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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2021年02月14日

未来塾(43) コロナ禍の飲食事業事例「前半) 

ヒット商品応援団日記No779(毎週更新) 2021.2.14.

今回の未来塾は2回目の緊急事態宣言が発出され、時短営業と言う苦境に立たされている「飲食事業」を事例として取り上げてみた。1年近く巣ごもり生活が続いているが、そうした中にあって外出する顧客はいる。感染防止は当然図られている「飲食店」であるが、そうした顧客を惹きつける工夫やアイディアが随所に見られる。今回はそうsした魅力を5つの事例を通して学ぶこととした。

未来塾(43) コロナ禍の飲食事業事例「前半) 


 
コロナ禍から学ぶ(4)

「コロナ禍の飲食事業事例」

「不要不急」の中に楽しさを見出す。
「気分転換」と言う満足消費。
ライフスタイル変化の兆しが見え始めた。

再び落ち込む消費

再び緊急事態宣言が発出され、飲食事業者を中心に更に時短営業が延長されることになった。昨年の4月には既に生活行動の範囲がご近所エリアへと萎んでしまうとブログに書いたが、昨年の夏以降生活行動は徐々に広がりを見せてきた。しかし、年明け早々の第3波に続き緊急事態宣言の発出によって再び小さくなった。TVメディアは「人出」を昨年の4月の時と比較し増加していると報じているが、昨年4月は食品スーパーやドラッグストア以外はほとんど自粛している状況と比較し増加していると解説しているが、そんなことは当たり前で今回の時短要請は「限定的」であり、ウイルスの正体もこの1年で「未知」から「既知」へと変わり、行動もそうした中で変化するのは当然のことだ。
第一回目の緊急事態宣言が発出された昨年5月の家計調査の結果について未来塾(2)で次のように書いた。

『コロナ禍5月の消費について家計調査の結果が報告されている。二人以上世帯の消費支出は調査が開始された2001年以降最低の消費支出(対前年比)▲16.2となった。ちなみに4月は▲11.1、3月は▲6.0である。緊急事態が発令された最中であり、例年であれば旅行に出かけ、外食にも支出するのが常であったが、当然であるが大きなマイナス支出となっている。ちなみに、旅行関連で言うと、パック旅行▲ 95.4、宿泊料▲ 97.6、食事代▲ 55.8、飲酒代▲ 88.4、となっている。更には映画や・演劇、文化施設や遊園地などの利用もマイナス▲ 94.8~▲ 96.7と大幅な減少となっている。勿論、外出自粛などから衣料や化粧品の支出も大きく減少していることは言うまでもない。』

この消費における結果が戦後最悪の4−6月GDP27.8%減に大きく反映していることとなった。7月以降11月までの消費についても持ち直す傾向は見せるものの依然として低水準となっている。推測するに感染の悪化の端緒となった12月はまだしも、年が明けた1月以降は全国へと感染拡大が広がり昨年5月と同様の結果、特に飲食事業の悪化は言うまでもない。
この1年コロナ禍によって失われた消費のほとんどがいわゆる「不要不急」の支出であることがわかる。しかも、都市経済を支えているのが、この不要不急による支出であるということだ。

「情報」の根拠が問われている時代

今回言うまでもなく過剰な情報の中での「事例」を取り上げることとした。コロナ禍でなければ私自身が街を歩き会話しながら感じたままを「ことば」にしてきたが、2回目の緊急事態宣言下にあって、友人・知人の力を借りて事例から学ぶこととした。その理由は特にTVメディアの情報にあるのだが、根拠を明示しないまま放送することによる悪しきイメージ定着によって、本来認識すべき「正しく 恐る」ができないような状況が生まれてしまったからである。まさに実際に経験する、実感こそが必要な「時」であると考え友人たちの体験を借りて事例を学ぶこととした。渦中の飲食業がどんな生き方、工夫アイディアを駆使しているかを広く公開したかったからである。苦境の中にあって、飲食業はどんな頑張りを見せているか5つの事例を通して学ぶこととした。

気分を変えてくれる消費

ところで首都圏近郊の駅に隣接する中規模SC(ショッピングセンター)の売り上げについて、専門店として出店している友人から次のようなレポートが届いている。
『緊急事態宣言で再び飲食店は時短営業で、重飲食:71%、軽飲食:75%と青息吐息状態。では中食で食物販が良いのかというと、103%でカバーできていない。どこに消えているのか館内だけでは見えてきませんが、多分、出前館やUberEatsなどのデリバリーと、ネットスーパーやAmazon freshなどです。
来館者数が、平日で89%、土日は81%と戻らず家から出ていないのが顕著です。たまプラーザ東急は10月頃の“平時”でも18:00閉店でしたしある意味「保守・品行方正」のエリアなので、人出が少ないのでしょう。例外的に極端に良いのがミスタードーナツで、1/8からの限定商品がバカ当たりで開店前から連日30~50人並び途絶えません。』
このレポートからもわかるように行動範囲も時間も狭まり、つまり首都圏近郊のサラリーマン家庭の主婦層は外出を自粛していることから結果消費も落ち込んでいることが実感できる。既に昨年春のブログには「非接触型」ビジネス、デリバリーサービスや宅配サービスなどの需要が一般化しているが、それは「我慢」のなかのサービス需要であって本音の需要ではない。
その証拠ではないが、面白いことにミスタードーナツ の季節商品キャンペーンには多くの人が集まり、行列ができている。巣ごもり生活にあっても新しい、面白い、珍しいといったそれこそ不要不急なスイーツに人が集まっているという象徴例であろう。
「気分消費」という言葉がある。いや正しくはそうした言葉を使っているのは私ぐらいであるが、「不安」が横溢する時代にどうすればそうした「気分」を変えることができるかを考える生活者がいかに多いかがわかる。ミスタードーナツ のキャンペーン商品の事例は不安な中にあってひととき「気分」を変えてくれる商品であり行列してでも買い物したいということだ。
今回の未来塾はこうした「小さな楽しみ」を提供している飲食店に焦点を当てて、どんな楽しみ着眼をしているかを学ぶこととする。また、本来であれば首都圏だけでなく、大阪まで広く取材し、その実感を踏まえたスタディとしたいのだが、緊急事態宣言の発出もあり、友人・知人の力を借りてのレポートとした。

ハンバーグ専門店「肉と米」の場合

未来塾(43) コロナ禍の飲食事業事例「前半) 



実はコロナ禍真っ只中の昨年6月に東京吉祥寺東急百貨店裏にオープンした焼きたてにこだわったハンバーグ専門店である。数年前からカフェを始め新しい専門店がオープンしているとのことであったが、「新しい、面白い、珍しい」大好き人間である友人が出かけて経験した店で今なお人気の絶えない店となっている。
冒頭写真のように焼き立てのハンバーグが網の上に届き、宮城米の羽釜ご飯と味噌汁が届き、目の前の炭火で焼かれたハンバーグが食べ終わる頃をみはらかって合計3個が食べられる。勿論、ハンバーグはそのままでもよし、大根おろしもよし、食べる醤油もあり、・・・・・・・・このボリュームの挽肉と米 定食 が1300円(税込)と言う。
タイミングよくサービスしてくれる珍しい専門店で味やボリューム以上の満足感を提供してくれる店である。また友人は店づくりについても次のようにコメントしてくれている。

『味もおいしいのですが、何より演出に心を惹かれるお店だと感じます。エンターテインメント性が高く、ハワイに昔からある観光客向けのステーキハウス「田中オブ東京」を思い出しました。』

円形の20席ほどの店だが1日200人ほとの顧客が来店すると言う。向かい合わせのテーブル席ではなく、円形のレイアウトによる席作りは感染防止のことも考えてのことと思う。
また行列ができて密になってしまうことから、ウェイティング名簿制を導入している。名簿を書くことができる時間は、インスタをご確認のこと。
営業時間は11;00 〜15;00、17;00 〜21;00 (時短営業になり現在は20;00まで。なお売り切れ次第で終了となる。

未来塾(43) コロナ禍の飲食事業事例「前半) 




コンセプトである焼き立てハンバーグを丁寧にをサービスしてくれる一方、水や箸休めなどはセルフスタイルをとっており、そのメリハリのついたスタイルも満足度を高めることとなっている。
この「挽肉と米」の場合はレストラン業態にあって、テイクアウトなどの方法を採らず、ある意味専門店の「王道」の生き方を貫いたと言うことであろう。結果、コンセプト通りの味、価格、サービス、そして何よりももてなす雰囲気・スタイルの「満足感」を提供していると言うことである。鬱屈した日常から離れ、ひととき満足が得られたと言うことだ。ちなみに友人の話では近々渋谷に2号店をオープンさせるとのこと。

ダイニング&カフェ「ミクリ」の場合

未来塾(43) コロナ禍の飲食事業事例「前半) 


未来塾(43) コロナ禍の飲食事業事例「前半) 



大阪市西区土佐堀にある和食の店である。レトロな倉庫を改装したそうで、店内はコンクリート打ちっぱなしの壁を全面白く塗装している。一方で、無垢材のテーブル、椅子が「和」の雰囲気を演出していて、落ち着いた空間となっている。
友人の話によると「経営者は奈良県出身のデザイナーらしく、料理は吉野杉の板に乗って出てくる。先付の一品と、その日のメニュー、二十四節気を説明するカード(横13センチ、縦6・5センチ)が最初に登場する。主菜と8種類の料理は、山海の珍味ならぬ“山の恵み、海の幸せ”を感じさせる。カードに二十四節気を愛でる短い文章が添えられている。1年の二十四節気の最初は1月の「小寒」。年神様と一緒にいただくおせち料理がコンセプトだった。」と話してくれた。
都市生活の中で失ってしまったものの一つが自然で、その中でも「四季」は生活の節目を感じさせてくれる重要なものの一つである。友人はこれまでに、二十四節気のうち、八種類を連続していただいたとのこと。「二十四節気」達成という楽しみ方、季節を巡る楽しさは顧客の回数化を図ることもあり、見事な戦略となっている。
そうした季節を巡る小さな楽しみ方には、勿論感染防止も万全である。「入店時には、スタッフが体温を測ってくれて、もちろんマスク厳守。座席は透明のアクリル板で、一人ずつ仕切っている。そういう設備面とともに、店の雰囲気が“コロナ禍”を遠ざけているように思わせてくれる」とのこと。季節感を味わってもらうことと安心感とがうまく調和させた店づくりである。

テイクアウト専門店「おみそ善」の場合

多くの飲食店がテイクアウトメニューをつくり、デリバリー事業者に委託したり、あるいはテイクアウト分野に進出したり、従来の業態からの転換を図る飲食事業者が急増している。昨年春のブログにも書いたが、店舗をいわばメニュー製造の工場として機能させ、テイクアウトだけでなくネット通販や移動販売などを活用するといった業態である。あるいは非接触業態である自販機の活用も広がっている。
但し、例えば数年前に話題となった神奈川相模原にある「レトロ自販機」も進化している。「タイヤ交換の待ち時間に楽しんでほしい」と言う顧客要望から始まった自販機であるが、うどん・そば、ラーメン、ハンバーガー、トースト、ポップコーンなど調理機能が付いた自販機のほか、ご当地アイス、ポッキー、駄菓子、玩具付きお菓子、焼き鳥などのビッグ缶、瓶コーラ、タイの清涼飲料水など、テーマに分けて計27台を店舗の一角に設けた仮設小屋に並べる。駄菓子の自販機は、同じ商品が並ばないように工夫。選ぶ楽しさを演出するため、10円~30円の商品を売るための工夫もしており、つまり自販機による「楽しさ」の提供へと進化している。自販機ですら止まることなくテーマを磨くことが必要であると言うことだ。

こうした業態の変更は店内飲食の売り上げ減少を補填する意味合いがほとんであるが、大阪肥後橋の「おみそ善」はテイクアウト専門店として2年ほど前にオープンした飲食店である。「おみそ善」に学ぶべきはテイクアウト業態の基本、専門店としての明確なコンセプト、その魅力が顧客を惹き付けると言う基本である。「コンセト」と言う言葉の理解であるが、一般的な言葉・概念で使われてきたが、新たな市場機会と言う着眼の意味をテクニカルだけの理解だけではない。現実ビジネスを考えれば、その着眼はある意味思い込みを超えた生き様である。でなければ事業の「持続」などあり得ない。「コンセプト」とはそうしたビジネス世界のことば・キーワードとしてあることを忘れてはならない。

未来塾(43) コロナ禍の飲食事業事例「前半) 



このおみそ善は関西を中心に東京やNY、中国で「美と健康」をテーマにしたヘアサロン、エステ、ジムなど50店舗以上を展開する『ウノプリールグループ』の新規事業である。勿論、コンセプトは「美と健康」であり、味噌汁の効能に着目した専門店で味噌汁が11種類(各390円)をメインにおにぎりや淡簡単な副菜が用意されている。大阪肥後橋という立地はビジネス街ということから営業時間も朝8時からで「朝食セット」や「特製弁当」も用意されている。
友人が食べたのは写真の「粕汁」で大阪らしい季節の汁とのこと。友人はその時のことを次のようにコメントしてくれている。

未来塾(43) コロナ禍の飲食事業事例「前半) 



『この店を知ったのは、関西のあるTV番組だった。仲のよさそうな兄弟2人が“味噌汁道”を究めようとする姿を映し出していた。TV放映されると、しばらくはお客さんが殺到する場合が多く、ほとぼりが冷めるころに行ってみた。すごく寒い日だったので、粕汁があればいいな、と思っていたら、ありがたいことに発砲スチロールのお椀のテイクアウトで470円だった。
 店の注文カウンターはアルバイトの女性が立ち、少し奥の厨房で兄弟がテキパキと働いているのが見える。粕汁は、出汁の旨さが口の中いっぱいに広がり、軽いお椀がズッシリ感じられるほどの具沢山だった。店の前の路上の腰掛石に座って、熱いうちにいただく。
 お椀を返しに行くと、厨房から「お味、いかがでしたか?」と声が聞こえる。ただ、美味しかったよ、では味がないと思い、「コイモが入っていたらもっと点数が上がるかな」と答えた。もちろん、クレームではないつもりである。返事は「はい、なるほど」と元気な声だった。続けて、テレビで見たよ、と告げた。「いろいろな番組に出していただいてます」と、笑顔が見えた。
 コロナ禍と戦う姿勢でもなく、悲壮感も見せず、恨みがましいセリフも出ず、街角の汁物屋さんはほんわか湯気の中である。』

コロナ禍の都市空間利用の新たな取り組み

2020年は多くの商業施設、専門店が休業や廃業の瀬戸際に晒された1年であったが、実は昨年コロナ禍にあって注目する2つの商業施設が誕生している。
新型コロナウイルスの感染拡大によってオープンが延期されてきた商業施設の一つは渋谷の宮下公園跡地の開発で7月28日新たな商業施設「MIYASHITA PARK(ミヤシタパーク)」である。東京以外の人には馴染みのない場所・宮下公園であるが、JR渋谷駅から原宿寄りに徒歩3分にある公園でホームレスが集まる場所として知られた一等地の公園である。もう一つがJR有楽町駅と新橋駅との間の高架下開発でJRの京浜東北線や新幹線の高架下でこれまた銀座と日比谷に挟まれた一等地の空間である。

まずMIYASHITA PARKであるが、大きくはスケート場やボルダリングウォールに加え、多目的運動施設を新設された区立宮下公園。もう一つが渋谷には極めて少なかったホテル。そして、注目されているのが商業施設で、この3つの空間によって構成されている。簡単に言ってしまえば、ショップなどの商業施設の上に公園があり、原宿寄りにホテルがあるという構図である。公園と商業施設、そしてホテルといった組み合わせは珍しいことではなく、公園とまでは言わなくても屋上緑化はかなり前から都市空間のつくり方としてはありがちなことで、実は賑わいを産み出し注目されているのは他にある。

賑わいを生む「渋谷横丁」

未来塾(43) コロナ禍の飲食事業事例「前半) 



北海道から九州・沖縄まで地域のソウルフードや力士めし、喫茶スナックと多彩なアーティストのパフォーマンスが楽しめる全19店舗の飲食街である。写真と次のようなMAPクォ見ればどんな賑わい作りであるか理解できるかと思う。そして、写真は商業施設の HPからのものだが、「24時間」と明記されているように珍しい営業時間となっている。但し、今回の緊急事態宣言の発出により朝8時から夜8時までとなっている。

リニューアルした渋谷PARCO地下のレストラン街、少し前の虎ノ門ヒルズの虎ノ門横丁、それらの原型は吉祥寺のハモニカ横丁にあるのだが、昭和の匂いのするレトロな「街づくり」であり、若い世代にとってはOLD NEW古が新しい世界である。それまでの渋谷は「大人の街」へと脱皮するかのように高層ビルによる商業開発であったが、この渋谷横丁は若い世代の新しい人気スポットとなった。渋谷に生まれた裏通り文化であり、経験したことのない全国の「食」をあれこれ楽しめる安価な路地裏歩きである。
例えば、北陸食市のメニューであるが、イカの漬け丼999円、金沢のソールフードであるオムライスの上にフライをのせたハントンライス999円。東北食市であれば盛岡冷麺799円、牛タンカレー1299円と言ったように若い世代の懐を考えたメニュー価格となっている。

何故、横丁路地裏に賑わいが「都市」に生まれたのか、勿論それには大きな理由がある。もっと明確にいうならば、「賑わい」の孵化装置・インキュベーションの一つとして横丁路地裏があるということである。別な表現をするならば、「表通り」と共に「裏通り」に生まれてくる「何か」、それへの期待が生活者、特に若者に生まれてきたということである。その「何か」を総称するならば「文化」となる。
6年ほど前になるがそうした「裏通り」についてその象徴として秋葉原、アキバについて次のように書いたことがあった。
『秋葉原の駅北側の再開発街とそれを囲むように広がる南西の旧電気街を、地球都市と地下都市という表現を使って対比させてみた。更に言うと、表と裏、昼と夜、あるいはビジネスマンとオタク、風景(オープンカフェ)と風俗(メイド喫茶)、デジタル世界(最先端技術)とアナログ世界(コミック、アニメ)、更にはカルチャーとサブカルチャーと言ってもかまわないし、あるいは表通り観光都市と路地裏観光都市といってもかまわない。こうした相反する、いや都市、人間が本来的に持つ2つの異質な欲望が交差する街、実はそれが秋葉原の魅力である。』(未来塾4 街から学ぶ 秋葉原編)

周知のように秋葉原にあった神田青果市場跡地の再開発に端を発した街秋葉原の変化を「2つの異質が交差する街」と位置付けてみた。再開発で誕生した高層ビルの裏側にある古びたビルからAKB48が生まれたのは偶然ではない。そして、オタクと呼ばれる熱狂的なフアンを生み、次第にマス化し、後に秋葉原駅北口の高架下にAKB劇場が新設されることとなる。裏通りから、表通りへと進化したということである。

新しいフードコート業態

1カ所で多様な飲食を楽しめる場としてフードコートが造られてきた。特に郊外のSCには必ずフードコートがある。10数年前までは1社に全てを任せる方式であったが、より顧客の好みに合わせた専門飲食店、例えば洋食やうなぎ、あるいは人気ラーメン店などを組み合わせるようになる。週末などはファミリーで満席状態を見せる業態となっている。
渋谷横丁を見ていくとわかるが、横丁という賑わいスタイルを採っているがメニューとしては全国のご当地飲食メニューから選べるようになっており、一種フードコート的である。そして、こうした専門店でしか食べることができない多様なメニューを集積することによって賑わいは加速する。
また、現在は緊急事態宣言が発出されいることから朝8時から夜8時までとなっているが、本来は24時間営業となっている。これも若い世代が集まる大きな要因となっていることは確かである。

残された唯一の超一等地の開発

ところで9月にJR有楽町駅から新橋駅間の内山下町橋高架下に誕生したのが商業空間「日比谷 OKUROJI(ヒビヤ オクロジ)」である。銀座と日比谷に挟まれた京浜東北線や山手線、東海道線の高架下といったほうがわかりやすい。それまでは倉庫や駐車場などに使用されていた空間で、誰もがその活用について不思議に思われてきた空間である。その空間300メートルに飲食店を中心に36店舗のテナントが入った商業施設である。

「オクロジ」というネーミングに表されているように、コンセプトは奥まった空間に「大人」のセンスを満たす商業施設となっている。新しい大人の「隠れ家」を目指す商業施設であるが、渋谷の宮下パークとは異なるコンセプト&ターゲットである。 「ヒビヤオクロジ」のコンセプトを最も良く表現しているのは新橋寄りにあるBarや焼き鳥、ラーメンなどのフードコートなどのある「ナイトゾーン」であろう。宮下パークと比較するとよくわかるが、「渋谷横丁」がナイトゾーンに該当する。

未来塾(43) コロナ禍の飲食事業事例「前半) 


未来塾(43) コロナ禍の飲食事業事例「前半) 



周知のように銀座はコロナ禍にあって空き店舗のビルが増え、更に大通りに面したビルにも空き店舗が増えるといった状況が生まれている。2020年の基準地価が発表されたが、訪日客の激減により大都市繁華街の地価下落は激しい。中でも銀座2丁目も5.1%下落し、9年ぶりのマイナスとなったように「賑わい」は回復基調にはない。果たして、銀座における「大人の隠れ家」が成立するにはどんな専門店を編集したら良いのかという課題がある。それはGINZA SIXにおける大量閉店に見られるように、銀座における「集客」が大きく落ち込み売り上げに満たない専門店が続出している。周知のようにGINZA SIXはインバウンド需要が大きいということもあるが、「銀座」というブランド価値が落ち込んでいるということである。こうした中での「価格戦略」の立て方ということとなる。

未来塾(43) コロナ禍の飲食事業事例「前半) 



例えば、飲食ゾーンにあるうなぎ専門店、ひつまぶしの名店が出店しているが、その価格は果たして成立するのかという課題でもある。銀座には老舗のうなぎ専門店、竹葉亭や野田岩など数十店あり、若い頃から食べてきた敷居の低い竹葉亭などは鰻丼などは3500円程度でサラリーマンでも食べられる価格帯である。一方、オクロジ「うな富士」のうなぎ丼は4300円と少々高い価格設定となっている。
ところで、オクロジには「うな富士」とは異なるユニークな飲食店は出店している。それは大阪で人気の居酒屋「天ぷらとワインの店」大塩(おおしお)で、その入りやすい店づくりに表れているようにランチも1000円以下で食べられる設定となっている。大阪ではサラリーマンが通う梅田の駅前第3ビルの地下飲食街にありよく知られた飲食店である。
「隠れ家」というキーワードがメディアに登場したのは2000年代初頭で、東京霞町近辺の路地裏にある飲食店にTVや芸能関係者が利用したことから始まっている。そして、実は知る人ぞ知る「隠れ家」は高い価格によって決まるわけではない。例えば、サラリーマンの街新橋には居酒屋「大露地(おおろじ)」に代表されるように多くの知る人ぞ知る名店がある。そうした名店に仲間入りするには、「銀座価格」を超えた「何か」が必要だということである。
つまり、隠れ家とは継続して利用する、いわば常連客の店のことである。店の雰囲気、メニューの好み、店のスタッフサービス、そして何よりも回数利用できる「価格設定」が重要なポイントとなっている。顧客が回数を重ねるに従って、次第に「文化」も生まれてくる。新しい銀座文化の一つになるには「価格を超えた」飲食店の集積を目指すということだ。
実はこの試みを難しくさせているのが、このコロナ禍である。「隠れ家」は自由に行き交う中で、同じ楽しみを共有しえる「仲間」が集う場のことである。つまり、新しい大人の居場所づくりということだ。(後半へ続く)
















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