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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2008年12月21日

TVが消えてなくなる日

ヒット商品応援団日記No327(毎週2回更新)  2008.12.21.

テレビ朝日は、2009年3月期の業績予想を修正し、テレビ事業を手がける単体の営業損益は22億円の赤字、純損益は4億円の赤字になると発表した。TBSは、来年4月以降昼間4時間ブチ抜きの報道ワイド番組をスタートさせるという。それにともない、40年の歴史をもつ午後1時台の昼ドラも終了すると発表。広告収入が落ち込む中での、経費削減が番組編成を直撃したことによるものだ。既に、この傾向は数年前から始まっている。各TV局は、制作コスト削減のためにバラエティ番組や報道へのウエイトを高めてきた。バラエティ番組にはギャラの安いお笑い芸人やタレントを使い、報道番組はニュースの娯楽化と取材内容を繰り返し使うことによって、いわゆる経費削減を行ってきた訳である。しかし、テレビ朝日の決算予想に表れているように、広告収入に頼ったビジネスモデルは終焉を迎えようとしている。

こうしたマスメディアが相対的に情報価値を失ってきたのは、周知のインターネット上にGoogleが現れてきたことによる。インターネットという無料世界を身じかに使いやすくしたキラーコンテンツならぬ、キラーメディアと言えよう。オープンソースによって、研究者固有の知ですら公開共有され、使用される時代となった。多様な検索サイトが出現し、一番安い商品が選ばれるようになった。知においても、物においても、デフレを加速させた。この手法を駆使したのが価格破壊を行ってきた企業群である。最近では北海道に本社を置く、家具やインテリア商品などを激安で製造販売するニトリなんかが該当する。世界中から一番安い素材を調達し、ベトナムの工場に集め加工し製品化するといった具合のビジネスである。つまり、デフレという低価格のみならず、仕事すら国内から無くなる時代である。

民放TV局の収入のほとんだは広告で、それはどれだけ視聴率を得たかによって収益が左右される。広告はGRP(グロスレイティングポイント)という視聴率の単位で売買され、そのTV局とスポンサーとの仲介役が広告代理店である。1990年代半ばから、スポンサーは効率よく視聴率を得るために広告代理店に対し、入札のようなコンペを行うようになる。この価格競争は激化し、多くの広告代理店が統合合併されることになる。
こうした視聴率至上主義による価格競争はTV局間、広告代理店間だけでなく、他のメディア、特にネットメディアとの競争によって、いわばデフレ状態に陥ることとなる。こうして、TV局は経費削減のために番組の品質を落とし続け、負のスパイラル状態となり今日に至るのである。

既に、情報発信メディアは顧客の側に移っている。こうしたブログもそうであり、YouTubeにも多様な動画情報が集まっている。日本においても「勝手広告」が始まっているが、米国では素人ビデオCMが人気だ。既に一元的価値時代から、多様な多元的価値時代へと移っている。つまり、多元的情報を必要としているということだ。
そもそもマス広告に意味があったのは、日本がモノ不足であった時代だ。不足を商品で埋めていくには広告が必要であった。モノは大量に生産され、広告という手法によって伝えられ販売され、顧客は生活の中に取り入れていた時代である。そうしたモノが満たされた今日、好みは多様になり、マス広告では市場創造できないことは最早自明である。こうしたマス広告収入を経営の基盤に置くビジネスモデルはますます成立しなくなるということだ。
小売業で唯一売上を伸ばしているのは周知の通販である。例えば、TV通販専門チャンネルのジュピターショップチャンネルは1000億を超え、今流行の「わけあり商品」以上にわけありを分かりやすく五感で伝えている。TV番組に挿入されるCMのような分断された伝え方とは全く異なる。どちらが売上に結びつくか明白である。

ところで日経MJの2008年ヒット商品番付にも入っているNHKの大河ドラマ「篤姫」は平均視聴率は24%である。民放と単純比較はできないが、ドラマとしての完成度は比較にならないほど高い。番組は商品であり、コンテンツこそ独自な商品でなければならない。ここ1年ほど、どのチャンネルを回してもクイズ番組ばかりで、しかも同じような一発芸人やタレントが並ぶ。まるで金太郎飴のような番組ばかりである。しかも、「クイズの答えはCMの後で」といったあざといやり方には辟易する。結果、TVを見たいと思うような視聴者はどんどん少なくなっていく。

「プロの逆襲」のところでも書いたが、もし生き残ることができるとすればテレビとは何であったかを今一度考えることから始めなければならない。視聴スタイルは家族・世帯単位から、個人へと変わってきた。情報発信メディアも多様な選択肢を個人が持ち、しかも自ら発信できる時代である。しかし、正確なデータによるものではないが、誰もがTVに釘付けになった番組はある。世界一を決めたWBCでの日本チーム、特にイチローの気迫。北京オリンピックソフトボールの決勝戦、あの「上野の413球」である。報道においても古くはなるが、あの阪神淡路大震災の時のヘリコプターから映し出される延焼し続ける火災の情景は今なお記憶に残っていることだろう。
今、音楽業界が低迷していると言われている。確かに大きなヒット曲もなく、CD売上は年々下がっている。アルバムを買うのではなく、好きな曲だけを安くダウンロードできる時代だ。しかし、クラシックからJPOPまでライブコンサートには多くのフアンが押し寄せている。何故か、そこにはリアリティ、臨場感、その場その時の空気感、そんな五感を震えさせてくれるものが求められているからだ。テレビの原点とは、こうした五感に訴えてくるコンテンツであった筈だ。この原点に戻りえなくなった時、TVは消えてなくなる。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:52│Comments(0)新市場創造
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