、多くのテーマが浮かび上がってくるが、一言でいうと激変する中でどう生きて行けばよいのかという「生き方共感」が大きく舞台へと上がって来た、そう私は感じている。「がばい」とは佐賀弁ですごいという意味だそうだが、数十年前まではどこにでもいた普通のおばあちゃん、どこにでもあった普通の生活、普通の生き方への共感である。記憶は過去の単なる再現ではない。思い出したいことを記憶として取り出すことであり、そうさせる「何か」があるのだ。

普通の対義語は異常・特別である。つまり、「今」という時代・価値観の異常さに気づき始めたということだ。ファーストフーズに対するスローフーズ、洋のライフスタイルに対する和のライフスタイル、都市に対する田舎、経済に対する品格、私生活主義に対する公意識、といった具合に「過剰」という異常さに気づき始めたということだ。十数年前「豊かな時代」というキーワードが新聞やTVに取り上げられたが、物質的豊かさに対するこころの豊かさの意味が一人ひとりの生活者の意識に「普通の生き方」共感として明確に出て来たということである。私は年頭のブログで「生命」が今年のキーワードになるだろうと書いた。勿論、そうあって欲しいという願望を含めてであるが、「がばいばあちゃん」のように”うちは由緒ある7代続く貧乏家だから”と、あっけらかんと貧乏を言ってのける明るさ、生命力溢れる元気さに多くの人が共感し始めた。不安が連鎖するような閉塞した意識から脱し始めたということでもある。勝ち組VS負け組、格差社会、こうした論議など「がばいばあちゃん」にとって無縁である。

構えず、毎日、一生懸命生きていくことを「普通」と呼んでみたが、そうした毎日が積み重ねられ10年,50年、100年と続くことの素敵さだと思う。昭和という近過去がクローズアップされたのも分かりやすく実感できる人やモノ、街並や習慣がまだ残っているからだ。全力で走り抜ける、こだわりぬく、精神を高揚させる、・・・・・こうした過剰さとは異なる肩の力を抜いた生き方だ。ハレとケということばがあるが、ハレの日もあるがほとんどがケの日、日常ということになる。過剰さが常である若者のパラダイムから、そこそこほどほどの大人のパラダイムへのシフトとも言える。例えば、食材にこだわり抜いた有名シェフのレストランから、食べなれたメニューのどこにでもある食堂へのシフトと言っても良いかもしれない。その「なんでもなさ」「あたりまえ」の大切さに気づいたということだ。この「なんでもなさ」「あたりまえ」が何故失われてきたのか、その根源を探す動きが研究者ばかりでなく、「普通」の生活者からも生まれてくると考えている。例えば、グルメ、美食といったことばは次第にその鮮度を失っていくと思う。逆に、おふくろ料理、農家料理や漁師料理、その土地の人々が日常使っている食堂や居酒屋といった「あたりまえ文化」に戻って行く。既にその芽は出始めており、東京丸の内のTOKIAビル地下に出店した大阪の立ち飲み居酒屋「赤垣屋」などはその象徴だと思う。

物質的充足(経済)から生き方充足(文化)への変化であり、中心(都市)から周辺(地方・コミュニティ)への変化となっていく。特に東京という都市を見ていく場合、「消費都市」として見ていくこと、つまり消費が生産であるということだ。都市生活者における「生き方」消費は、旅で、お取り寄せ通販で行われるであろう。3月2日、渋谷西武百貨店がリニューアルオープンしたが、そのデパ地下にはチーズ好きなら誰でも知っている岡山吉備町の「吉田牧場」のチーズが目玉商品となっている。家族で作られたチーズであるため希少性はあるのだが、チーズそのものは普通の商品である。今、百貨店のバイヤーのやることと言えば、地方では普通の商品であるが都市においては誰も知らない商品・「がばい」商品探しである。課題は「誰も知らない商品」をどう都市生活者に伝えていくかにある。つまり、「普通」である商品の伝え方の工夫がヒットの分かれ目となる。東京では渋谷西武百貨店のリニューアルを皮切りに、六本木東京ミッドタウン、東京駅前の新丸の内ビルがオープンする。これら商業施設の中で、私が指摘した「普通」がどのようにプレゼンテーションされ、「がばい」となっていくか、その裏側にどんな文化が潜んでいるかレポートしていきたい。(続く)

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