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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年01月14日

空、雲、傘

ヒット商品応援団日記No333(毎週2回更新)  2009.1.14.

年末から連日、マスメディアは日比谷公園の「派遣村」の問題について報道している。派遣を製造業の調整弁に使ってきた等規制緩和の問題、あるいは広く非正規雇用の象徴として指摘されているが、そこには非正規・派遣という自由さと安定という両立の難しい本質問題が横たわっている。ただ、一方では中小の町工場では経営者も含め賃金をカットしてでも雇用を守る多くの企業は存在している。人を大事にしない組織は、いつの世でも長続きはしない。組織はぎりぎりまで人を大切にするように努力すべきであり、ましてやそのトップに立つリーダーは、強い責任と高い倫理をもって、自分の身をも含めて対処していくべきである。ここではその問題を取り上げるつもりはないが、マスメディア、特にTV報道の多くが派遣切りを情緒的に取り上げ、日本があたかも失業列島の如き状態であるとの報道がなされている。そこには嘘とはいわないが断片を取り上げあたかも全体であるかのような編集報道である。

一つだけ指摘しておきたい。資産バブルの絶頂期、株価も39000円弱であった翌年、2000年の失業者数は142万人であった。以降バブルが崩壊し、少しづつ失業者は増えるが、それでも世帯収入は1997年までは若干ではあるが伸張する。そして、山一証券、拓銀が破綻し、収入も1998年から右肩下がりとなり、更に追い打ちをかけるように2001年〜2002年にかけてITバブルが崩壊する。その2002年の失業者数は約360万人であった。そして、昨年11月末時点での失業者数は約250万人である。これから増えると思うが、2002年と比較し、約110万人少ない失業者、これが事実である。

空、雲、傘 、というタイトルはコンサルティングやマーケティングに携わる人達が使う基本的な戦略手法である。簡単に言ってしまうと、空という市場・顧客を見上げ、雲の動きを分析・把握し、傘を持って出かけるべきか否かを決断するというものだ。私のブログを読んでいただいている読者の多くは中小企業の経営者や店長さん達である。そうした人達にとって「空」とはエリアの顧客であり、取引企業の動向である。例えば、いつも来られる常連のお客さんが最近来ない、あるいは来店頻度が少なくなったような気がする。これが「空」である。少し調べてみると、競争相手に行っているようだ、あるいは顧客が勤める企業の業績が良くない、といった問題点を認識し、例えばそれではリーズナブル価格の新商品で対抗しようという解決の方向=戦略が「雲」である。では次にどうすれば良いのかという行動、例えばユルキャラブームにのった新商品にしようかというのが「傘」という戦術である。

以前、私は悲観も楽観もしてはならないと書いたことがあった。確かに、輸出企業にとっては空を見上げれば急速に真っ黒な雲が出て暴風雨となった。最早傘では間に合わない情況である。しかし、よく見ると雲の切れ間に小さな光がさしている。小さな光とは円高の恩恵を受ける輸入企業等であろう。黒い大きな雲と、所々小さな切れ間に光が差し込む、というまだら模様が日本の空である。この暗いまだら模様の空は世界中の市場と連動していることから、ほとんど予測不可能といっても過言ではない。生活者にとっても同じで、まだら模様の空での生活を「巣ごもり消費」と呼んでいる訳である。ところで、情報の時代、市場がグローバル化した時代は、変化はいきなりやってくる。暴風雨がいきなりであったと同様に、晴れもいきなりやってくる。

巣ごもり消費を単純に家庭内消費、あるいは節約といった一断面だけの認識をしてはならない。巣ごもり消費はある意味大きな価値潮流として考えるべきで、前回コンセプトチェンジというテーマで書いたが、小さく差し込む光はある。例えば、最近注目されているのが若い世代の消費傾向である。元々、森岡正博氏の著書「草食系男子の恋愛学」から生まれたキーワードである。その「草食系男子」が増えている。異性と肩を並べてやさしく草を食べるような雰囲気の男性を指しており、自分からは愛を告白せず、ファンタジー系の文学を好み、メンズ化粧品に熱心で新たな市場を生んでいるという指摘だ。一方、女性はというとまさに正反対の「動物系女子」として対比され、消費においても恋愛においても積極的で、そこにも新たな消費が生まれている。時代を遡れば、1980年代には「オヤジギャル」と言われた女性達が消費をリードし、少し前までは新富裕層のキャリア女性達による「ヒトリッチ市場」があった。「動物系女子」が新たな市場を創り得るかどうかはわからないが、まだら模様の空を丁寧に見ていけば雲の切れ間の光を把握することは可能だ。

「行列の裏側」のところでも書いたが、マスメディアから流される情報に一喜一憂してはならない。目の前にいる顧客・市場を見続けること、空の変化を見続けることにチャンスはある。どんな変化が起きているか、空は暴風雨なのか、でも小さな光は射しているか、雲の動きを正確に見て次の流れていく先にアイディア着眼する。そして、私の持論であるが、小さく行動してみることだ。失敗しても、小さければ、次の行動に移れる。しかも、スピードを持ってだ。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:56│Comments(0)新市場創造
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