プロフィール
ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
インフォメーション
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 16人

2009年01月11日

コンセプトチェンジへ

ヒット商品応援団日記No332(毎週2回更新)  2009.1.11.

巣ごもり消費について、生活者は未だ冬眠には入っていない、次を産み出すためのインキュベーション状態であると書いた。東京の百貨店の初売りについて前回少し触れたが、初売りから少し間を置いて冬物バーゲンに移るのが例年のならいである。しかし、最早そんな余裕はなく、そのままバーゲンに移り、30%オフは50%オフへ、50%オフは70%オフへと、一種の投げ売り状態となっている。巣から強引に引き出そうと価格訴求を行っているが、まだ結果は出ていないが、推して知るべしであろう。
百貨店を支えていた中流層がこの10数年間減少し続け、新富裕層といわれてきた外資系企業や金融業、不動産業への勤務者、あるいは専門職のキャリア女性達は周知の通り、1年ほど前から倒産・破綻・縮小し、所有株式も40%前後目減りした。インポートブランドの低迷にも表れているが、百貨店は対象顧客層を変えることに成功してはいない。

私がここ1〜2年間に書いたブログの多くは、生活者が巣に入る傾向や巣の中ではどんな消費が行われているかであった。先日NHKの「クローズアップ現代」で取り上げていた急成長しているスーパー「OKストア」についても、既に昨年5月に取り上げていた。勿論、エブリデーロープライスを支えているシステムと顧客に対するMDポリシーである「オネスト(正直)コンセプト」についてである。OKストアが売上を伸ばしているのは顧客支持があり、何に支持が集まっているかである。情報偽装ばかりの時代にあって、マイナス情報も含め、正直に公開することに顧客支持が集まったということだ。これが低価格の裏に潜む「訳あり消費」の本質である。

生活者、顧客は生活経営者として、2年前ぐらいから変化してきた。そうした様々な変化が「価格」に一挙に集約されたのが昨年夏前からであった。当時、「どんなに良い商品を作っても、価格というハードルを超えなければならない」と書いた記憶がある。生活者は価格というハードルを、例えば外食から中食へ、そして内食へと変化させることで超えてきた。オシャレをしたいが、洋服を買うにはチョットハードルが高いという女性達は、昨年のヒット商品である「柄タイツ」に着目したということだ。巣の中ではこうした消費移動が行われている。
当然、ビジネスはこうした生活者の動きに歩調を合わせなければならない。パラダイム(価値観)チェンジの時代とは、大企業より中小企業、大きな組織よりかは個人・小集団にとってチャンスがあるということだ。多くの制約条件を引き受けなければならない大組織と較べ、個人や小集団の方が自在に動くことができる。前回書いた、「今、起業の時」はそうした意味である。

ところで、これからどんな消費移動が起こるであろうか。1つは過去使われていたが今では使っていないものの見直し、再生である。特に、大量生産大量販売されてきた商品によって駆逐され市場から無くなった商品、合理性という名の下にこぼれ落ちてしまった商品の再生といった方が分かりやすい。大量生産=工業化とは標準化・規格化するということであり、一定の品質の商品を安い価格で提供することである。こうした便利さを享受してきた訳だが、一方では標準外・規格外の商品は、ひどい場合は廃棄されてきた訳である。訳あり商品とはこうした標準外・規格外商品の有効利用であるが、生活を見渡せばいくらでも訳あり商品という宝の山を発見することができる。しかも、過去を遡れば更に大きな宝物を見つけることができる。リサイクルというと狭い固定的な見方になってしまうので、再生というキーワードの方が正確であろう。

先週鳥取へ戦略会議に出席するために行ってきたが、1つのプランを見て欲しいということで前日知人と会うことになった。そのプランは休耕地の再生プランを元にした、単なる再生利用だけでなく、そこで作られた穀物を加工製造し最終顧客に販売提供するプランであった。アパレル業界では当たり前となっているSPAの発想で、農産品においても生産・加工・流通販売を一貫して行うプランであった。マスタープラン段階ではあるが、安心安全は言うに及ばず、健康で美味しい、しかも中国産コストと比較すると割高ではあるが、比較的ローコストで販売できる事業であった。私が書いた「人力経営」にも出ているが、渋谷109の中心ブランドであるエゴイストも韓国での生産加工であった。その代表である鬼頭一弥さんが着眼したのは、素材が良く、デザインさえ良ければ必ずヒットする、更には多様なデザインを小さな単位で回すシステム化、そんなSPAのポイントをいくつか話した。

小さな訳あり商品をどう創っていくかが巣ごもり消費時代に不可欠な視座である。以前、訳あり競争の時代に入ったと書いたことがあるが、どんな訳(わけ)に着眼するかは顧客に対する哲学・思いが必要だ。例えば、ブログにも書いたが、私がユニクロを評価するのは売上の裏にある素材にまで一つのポリシーをもってやってきたことにある。今回のヒートテック素材に象徴的に表れているが、フリースのユニクロから新素材開発のユニクロへと自ら変わろうとしている。しかも、籠った巣の中に、見事に入ることができる訳ありMDだ。GAPをお手本としてきたユニクロであるが、最早独自世界の創造へと向かっている。一時期若手に経営リーダーを移譲したが、再び柳井氏がリーダーに戻ったのも巨視的に見れば時代・生活者が次なる変化を必要としているからであろう。顧客主義という哲学をもってコンセプトチェンジすることにチャンスが生まれる。(続く)


同じカテゴリー(新市場創造)の記事画像
マーケティングノート(2)後半
マーケティングノート(2)前半
2023年ヒット商品版付を読み解く 
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半
マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半 
春雑感  
同じカテゴリー(新市場創造)の記事
 マーケティングノート(2)後半 (2024-04-07 12:53)
 マーケティングノート(2)前半 (2024-04-03 13:42)
 2023年ヒット商品版付を読み解く  (2023-12-23 13:30)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」後半 (2023-07-05 13:15)
 マーケティングの旅(1) 「旅の始まり」前半  (2023-07-02 14:01)
 春雑感   (2023-03-19 13:11)

Posted by ヒット商品応援団 at 14:26│Comments(0)新市場創造
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。

削除
コンセプトチェンジへ
    コメント(0)