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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2021年08月03日

2021年の夏  

ヒット商品応援団日記No794(毎週更新) 2021.8.3

2021年の夏  


昨年の夏GoToトラベルがスタートし、観光産業は活況を見せていた。TVメディアは「お得な旅」の特集を競って報道していた。ただ夏休みの旅行については読売新聞の調査であったと思うが、旅行はしないとした自制する生活者が60%を超えていたと記憶している。今もTVメディアに出演している感染症の専門家の一人はGoToトラベルを「社会的な実験」と呼んでいた。ちなみにGo To Eatキャンペーンは10月1日よりスタートした。
さて、今年の夏はどのようなコロナ禍を迎えているかを比較してみると現在の状況が浮かび上がってくる。
・2020年7月30日の感染者数(東京);463人、
・2021年7月31日の感染者数(東京);4058人、
今年の夏はGoToトラベルに代わって東京五輪における日本選手の活躍がTVメディアを賑わしている。ところでGo To Eatの対象であった飲食店は周知の通り、廃業と休業、あるいは時短要請に従わない営業店が急増している。(日経新聞をはじめいくつかのメディアが調査をしているが、少なくとも都心繁華街の飲食店は50~70%の店が時短要請に従わない従来営業を行なっていると。)ちなみに、時短要請には従わず、東京都に対し提訴しているグローバルダイニングは2021年1~6月期の決算を発表している。その内容だが、売上高が前年同期比92・3%増の47億円、純利益が5億円の黒字で、前年同期は9億円の赤字で大きく改善したとのこと。これは今年は緊急事態宣言下、まん延防止等重点措置の中でも営業を続けた結果だと話した。協力金を得ながら赤字の多い飲食業界にあって、この黒字決算をどう受け止めるか業界のみならず、政府・東京都も考えるべき事例であろう。

また、昨年と比較し大きく変わったのがワクチン接種である。医療従事者から始まり、高齢者への接種は東京では71.94%(2回目接種・7月28日時点)と進んでおり、感染者の内訳にも高齢者の比率が大きく下げている。高齢者本人のワクチン接種もさることながら、高齢者のクラスター発生が多かった介護施設の従事者や医療従事者がワクチン接種を済ませたことが大きな要因となっている。なお、ワクチン供給がストップしている問題については前々回のブログ「不安から不信へ」を参照ください。
また、昨年の新型コロナウイルスの変異種であるデルタ株が猛威を奮っているが、従来型と比較し、感染スピードが極めて早いという特徴を持っている。(なお、毒性の比較論文についてはほとんど発表されてはいない)

こうした状況を踏まえ、政府分科会の尾見会長は国会で「強い対策を打ってみんなが危機感を共有しない限り、この傾向はしばらく続く」と指摘した。「人々に危機感を共有してもらえるメッセージと、感染状況にふさわしい効果的な対策を打つこと(が必要)だ」とも語りた。つまり、コロナ禍1年半、最早従来のような「考え」のもとでは生活者・個人の自制に頼った政策は意味を持たないという指摘である。ある報道番組の渋谷に集まる若い世代へのインタビューで「政府は東京五輪というお祭りを進めているが、自分たちもこの夏を楽しみたい」と発言していた。渋谷周辺はセンター街を始め、路上飲みのグループが多数集まり、東京の繁華街はパーティだらけとなっている。つまり、若い世代にとって東京五輪には興味はなく、路上パーティの方が楽しいとした見事な「すれ違い構図」となっている。尾見会長が言う「危機感の共有」どころの話ではないと言うことだ。

政府は8月2日から首都圏3県、大阪府を加え緊急事態宣言を発出した。若い世代のみならず多くの人はそのメッセージ効果は無いと感じているが、期間は8月31日までの期間(延長)となった。この期間延長はワクチン効果による感染拡大を止める効果を狙ってのことと想定されるが、果たしてそのような結果が得られるか疑問に思う専門家は多い。ただ、この1年半で現場医療は治療の精度は上がり亡くなる患者は極めて少なくなっている。問題なのは病院やホテルへの収容が追いつかない、つまり自宅療養と言う感染者が膨大に膨れ上がり、東京の場合自宅両両者は既に1万人を超え、病院などへの調整患者を含めると2万人を超える現状となっている。
ちょうどこのブログを書いている最中に政府から医療体制の方針転換についての発表があった。既に報道されているので詳細は新聞記事をみて欲しいが、重傷者及び重症化のリスクの高い患者以外は自宅療養を基本とすると言うものであった。自宅療養をサポートするためのオンライン診療や酸素吸入器具などを用意するとのことだが、以前から指摘されていたことばかりで医療逼迫を前に「付け焼き刃」策としか思えない方針に感じる。
例えば、東京や大阪でも民間で行われている訪問診療はあるが、そうしたケースは極めて少なく、課題なのは自宅療養者への訪問診療のシステム化である。特に民間の町医者の人たちの力を借りての制度化・システム化である。初期の頃の新型コロナウイルスの医療とは異なり、重症化しても救命治癒できる経験を積んできた現場医療がある。ただ人工呼吸器やエクモの装着は患者本人の意識はないところで行われるため、遺書を書いて臨む患者も多いと言われている。今、直面している課題は重症化させないための医療、中等症患者への対応であり、今回の政府方針は少なくとも半年以上前、第三波の時に提示すべきで、あまりにも唐突過ぎたもので大きな混乱を生じさせている。

ところで、あの「8割おじさん」で知られている京都大の西浦教授は強いメッセージとして、大阪のような医療破綻する前に「東京五輪の中止」しかないとSNS上で発言している。勿論、法改正の問題もあるが都内はロックダウン、外出禁止要請をと発言している。
海外メディアも、例えばニューヨーク・タイムズは、「感染者が過去最多の東京で、オリンピックのバブルは維持できるのか」という見出しで、「安心で安全な大会という約束が試されている」と報じている。
ところで今回の第五波のピークはどの程度の感染者数になるか、ピークアウトはいつごろになるか、と言うことである。それはどのような感染者の「山」を描くかと言うこと、つまり拡大期と鎮静化は同じような山を描くか過去4回の経験則でわかっている。具体的に言うと、第五波のピークを8月初旬とすると、拡大期は6月半ばから2ヶ月ほどかかっており、同じように鎮静化するには2ヶ月ほどかかるとすれば、ある程度沈静化した「日常」に戻る時期は10月になると言う予測が成り立つ。つまり、今回の第五波を終えるにはかなりの時間がかかると言うことである。勿論、高齢者以外の世代へのワクチン接種がどの程度のスピードなのかによる。

こうした社会現象の1年前との比較で一番大きな「違い」は生活者・個人の「心理」である。マスコミの常套句として、コロナ疲れや慣れという表現を使っているが、1年前を思い起こせばどうであっただろうか。当時は「自粛警察」がキーワードとなっていた。営業を続けるパチンコ店などを取り上げメディアはこぞって非難していた。その背景にはコロナウイルスへの「恐怖」があってのことだが、例えば夏休み・帰省に際しては「県外の方、ご遠慮ください」といったことが地方の街の至る所で散見されていた。1年後、最早「恐怖」は無いといっても過言では無い。但し、大阪のように自宅療養者の中から死者が続出するといった事態、医療崩壊の寸前と言った状況には東京の場合至っていないため、「恐怖」はほとんど無いと言っても過言では無い。
「心理」は情報によって大きく左右される。しかも、養老孟司さんの「バカの壁」ではないが、人間は自分にとって都合の良い「情報」しか信じようとは思わない。それは政治家だけでなく、生活者・個人も同様である。今、その「心理」を支配しているのは東京五輪である。つまり、日本選手の活躍によって、恐怖はかき消され、冒頭写真のように新国立競技場前のモニュメントは記念撮影スポットとなり、順番待ち時間は数十分と言う有様である。また、トライアスロンの競技では、お台場周辺の沿道には多くの観客が殺到する状態となっていた。いくら「不要不急」の行動は謹んでくださいなどと言っても意味をなさない。

問題なのは、オリンピック終了後の状況である。つまり8月8日に終え、以降感染状況はどうなるかである。私の場合、東洋経済オンラインのデータを参考としているのでそのデータによると、東京の実効再生産数は1.74、全国は1.77となっている。この実効再生算数の結果が東京の場合4000人前後の感染者となって現れていると言うことだ。多くの実効再生産数の計算は2週間前のデータを元にしているので、その頃の人流は夏休みに入る頃であり、ちょうど増加し始めた頃である。専門家ではないのでピークアウトの時期やその感染者数を予測はできないが、政府分科会の尾見会長の言に従えば人流が減る要素はないとするならば、このまま感染拡大が減少することはない。いずれにせよ今年の夏休みは「ない」と言うことだ。しかも、感染の山は大きく、長く続くこととなる。東京五輪の熱狂が覚めたお盆休み明けの頃どんな「心理」となっているかである。前回のブログにも書いたが、ワクチン接種を済ませた高齢者は旅行を始め飲酒などの会食に向かうであろう。グローバルダイニングの決算事例ではないが、アルコールを取り扱い通常営業する飲食店は更に増加し、感染した自宅療養者は更に増加し・・・・・・・つまり、世代や置かれた環境の違いからまさに混沌とした「社会」が想定される。こうした混乱に対し、ワクチン接種しか打つ手がない政府・行政であるが、公的接種から除外されていたアストラゼネカ製のワクチン摂取がどこまで浸透するか、ある意味政権の命運がかかっているといえよう。
またコロナの恐怖から離れた心理はどこへ向かうか、東京五輪によってもたらされた「楽観バイアス」を持ち出すまでもなく、自分都合の行動は激しくなる。特に若い世代に対して再び矛先を向けているが、ワクチン接種を勧めても聞く耳を持つ人は少ないであろう。それは高齢者が肺炎の恐ろしさを身近に実感しているのに対し、若い世代は今もなお軽症もしくは無症状だから大丈夫と言った認識のままであり、わざわざワクチン接種をする合理的な理由が見出せないとする。おそらく9月になっても大学の授業はオンラインのままであろうし、緊急事態宣言が終了してもまんえん防止策へと向かうこととなり、・・・・・・・・悪いシナリオであるが、夜8時以降通常営業している飲食店に集まり、あるいは自宅を会場としたミニコンパなどが常態化するであろう。感染は減少することなく、自宅療養者は更に膨れ上がっていく。

2年目の夏を迎え、コロナ恐怖の受け止め方の違いが個々人によって明確に異なってきたと言うことである。9月以降のビジネス・マーケティングの課題はそうした個々人の心理に即したものとなる。「巣ごもり生活」からどう抜け出すかで、そのキーワードの根底は前回のブログのタイトルのように「失ったものの取り戻し」となる。この1年半失ったものは「何か」を考えることだ。前回のブログでは大きな潮流として過去に遡る「思い出消費」について書いた。「思い出」を通し、それまでの日常を取り戻すことであるが、「昭和レトロ」のように過去へも遡っていくであろう。
次回は「恐怖」から解き放たれた心理について詳しく書いてみることとする。(続く)


タグ :東京五輪

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Posted by ヒット商品応援団 at 13:06│Comments(0)新市場創造
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