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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2008年11月16日

プロの逆襲

ヒット商品応援団日記No317(毎週2回更新)  2008.11.16.

タイトルのように「プロの逆襲」と書くと、今は素人の時代と思われるかもしれない。バブル崩壊後、本業、本道、本物、匠、専門、こうしたキーワードが物づくりやサービスの主流を占めてきた。しかし、ここ数年前から、そうしたプロの世界がいとも簡単にユーザー・顧客の側に移ってしまった。例えば、料理の世界でいうと、料理人の固有であった技・レシピは書籍どころかネット上に溢れ、プロが使う道具類についても浅草近くにある「かっぱ橋道具街」に行けば同じものが購入できる。レシピ本「おつまみ横丁」がベストセラーになり、家庭で作るパン焼き器なんかがヒット商品になる。酵母菌の知識ばかりかプロ仕様と言われてきた素材や道具がいとも簡単に手に入るようになった。パン好きが高じてパン屋を始めたり、蕎麦好き、お菓子好き、家庭菜園好き・・・・好きはプロの入り口となり、起業する人が増えている。このこと自体は決して悪いことではないが、プロとセミプロ素人との境目が無くなりつつある。

こうした傾向は料理ばかりかあらゆるところに表れている。「ゆるキャラブーム」を下支えしているのは、プロのデザイナーではなく、漫画やアニメに慣れ親しみイラストを気軽に書いている若い世代がチョット投稿してみようかといった具合である。プロの小説家による書籍が売れない中、ケータイ小説のヒットもそうしたユーザー・顧客の側から生まれた。金融の世界におけるデイトレーダーも同様である。今までの作り手、供給者がユーザー・顧客の側に移ったということである。数年前からサービス現場で言われてきたことは、目の前の顧客は知識も経験も積んだ「プロ顧客」であると認識しなければならないと。生半可なプロは通用しない時代になったということだ。

こうした時代にあってプロはどう対応しているであろうか。生半可なプロ、あるいは一般化してしまった専門業態には2つの道しか残されていない。1つは今以上に価格を下げて、変化を取り入れ回数多くビジネスを回していく方法である。もう一つが、時を超えて変化に動かされることのない「何か」を創り、継承していく道である。前者を変化対応型トレンド追求ビジネス、後者を老舗型伝承ビジネスと言えよう。あるいは欧米型と日本型と置き直してもかまわない。商品や業態にもよるが、実は現状においては前者の方が圧倒的に市場規模は大きい。

ビジネスを類型化していくと以上のような道となるが、より根本のところでプロの逆襲が始まっている。結論から言うと、「作り手」をユーザー・顧客から取り戻す試みである。以前、「歌が痩せていく」というテーマでブログを書いたことがあったが、その時代変化を歌手と聞き手という関係に置き直してみると分かりやすい。今や歌は簡単にしかも200円〜300円と安くダウンロードできるようになった。また、高校生からシニアまでカラオケに行ったことがない人を探すのが難しいぐらいの時代だ。作り手であった作詞家・作曲家はネット配信やカラオケで歌われることを前提に楽曲を作るようになった。いわゆる歌のマスプロダクト化、大量生産大量販売である。結果、歌いやすいメロディ中心の楽曲となり、歌はユーザー・顧客の側に移り、歌い手として存在するようになる。こうした歌のマスプロダクト化は、売れ筋ばかりのものとなり、類似曲が溢れすぐに飽きられてしまうという宿命を持つ。歌も他のトレンド商品、情報商品と同じように、ライフサイクルは極端に短くなっていく。

ところで、作り手としての「歌い手」を取り戻す、プロの逆襲の先鞭をつけたのは氷川きよしであろう。そして、最近では黒人演歌歌手ジェロで、「海雪」は30万枚のヒットとなった。両者共に、歌い切るには高度な技術を必要とする。作り手であったユーザー・顧客は、今一度「聞き手」へと戻っていく。こうした取り戻しには作詞家や作曲家の本来の役割回帰が必要であるが、楽曲の最終表現者はやはり「歌い手」である。あの阿久悠さんが最後に作詞し、歌謡曲復権の原石としたのが、「あさみちゆき」である。東京ローカルではあるが、数年前「井の頭公園の歌姫」として、その路上ライブが話題となった歌手だ。阿久さんが作詞したアルバム「あさみちゆき;青春のたまり場」は8万枚売れているという。原石がどのように磨かれ、次の歌謡曲の作り手となりえるか分からない。
歌は時代を映し出す鏡のようだと言われているが、それは聞く人の心の底に沈殿している出来事や風景を想起させてくれるからである。その根っこのところに、言葉、作詞がある。時代の歌とはそうしたものだ。

歌の場合、プロであるために歌の根っこに言葉を置く。どんな言葉が時代の空気感を振動させるか、歌い手はその小さな物語を創っていく。例えば、パン屋さんはその根っこに「何」を置くのであろうか。寿司屋さんはどうであろうか。ロボット技術の発展は凄まじく、にぎりの職人技のかなりの技術部分を網羅し、機械が提供している。今、東京で静かなブームとなっているのが、昔からある江戸前寿司である。職人の手作りとなるこはだの酢じめ加減、手作りされる煮蛤や煮穴子、いわゆる見えないところの「下処理」、「加減」にプロの技がある。ある意味、京料理が廃れない理由が「出汁(だし)の取り方」にあると言われているのと同じである。基本が持つ奥行きの深さ、見えないところにプロの技があり、それを支えるのが手間を惜しまないプロの精神である。見えないということは、小さな違いである。決して大きな分かりやすさはないが、どこか違う。そんなプロの技は細部の見えないところに宿るものだ。
残念ながら景気はますます悪化していく。消費心理は内側へ内側へと向かう。価格を超えてこの内側に入ることができるのは、作り手としてのプロの技、プロの精神によってである。これから、プロの逆襲が始まる。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 14:07│Comments(0)新市場創造
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