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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2008年12月03日

触る時代へ

ヒット商品応援団日記No322(毎週2回更新)  2008.12.3.

2008年新語・流行語大賞が決まったが、過剰情報の時代を良く表している。「グ〜!」は既に鮮度を失って使われなくなっており、「アラフォー」は特定の世界、世代や雑誌業界で流行った言葉である。40歳前後の女性の頑張り、明るさが暗い時代に一筋の光を与えてくれている、といったコメントが出されていたが、そうではない。この2つの流行語に共通していることがあるとすれば、それは言葉の軽さであり、浸透は速いが瞬時に忘れ去られるということだ。情報過剰の時代とは、いわば供給過剰、言葉のデフレ時代のことである。広告的言い方をすると、キャッチコピーだけで、人の興味・関心は惹きつけるが、それ以上でも以下でもない。

一年半ほど前に「五感の取り戻し」というテーマで、便利さと引き換えに視覚と聴覚の感知能力が失われていると書いたことがあった。都市における過剰な光、そして過剰な音に囲まれた生活から、本来の自然の光や音を取り戻す動きについてであった。ところで視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の五感のうち、最も不可欠な感知機能は触覚であると指摘していたのはコラムニスト天野祐吉さんであった。「握手しても何も感じない。つねられても、ちっとも痛くない。好きな人と抱き合っても、なんの感触もない。やだよ、そんなの。」(「言葉の元気学」より)猿の毛づくろいを例に挙げ、人間はその毛づくろいという触覚コミュニケーションが言葉になった、と。つまり、言葉でさわりあう、つながりあう、という訳である。言葉も触覚のうちであると私も思うが、さわりあう、つながりあう、という基本の感覚が今一番求められていると思う。

ところで、この感覚をビジネスあるいはマーケティングに落とし込んだらどうなるであろうか。意識するしないに関わらず、既にヒット商品の多くは、さわりあう、つながりあう感覚によるものが多い。今なおブームが続く家庭菜園や田舎暮らしの農業も身体で自然とさわりあうことである。土に触れ、陽を浴び、水をやり、育てるとは自然とさわりあうということだ。あるいは、一昨年注目されたキッザニアにおける体験学習も社会とさわりあう、つながりあうことを模擬的に行うテーマパークである。キッザニアの優れた点は、単なる体験学習ではない。そこには労働の対価としての模擬通貨による経済社会の在り方にさわり、つながる感覚の学習である。
最近の傾向の一つである外食から内食への流れとして、今年も鍋は人気で、昨年はカレー鍋であったが、今年はご当地鍋として深化していくと思う。鍋を囲むとは、鍋でさわりあう、つながりあう食である。昨年のヒット商品で今なおヒットしている任天堂DSのwiiはバーチャルゲームに「さわる」感覚を取り入れたゲームソフトである。つまり、さわることのないバーチャル化した過剰世界から、個人の触覚を取り戻したということだ。

顧客接点であるビジネス現場ではこれからどういうことが大切になるであろうか。その前に、既に起こっている価格の「わけあり」について、認識しなければならない。今、円高による商品は流通が還元セールによって安く提供しているし、おそらくかなりの期間円高は進みデフレ傾向が進むと思う。勿論、円高といっても小麦価格のように、安くなるにはタイムラグはある。つまり、全体としてはデフレが更に進むと思うが、商品によっては価格の高いものも出てくる。こうした急激な変化を、どう提供者も消費者も「さわること」が出来るかという課題である。つまり、「わけあり」情報をどのように「さわれる言葉」として伝えていくかだ。
ところで、言葉でさわりあうとは、あいさつであり、対話ということになる。互いにさわりあう「あいさつ」とはどういうことであるか。過剰となっているテクニカルなあいさつではない。体験学習を積んだ顧客は最早だまされることはない。ましてや「自己防衛」として内に防波堤を築いている顧客である。

私自身正解はないと思うが、唯一近い解があるとすれば「生身の言葉」「自身の言葉」ということになる。少し前書いた「プロの逆襲」のところでも触れたが、プロの仕事は見えないところ、特に基本を十分踏まえた仕事であると。何か十数年前までは至極当たり前の修行の原則のようなことを書いたが、表現する術を持っているように思ってきたが、実は持ってはいなかったということだ。チェーンビジネスが苦戦している理由の一つがマニュアルである。商品品質、サービス品質の標準化のためであるが、マニュアルを伏せて、まずは生身の身体で言葉で顧客と向き合ってみることだ。

私が若い頃外資系広告会社に在籍していた時の話であるが、マクドナルドを担当していた同僚とあることをしにマックの店舗をチェックしに行ったことがあった。初期の頃のマクドナルドであるが、ある意味創業者であった故藤田田社長からの依頼で、マニュアルにはないことを店頭でオーダーしチェックして欲しいという内容であった。私はビッグマックを頼んだ際、「マスタードをつけてね」と、マニュアルにはないことをオーダーした。店頭にいた若いクルーは慌ててバックヤードにいた店長に聞きにいったことを今でも覚えている。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:44│Comments(0)新市場創造
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