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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2008年11月02日

非レバレッジの世界へ

ヒット商品応援団日記No313(毎週2回更新)  2008.11.2.

前回「物見遊山」という江戸の思想についてふれたが、単に人生を楽しむといったことではない。「物見」という、苦労もあれば喜びも悲しみある実体験を通した、それ自体を楽しむ思想のことである。確か昨年末のブログで、不況は既に始まっている、と私は指摘した。それは、いざなぎ景気を超えたと言われ、景気については心配ないと多くの経済アナリストがまだ語っていた時期である。しかし、地方を歩いて実感したのだが、東京で感じる「地方の疲弊」と地方に行って感じることとの間には大きな落差がある。鳥取や沖縄に行って感じることは、例えばシャッター通り化した商店街とメディアはいうが、人の声すら聞こえない澱んだ空気の通りを歩いてみて初めて分かることがある。
鳥取では人口流出が止まらず、60万人を割ってしまっているが、結論から言えば働きたくても「仕事が無い」という状態だ。沖縄では観光客で溢れる那覇の国際通りを少し入ったところにある破綻したダイエーは、その後の計画は頓挫し閉鎖されたまま放置されている。今まで見たことが無かったホームレスもここ1年ほど前から頻繁に見るようになった。他にも多くの「物見」があるが、東京で接するメディアからの情報がいかに違っているかということだ。

私は今回の金融危機の原因は、突き詰めれば「証券化」と「レバレッジ」にあると書いたが、金融という枠を広げても多くの問題点にあてはまる。証券化という商品開発については後日書くつもりであるが、今回はレバレッジについて私見を書いてみたい。レバレッジはテコの原理と同じであるが、もっと平易にその意味合いを広げると、「少ない労力で、大きな成果を上げる」ということであろう。労力をお金に変えても、時間に変えてもかまわない。ある意味、極限まで「楽して儲ける方法」として生まれたのが金融工学であり、その方法を力として世界中のお金を集めたのが米英の金融資本ということだ。
金融破綻というレバレッジ体験は、影響の大小はあるが、米国内にとどまらず全世界に、政治経済のみならず、生活の中にまで大きな変化をもたらす。勿論、懲りない人達はいて、新金融工学なるものを編み出す人達も出てくる。私のテーマは金融ではないので分からないことも多く、ここでは日本の生活にどんな変化をもたらすか、既に始まっているかを指摘をしてみたい。

今、生活不況の対策として「節約術」が盛んであるが、これはこれでライフスタイルとして必要な知恵となる。総務省の家計調査を見るまでもないが、9月の家計収入は前年同月比マイナスである。今年の冬のボーナスは予測通りマイナスとなる。ところで既にその予兆として出ているのが、支出を抑えると共に、「労力」を逆に使って楽しむ「手作り」への潮流である。「食」については安全・安心を背景に、既にヒット商品となっている家庭菜園と共にベランダ菜園からパン調理器といった具合である。自家製パンなどは素材である小麦粉は30〜40種類、発酵させる酵母などは20種類ほど用意されている。外食から中食へ、そして内食へという大きな潮流は内食そのものを楽しむことへと向かっている。自分で作る味、既に失ってしまった「おふくろの味」を作ることでもある。一見直接的なつながりはないように見えるが、レバレッジという見えない世界の苦い体験は、手作りという見える体験実感へとつながっている。消費という視点に立てば、既に作られた外食や中食からの食メニュー変化として、素材のバリエーションと共に、作る「道具」が売れ、道具をどのように使うかという「方法」(=レシピ等)が売れるということだ。もう少し着眼点を広げると、完成品ではなく、半完成品、半加工品、といった手を加えることが出来る商品が売れていくということである。また、中国製餃子事件以降、冷凍食品が急激に売り上げを落とした。夫婦共稼ぎの場合、手作りという手間のかかる料理はどうかというと、ある程度の量をまとめて手作りをし冷凍保存するような方法が採られている。結果、冷蔵庫は冷凍庫だけでなく、味を保つ「急速冷凍庫」なんかの新機能は標準装備となるであろう。

ここ数年消費の底流となっている長く使える商品、ロングライフ商品というお気に入りには一定の支出をするであろう。更に、こうしたお気に入り商品を更に長く使うための修繕サービス、リフォームサービスも盛んになる。情報や流行に流されないデザインを追い求め、売り、伝えていくことこそがブランディングであると行動するナガオカケンメイ氏なんかがその代表であろう。最近注目されている森陰大介氏によるモリカゲシャツも同じ価値観である。京都を基盤に、メンズシャツを世界へと販売。汚れたり、色あせて着なくなった服を藍(あい)染めで染めかえるエコデザインプロジェクト「ebebe/エベベ」をスタートさせている。売って終わりのビジネスではなく、売ることから始まるビジネスということだ。
1990年代から言われてきた「豊かさ」とは何か、数年前から盛んに言われてきた「上質」な生活とは何か、に一つの答えを見出し始めていると思う。キーワードとして言うならば、顧客を「ホームライフクリエーター」として見ていくということだ。

レバレッジとは目的地に向かって走る高速道路のようなものである。IT技術によって、誰もが高速道路に上がることが出来るようになった。ところが、目的地の少し前で大渋滞に出会ったようなもので、一般道に降りようにも降り口が見当たらない、というのが現在であろう。渋滞の中にあって、ルール違反者も当然出てきた。しかし、少し前までは一般道を走り、回りの景色を楽しんでいたことを思い起こせば良いのだ。以前、ライブドア事件に関し、ホリエモンについて「二十歳の老人」という喩えでブログを書いたことがあった。情報的には多くの体験を積み、まるで老人の如くであるが、実体験、リアル体験のない二十歳にとって大きな落とし穴があった。生き急いではならない、という指摘であった。今、沖縄で小さな勉強会、塾を開いているが、その参加者の一人に「ゆらり号」という車を使った移動カフェを起業した「ゆらりのマスター」がいる。人物もそうであるが、穏やかで、ほっとするなごみのカフェである。まさにレバレッジとは正反対に位置した等身大のビジネスである。人物の成長とともに、ビジネスも必ず成長する。(続く)


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Posted by ヒット商品応援団 at 14:19│Comments(0)新市場創造
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