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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2008年11月05日

未来実感

ヒット商品応援団日記No314(毎週2回更新)  2008.11.5.

株や投資信託といった金融ばかりか次々と未来投資、将来投資が破綻している。以前、「うわさの法則」について書いたことがあるが、うわさの発生は不安の変種であり、根本原因は同じである。うわさの流布は「情報の重要さ」×「情報の曖昧さ」に比例する、という法則である。例えば、金融関連企業の間で、「今資金が引き上げられたらこちらも破綻する」×「その情報の出所は分からない、どうもそのようだ」、といった具合にうわさが発生し疑心暗鬼が起きたということであろう。全て「これからどうなるであろうか」という未来への不安である。今、求められているのは、悪いことも良いことも、全て未来にあるとした実感である。

株式や投資信託といった商品は、機関投資家のみならずシニア個人にとっては老後のための資金運用=未来投資としてある。そうしたシニアの個人投資家の多くはいわゆる塩漬け状態で保有するしかないであろう。あるいは株価が少し戻った段階で売り、元本が保証された預金的な金融商品へと向かう。そして、今後株を購入する場合は、前回書いたように「非レバレッジ」投資として、自らその企業や不動産を実際に見て体験し、確認をすることによって投資を再開するであろう。単なる数字上の虚の世界から、使用体験といった実の世界での判断という価値観転換が起きるということだ。キーワード的にいうと、未来はわからない、しかし少しでも「未来実感」する結果としての投資となる。恐らく、シニアにとっての未来は孫や子の成長へと重点が更に移るであろう。全体としての消費は縮小していくが、こうした未来実感できる家族単位での記念日消費やギフトといった消費は堅調であろう。

未来は全ての人にとって等しく若い世代にも訪れる。少し前まで売り手市場であった就職は第二次氷河期に入るのではという不安が蔓延しているという。また、売り手市場の中で花形企業であった外資系金融はリーマンショックと共に瓦解した。それでも目指すという一部学生はいるであろうが、多くは日本の大手企業を目指していくと思う。キーワードとして言うならば「安定」ということになる。一昔前の、昭和の時代の労働観=就職観である終身雇用、年功序列といったキーワードを思い起こさせる価値観だ。拓銀、山一の破綻、ITバブルの崩壊、ホリエモン事件、一連の社会的事件を目の当たりにしてきた若い世代にとって、未来投資は「自己投資」へと向かってきていた。いわゆる自分磨きや資格取得であるが、その中心的役割を果たして来た英会話のNOVAは破綻し、更には海外留学のゲートウエイ21までもが破綻した。

一見、未来への入り口が見えないように思えるが、そうではない。大手企業に就職したとしても安定はないと考えなければならない。米国の2人の大統領候補は内容は異なるが同じように変革をテーマとしている。今回の金融危機は、共和党マケイン候補どころか、あのネオコンのリーダーであるF・フクヤマですら、レーガン主義〜金融資本主義の終焉とアフガン・イラク戦争による信頼の失墜を明確にしている。つまり、大きく変わっていく時代に入り、誰もが未来は分からないということだ。そんな時代に安定などあり得ようが無い。逆に言えば、不安定、混乱をすら楽しめるように覚悟を決めれば良い。もし、未来実感できるとすれば、本当に好きなことを仕事のテーマとすることだ。あのアップルコンピュータの創始者の一人スティーブジョブズは「自分が本当に心の底から満足を得たいなら進む道はただ一つ。自分が素晴らしいと信じる仕事をやる。それしかない。そして、素晴らしい仕事をしたいと思うなら、進むべき道はただ一つ。好きなことを仕事にすることだ」と語っているが、つまり「好きは未来の入り口」というシンプルな生き方ということだ。

ところで、どんなに世界が激変しても、この少子高齢社会は変わらない。確か1990年代後半頃だと思ったが、生産年齢人口が減少に移ったとして唯一警鐘をならしていたのは堺屋太一さんだけであった。そして、今回8病院に断られた妊婦の死が明らかにしてくれたように、東京ですらお産ができないような情況へと至ってしまった。更には、東京ではハッピースマイル保育園20数カ所が破綻し、園児が行き場を失っている。もし不安というならば、子を産み、育てることすらできない情況になりつつあるということだ。父母にとって何よりも未来を実感できるのは我が子である。

今、政府は景気対策として定額給付金2兆円を使って個人消費を高めようとしている。しかし、こうした根底に横たわっている不安に触れない限り、消費には至らない。コトは単純である。産科、小児科の医師不足や後期高齢者医療制度、あるいは年金といった諸制度の根本改革の入り口に予算を割り当てれば、不安の何分の一かは解決できる。スウェーデンのような高福祉高負担にするのか、いや中福祉中負担がよいのか、こうした論議を踏まえ、まず無駄を削り、段階を経て消費税を決めれば良いのだ。また、当然であるが、これから「何で飯を食べていくのか」といった議論も不可欠となる。残念ながら、世界の消費エンジン役を果たしていた米国はその消費は当分の間ストップする。景気が悪いということだけでなく、クレジットカードでリボ払いがごく普通であるようなライフスタイルそれ自体を米国民自身が変えようとしているからだ。新大統領はオバマ氏が勝利し、従来の日米関係も変わるであろう。日本も資源輸入・輸出依存という外需型の産業構造を変えざるを得なくなる。日本においてもこれからますます景気は悪くなる。しかし、不安が鬱積し、更に激変する時代であればこそ、未来実感できることが希求されている。顧客は、市場は、何に未来実感するか、新しい市場創造はここから生まれるであろう。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 13:44│Comments(0)新市場創造
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