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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2008年12月28日

明日をつくる者

ヒット商品応援団日記No329(毎週2回更新)  2008.12.28.

この一年間、特に「消費」という視点から生活者のライフスタイル変化を見てきた。9月のリーマンショックを引き金に、誰もが予測しない出来事がいきなり訪れ、雇用も消費も激変した。私は常に見るべき変化の視座に、生活者・顧客を置いてきた。生活者の消費変化、行動変化こそが未来を映し出す鏡であるとの認識に基づいていたからである。
ところで、タイトルの「明日をつくる者」という言葉は、ビジネスの師である P.ドラッカーが「マネジメント・フロンティア」の中で使っていた言葉である。

「明日というものは、無名の人たちによって今日つくられる。」

政治家でもなく、官僚でもなく、勤勉に働く普通の人によって、変化を受け止め、多くの困難さ、破局を乗り越えてきたという主旨である。P.ドラッカーは、この普通の人たちの力を引き出し活性させるためのマネジメントを確立した人物だ。そのマネジメントとは、組織中心の産業社会にあって、人が幸せになる方法そのものであって、単なる利益を得るための経営技術ではない。その組織とは、企業ばかりか、例えば病院経営やボランティア組織の運営についても言及している。ある意味、今日をどう生きるかという指針としてある。そうした意味で、今起こっている激変、更に激しくなる変化に、生活者・顧客はどう行動するであろうか、どんな明日を考えるであろうか、この一年のまとめのような形で書いてみたい。

前回、この一年の消費を巣ごもり消費状態であったと書いた。こうした自己防衛市場はガソリンを始めとした資源価格の高騰や中国冷凍餃子事件などによって急速に生活の隅々にまで浸透した。しかし、冬眠はしていないとも。もっと正確に言えば、私はインキュベーション、次に何かを孵化する状態にあると考えている。自己防衛とは出来る限り何かに依存しないで生きていくことでもある。収入が増えない以上、節約するか、「つもり消費」という代替アイディアを駆使する、購入するには「訳あり商品」を選択。安全が保証されないのであれば、家庭菜園のように自ら安全な食を作るしかない。国や大企業が、米国や輸出に依存してきたこととは大きな違いだ。依存からの脱却を生活者は自ら始めた一年であったということだ。

つまり、P.ドラッカーがいうところの勤勉に働く普通の人が行動し始めたということである。この一年そうした事例を消費変化を中心に書いてきたが、その象徴になるような最近の事例があったので紹介したい。鳥取県智頭(ちず)町という典型的な山間にある過疎の町で、町民自らがコト起こしの委員会を組織化し、アイディアを出し合い、しかも事業化の予算化を提案するというものだ。以前、「垣根をこえて」というテーマで、そこに新たな市場、ビジネスが生まれると書いたことがあった。旧来であれば対立するもの同士、相容れないであろう異なる世界、といった一種の境界・区分を挟んだ試みである。例えば、大企業と中小企業、産業と生活、文明と文化、行政と市民、企業とNPO、あるいは最近の環境問題で言えば文明と自然といった境界を超える試みである。鳥取県智頭町の試みは、まさに境界を超えたチャレンジである。

共生というキーワードがある。地球との共生、自然との共生といったように、異なる生物が相互に生かし合い、共に生きる術を見出そうとする考え方である。今風にいうとコラボレーションとかコンソーシアムということになるが、その根本思想は共生だ。が、そんなことが言われる以前に日本では江戸の人達はそうした考え方で生きていた。実は日本人にとってもっとも根本にある、いやあった考え方である。
自動車メーカーを始め、輸出企業の多くは一斉に非正規労働者の解雇を始めている。しかし、居酒屋大手のモンテローザやタクシー会社のケーエム等は解雇された人達の受け皿を引き受けようと手を上げ始めている。自治体もセイフティーネット体制を組み始めた。おそらくこれから日本は何で食べていくのか、産業構造が変化していくと思う。

例えば、日本には荒れ果てた休耕地が東京都の約1.8倍、約38万ヘクタールある。食の安全、食の自給率向上が求められているが、農地の用途目的の許認可を国から地方に移管すれば、その土地固有の産業化が可能となる。大規模農業に適した土地もあればそうでない土地もある。良く言われる論議であるが、日本の農地は平均30〜50ヘクタールに対し、米国は180ヘクタールで大量生産大量販売という価格競争力で負けてしまうと。しかも、カリフォルニアでは有機米コシヒカリを増産し、日本への輸出を狙っているとも。勿論、当分の間は高い関税は必要であるが、農業大国フランスの隣にあるスイスのように段階的に関税を引き下げ、農家の自立をはかっていくような対策ではなく政策=戦略が求められている。国はそうした農業に従事したいと願う企業や人にベンチャー支援を行えば良いのだ。地方を歩くとわかるが、起業したい若者は多い。

農業ばかりか、広大な日本の領海に眠っている各種希少金属の発掘に着目する専門家もいる。2004年までは太陽光発電市場では日本が世界をリードしてきた。確か、2006年に住宅用PV補助という政府支援が打ち切られ、2005年以降ドイツが世界市場牽引することになった。が、この市場も戦略をもって臨めば、再び世界をリードすることは十分可能だ。生活者が自立を目指し、行動し始めているように、国は依存からの脱却として、早急に次のグランドデザインを描かなくてはならない。
正月元旦の新聞各紙はこの点を間違いなく論評するであろう。それらの論評についても、またこのブログで書いてみたい。以前在籍していた会社の早朝勉強会の延長線上でこのブログを書いてきたが、4年目の正月を迎えようとしている。専門的なブログにも関わらず、多くの方に読んでいただいている。ただただ感謝。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 14:07│Comments(0)新市場創造
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