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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2020年09月03日

未来塾(42) もう一つのウイルス (前半) 

ヒット商品応援団日記No770(毎週更新) 2020.9.3.

新型コロナウイルスの感染から7ヶ月が経過し、大分その本質がわかって来た。そして、消費傾向も同時に明確になって来た。ただ、消費を阻む「もう一つのウイルス」もまは伝播している。このウイルスを封じ込めることもまた重要な課題となっている。

未来塾(42) もう一つのウイルス (前半) 


東京高円寺のライブハウスに貼られた自粛警察/東京新聞より  

コロナ禍から学ぶ(3)
 
「もう一つのウイルス」

「密」から「散」へ
コロナ共存への視座。
そして、止まないもう一つのウイルス。



3ヶ月ほど前に東京で起こっていたことが地方都市へと拡散している。大阪、愛知、福岡、・・・・・・若い世代、飲食街を震源地に、家庭へ職場へと感染の拡大パターンも同じで、まるでウイルスは新幹線で運ばれているかのようだと発言する専門家もいるほどである。しかも、最近のウイルスのゲノム分析によれば、2月頃のウイルスを武漢型、3月から4月に持ち込まれたのが欧州型、そして今回の第二波のウイルス分析でわかったのが5月から6月にかけて流行り始めたウイルスで、それまでとは異なる遺伝子が変異しているとの分析結果が報告されている。変異したウイルスの傾向は無症状者や軽症者が多い結果を生んでいて、弱毒化の可能性があるとも。また、この変異したウイルスは5月の連休明けから6月にかけて東京新宿を中心に発生し、そのウイルスが人を介し地方へと拡大していったとの結果も。

死んだ子の年を数えるようだが、緊急事態宣言が解除され、感染源として東京歌舞伎町、夜の街、ホストクラブなどが都知事の発言もあって一斉にTVメディアは集中して取り上げるようになった。ちょうどその頃、新宿区長はホストクラブの店に問題があるのではなく、まだ売れていないホストの住まいは小さな部屋に数名が同居して暮らしていることにあって、その発生の密な環境に問題があるのではないかと指摘をしていた。ここ数週間注目されている高校や大学のスポーツクラブにおける寮生活の集団感染と同じである。
ところで新宿歌舞伎町には約240店ほどのホストクラブはあるが、その中でも良く知られたローランドのような成功者はごく一部で、ほとんどのホストは固定給のないリスキーな職業である。ちなみに、新宿歌舞伎町にはホストクラブやキャバクラ、ガールズバーなど約3000軒が密集する街である。後にPCR検査が行われるのだが、その結果は驚くべきものでなんと陽性率は30%を超えていた。その集団検査は歌舞伎町で働く人々を対象とした検査結果である。
また、7月末ごろから感染が広がった沖縄では県独自の緊急事態宣言が発せられ危機的状況にあると言う。その感染源であるが、那覇の中心繁華街松山の飲食街を訪れた東京からのホストやキャバクラ従業員の団体であるとの専門家の指摘もある。東京由来、東京問題と言われ嫌な顔をして来た都知事であるが、新宿歌舞伎町で働く人たちには責任はないが、1000名程度の無料PCR検査ではなく、歌舞伎町の街自体の休業要請を行うといったピンポイント施策が必要であった。勿論、保証をつけての休業要請のことだが、東京都をはじめとした政治の責任は極めて大きい。

こうしたことを書くのも感染者に罪はなく、誰でも感染しえる病気であることを踏まえ、課題は人と人との距離、いわゆるソーシャルディスタンスと言う課題である。つまり、社会経済を徐々に戻していくには「密」をいかに解決できるかと言う難題である。
実はこの「密」を別な言葉に替えて表現するならば、それは「賑わい」と言うことになる。未来塾で取り上げて来た多くの商店街や街のテーマそのものである。今回のコロナ禍が始まった最初のブログには「移動抑制」は消費の抑制へと直接影響すると書いたが、その結果は私の想像を超える惨憺たる「消費」となった。

進行する「密」から「散」へ

テレワーク、時差出勤、更には懇親を兼ねた社員同士の会食・集まりなど密になるあり方など多くの企業は対策を実践して来た。それは概念的に言うならば、「密」から「散」への転換であった。こうしたビジネス移動の制限によって経済の影響は多大であった。その代表的な影響の一つが通勤・通学など移動の制限による損失は、例えばJR東日本の4ー6月の決算発表では最終的な損益が1553億円の赤字になるとのことで、四半期決算としては、過去最大の赤字幅になるとのこと。更に。コロナ後の鉄道運賃として「時間帯別運賃」の制度化も検討されていると言う。ラッシュの解消と共に、収益の改善も意図されてのことだと言われている。また、密になることを改善すべく席数を減らしたりした飲食店などの諸施設の赤字は言うまでもない。そして、時間帯別料金ではないが、満席状態になる昼のランチ時には通常料金とし、午後1時半過ぎになると安くランチが食べられるようにする、そんな「散」を取り入れた飲食店も出て来ている。

また、コロナ禍の最中と言うこともあり、具体的な動きは見られないが、中国武漢の都市封鎖によって明らかになったことはサプライチェーンの寸断であった。それは自動車産業だけでなく、他の製造業は勿論であるが、多くの食品輸入も中国依存からの脱却・リスク分散も企業経営の主要課題となった。国内化も含め今までのグローバルビジネスとは異なる組み立ても視野に入ってくるであろう。これも密から散への転換といえよう。

実は蜜を語るには「東京一極集中」を見ていけばその功罪を含め問題は明らかになる。蜜であることによって得られることの第一は集中することによるコスト効率の高さにある。店舗経営に従事された経験のある人間であれば、限られたスペースでどれだけの売り上げをあげられるか、その売り上げは家賃に見合うものであるか、と言う課題である。飲食店であれば「席数」であり、物販であれば棚の数であり、例えばドンキホーテではないが熱帯雨林陳列ではないがその陳列量となる。
現状、ソーシャルディスタンス・密から散へとコロナ対策上進めてはいるが、「散」による経営で収支が取れるかと言う難題である。つまり、コロナ収束の時期とも関連するが、業態にもよるが経営の根本を変えなければならないと言うことである。赤字をどれだけ減らせるか、といった経営から、収支に見合う経営への転換ということである。簡単に言ってしまえば、従来100坪で行われていた経営を50坪で成立させることであり、人であれば100人で行っていた経営を50人で行うということである。そこにはITは勿論ロボットの活用もあるであろうし、今までとは異なるネットワークの組み方による高い効率、高い生産性の経営ということになるであろう。
つまり、「時間」「空間」「人」を分散させて、「新しい価値を創造できるかということになる。今までの延長線上では経営は成立し得ないということからの「発想」である。残念ながら、そうした新しい発想によるビジネスは未だ出現してはいない。

ゼロリスク幻想からの脱却

前回にも書いたが、「出口戦略」は各都道府県単位で既に始まっている。実は2ヶ月ほど前には「自粛、制限を緩めると感染は拡大する。命と経済どちらが大切なのか」と言った短絡した議論が行われていたが、緊急事態宣言による経済のダメージがいかに大きいかを実感するに従って中途半端なまま論議を終えてしまった。ウイズコロナ、コロナとの共存と言ったキャッチフレーズだけで理解したつもりでいるが、「移動」が活発化すれば当然ウイルスも移動する。
こうした社会経済活動に際し、PCR検査を条件とし、現在の検査数の数十倍以上にすべきであるという意見がある。その背景にはあれほどひどい状況であった米国ニューヨークの事例を持ち出してその封じ込めに成功していると。誰でもいつでも何回でも無料で行える検査システムであることは良いことではあるが、陽性者の接触者を追跡する3000名ものメンバーがあってのことであり、更に言えば今なおオープンテラスでの飲食は行えているが、店内での飲食は禁止されているという強い制限下にあるように複合的な対策によるものである。単にPCR検査を増やせば封じ込めるということではない。更に言えば、以前から指摘されていたことだがPCR検査の精度は70%程度で偽陽性が30%近くあるということもあり、絶対ではないということである。現時点での検査ではPCR検査と抗原検査しかないため、必要ではあるが、その限界をわきまえて活用するということだ。例えば、新宿歌舞伎町のように地域を限定した集団検査や世田谷区で計画されているエッセンシャルワーカー、例えば高齢者施設のスタッフや保育士など限定した検査のように活用するのは良い方法ではある。ただ、世田谷区の計画がニューヨークをモデルにしており、「誰でもどこでもいつでも無料」を目指すとのことだが、「安心」を求めての検査であれば、税金ではなく自費で行うべきであろう。また、保健所や病院における体制を含め段階的限定的にお行うべきと考える。つまり、PCR検査は感染防止の目的ではなく、手段であるということだ。
こうした状況は、ある意味ゼロリスクはない、そんな不確かな社会に生きているということであり、そのことを理解しなければならない時代に生きているということである。残念ながら、リスクある行動や場所を避ける努力はしても誰でもかかりえる病気であるという自覚こそが個々人に問われている。

変容する「街」

東京では度々取り上げられる街の一つに吉祥寺がある。”何故、緊急事態宣言の最中にあって、東京吉祥寺に人が集まるのか”という話題で、いくつかの理由がある。その一つは井の頭公園に代表されるように、「光」と「風」を感じられる街だからだ。それは単に公園や動物園、あるいはジブリ美術館があるだけではない。超高層の建物に囲まれただけの街ではないと言うことだ。勿論他にも東京の湾岸に新しく開発された地域、私の言葉で言えば水辺の街、都心から十数分で暮らせる便利な都市リゾートのような街だからである。以前から人気の街である二子玉川も多摩川のリバーサイドであり、都心まで十数分の住宅街である。そこに共通することは「自然」を感じることができる街であると言うことだ。単に都心から地方への「散」ではなく、閉じられた空間・地域という密から、自然を実感できる空間・地域「散」への変化と言った方が的確であろう。
本来であれば活況を見せてもおかしくないのが、屋形船である。周知のように東京で大規模なクラスター発生により、未だ復活途上となっているが、屋形船とは異なる東京ウオータータクシー利用なんかもこれから流行っていくであろう。大阪は水の都と言われて来たが、東京も東京湾に流れ込む河口の湿地帯を造成してできた街である。このように密から散への着眼の一つがこうした自然ということになる。

一方、都心部の商業地域もここ数年再開発によって大きく変貌して来た。その象徴の一つが渋谷の街であろう。少し前に渋谷PARCOを中心に少し書いたが以前の面影はまるでない街となった。各通信キャリアによる街の移動調査では夏休みということもあって、減少することはない。
毎年、夏になると中高生を中心に原宿や渋谷に集まる。こうした傾向は1990年代半ばから始まっていて、例えば渋谷109と東京ディズニーランドは「都市観光」の定番であった。前回のブログで若い世代が感染源となっていることに対し、『「密」を求めて、街へ向かう若者たち 』というテーマで、若者には届かないコミュニケーションについて書いた。その密とは、常に変化し続ける新しい、面白い、珍しい出来事が密となった都市を自由に遊ぶことで、私はそうした行動を「都市商業観光」と呼んだ。
新しい、面白い、珍しいとは生活への「刺激」である。若い世代、特に中高生にとって「都市の魅力」とは学校や家庭とは異なる刺激が溢れる場所であり、規則などに縛られることのない自由な劇場ということになる。面白いことに原宿を歩くとわかるのだが、その多くは3〜4名の友人グループであるが、中には母親と思しき「大人」同伴の女の子もいる。いわば、保護者同伴の都市観光である。
コロナ禍ということから本格的な街歩きをしていないのだが、ドコモなどの通信キャリアによる移動データでは若干の人出の減少はあるものの、若い世代にとってはコロナ禍は「大人」と比較し減少傾向はそれほど大きくはないようだ。勿論、感染しても軽症、もしくは無症状の場合が多く、重症化率が低いことがその背景にあることは言うまでもない。

「ハレ」と「ケ」と言う視座

本格的な感染が拡大し、外出自粛や休業要請など対策が実施されてから約5ヶ月が経過した。その5ヶ月間の「消費」を見ていくといくつかの傾向が見えて来た。前回の未来塾で5月度の家計調査結果について書いたのだが、まずその全体消費の落ち込みの激しさにあり、現実の飲食店における売り上げの極端な減少や観光関連事業者の悲鳴のような状況を表した数字であった。
ところで6月の家計調査結果は前年同月比1.2%の減少であった。6月までの消費の推移は以下である。

未来塾(42) もう一つのウイルス (前半) 



3月から始まったコロナ禍の激しさはグラフを見ればわかる。6月に入り消費は持ち直しているかのように見えるが、この3ヶ月間の抑制から少しの解放・反動と見るのが正解であろう。
5月ど同じように主要品ものの増減についてレポートされているので是非見られたらと思う。一言で言えば、飲食代や移動に関する交通費などは同じように減少はしているが、5月度と比較し、その減少幅は若干小さくはなっている。

こうした「減少」の根底にはどんな価値観の変化があるのかを見極める視座の一つが生活の中にある「ハレ」と「ケ」のウエイトであり、どんな消費態度となって現れて来たかである。言うまでもなく「ハレ」の日の消費は特別な日として少し晴れやかなものとして、費用もかける消費のことである。例えば、多くの記念日、正月や誕生日や卒業、あるいは結婚記念日などもハレの日の消費と位置付けられる。一方、ケの日の消費は日常消費のことで、つつましい消費のことである。
こうした視座はより具体的な消費品目を分析することが必要ではあるが、今回はハレの日の流通として百貨店、ケの日の流通としてスーパーを対比させて考えてみた。
その目線としては百貨店は1980年代までは生活者のライフスタイルをリードしていく存在であったが、バブル崩壊後、SC(ショッピングセンター)という専門店を編集した業態にその座を譲って来たが、その規模を祝ししたとは言え百貨店顧客は存在する。コロナ禍にあって休館・休業した百貨店もあったが、再開後の6月度の売り上げは前年同月比-19.1%であった。このマイナスについて百貨店協会は「依然厳しい動向ではあるが、減少幅は前月(65.6% 減)から大きく(46.5ポイント)改善し、業績持ち直しの局面に転換してきた。」と期待感を持って評価している。勿論、インバウンド需要がほとんど無い状態での売り上げであり、比較にはならないが、通常の消費に近い状態まで回復して来たと言える。その消費の中心は既存固定客であり、「購買動向の特徴としては、食料品や衛生用品など生 活必需品の好調さに加えて、ラグジュアリーブランドや宝飾品など一部高額商材にも動きが 見られた。」としている。つまり、「戻って来てはいる」が、ブランド品や宝飾品はまだまだ「一部」であるということである。
「ハレの日」とは気持ちが晴れる日、気分が華やぐ日のための心理消費である。そんな心理には至ってはいないということである。ブランド品、ブランド商材、は極めて情報に左右される商品であり、世の中がコロナ、コロナの合唱にあって「そんな気分」にはなれないということである。更に広げていけば「こだわり」を楽しめる状態には無いということでもある。少し前までの「こだわり」による少し高い価格設定でも売れていたものが急激に売れなくなっている。

わけありの変容

わずか数ヶ月前まで「わけあり」は消費者にとって大きな選択理由となっていた。「わけあり」は低価格の理由・わけの代名詞となっていたが、安さの理由・わけはもはや選択理由の第一ではなくなって来た。コロナ禍はその低価格は選択理由の常識にすらなったということである。常識という言葉を使ったが、「当たり前」という表現の方が当てはまるかと思う。
大きなマーケットではないが、「訳あって、高い」としたこだわりは選択理由の一つであった。いわゆる「こだわり」商品である。全ての諸品であるとは言えないが、「こだわり商品」は次第に売れなくなって来ている。それは単に価格が「高い」という理由だけではない。一言で言えば、経済的というより心理的な「余裕」「ゆとり」がない状態に置かれていると言った方が適切であろう。
今、ネット通販を含め、50%オフセールが消費の活性を図っている。10数年ほど前、消費者の価格心理についてあのインテリアのニトリの似鳥社長は「20%程度の安さでは安いと感じなくなっている。最低でも30%ぐらいの安さでなければ」と語っていたが、今や50%程度の安さでなけれな顧客にとって魅力的には映らないということであろう。ちなみに、そのニトリはテレワークを巧みに取り入れ簡単にオフィス機能を自宅にもたらせるようなマーケティングを行って来た。休館しなかったこともあって好調な売り上げとなっている。


ところであの「こだわり食材」のディーン&デルーカが苦境にある。コロナ禍による客数減少から4月米連邦破産法11条の適用を申請、つまり経営破綻したと報じられた。負債額は約5億ドル(約540億円)で、日本法人についてはライセンスを取得していることから営業は継続している。。そのディーン&デルーカは1977年にマンハッタンのソーホーで最初の店舗をオープンして以来、高級食材のセレクトショップとして、ニューヨークの食文化に多大な影響を及ぼしてきた、ディーン&デルーカ。日本でも、女性を中心に絶大なる人気を誇るブランドだ。
 もともと本家のディーン&デルーカは、希少価値の高い食料品を米国に輸入し、食のブームを巻き起こしてきた立役者でもあった。例えば、当時米国ではあまり知られていなかった、バルサミコ酢である。
日本でディーン&デルーカを運営している ウェルカムは「今後も、創業者のジョエル・ディーン(Joel Dean)とジョルジオ・デルーカ(Giorgio Deluca)が大切にしてきた想いでもある『美しき良質な食はわたしたちの心を豊かにし、生き方さえ変えてくれるきっかけを与えてくれる』という思想のもと、これからも毎日の食するよろこびをお客様へお伝えしていくために、優れた食材のつくり手を守り継続的に安定した取り組みを続けながら、 毎日のくらしに寄り沿うマーケットストアやカフェの運営を通して、『食するよろこび』の場をひろげて参ります」とコメントしている。その後、TV東京のWBSに出演しMCの村上龍との対談で売り上げは伸びず、いわゆる「こだわり」のあり方を再検討しているとし、オリジナル商品の味噌汁の話をしていた。どんな再生「こだわりコンセプト」が生まれるか分からないが、これまでのディーン&デルーカのこだわり・希少性では限界があるということは事実である。

実はこだわり度も規模も異なるスーパー業態の成城石井は好調な売り上げを上げている。5月の月次事業データによると、全店売上高は前年同月比9.0%増となったと。総店舗数135店。既存店は、売上高1.3%増、客数2.3%増、客単価1.0%減であったとも。
一般的なスーパーはそのほとんどは「巣ごもり消費」によって増収増益である。それは単なる食材購入だけでなく、「自分流」の味の捜索を目指して調理道具などの周辺商品の購入も広がっている。
成城石井はその名の通り高級住宅街である成城学園前駅の目の前にあった、輸入食材に特徴をもあせたスーパーであった。隣駅の住民であった私の場合、ハレの日の食材を買い求めた店で、例えばすき焼き用牛肉などは全て100g1000円以上の肉ばかりで、刺身用マグロも本マグロのみと言った具合でどれも高価な食材を扱っていた。他にはない特徴あるMDによって多くのSCに出店することになるのだが、その急成長に在庫管理を含め経営体制が追いつかず一時期危機にあったことがあった。勿論、現在は惣菜工場を含め自社工場による供給が行われコロナ禍にあっても順調に売り上げを伸ばしている。

この2社を比較したのは顧客層の設定の仕方、 ディーン&デルーカと成城石井のブランド戦略の違いにある。ディーン&デルーカのブランド戦略は一種の「観光地化」戦略に現れている。周知のロゴ入りのトートバッグとマグカップ、鍋敷き等のグッズである。いわゆる富裕層のお気に入りの「食」を取り入れたいとした女性たちの憧れのライフスタイル創造を目指したというわけである。一方、成城石井の場合はデフレ時代の価格帯を守りながら小さな違い、個性ある食材を自社工場でつくる方向を選んだ。顧客設定としてかなり幅広く設定されているということである。つまり、ハレの日のディーン&デルーカに対し、成城石井の場合はケの日の消費の中のこだわり食材を目指したということであろう。
選択消費の行方という視座

「必需消費」とは生きて行くことに必要な消費、食品や住宅などの消費のことで、選択消費とは心豊かに生活するための消費で、「文化消費」のようなものを指している。映画や音楽の鑑賞などもそうだが、オシャレのための消費なんかも当てはまる消費である。ある意味で、「豊かさ」の象徴であるような消費である。
ところでそんな消費を象徴するような発表があった。それはアパレル大手のワールドの発表で、今年度中に国内の358店舗を閉店すると。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、売り上げが激減し収益が一段と悪化しているためだ。200人程度の希望退職者も募り、構造改革を進め、収益改善を急ぐというものであった。 廃止するブランドは「ハッシュアッシュ・サンカンシオン(HUSHUSH 3CAN4ON)」「アクアガール(AQUAGIRL)」「オゾック(OZOC)」「アナトリエ(ANATELIER)」などで、いずれもSC・ファッションビル販路のブランド。これらの20年3月期業績は赤字で、「今後の黒字化のめどが立たない」(同社)ことから終了を決めた。閉鎖358店のうち、ブランド終了に伴うものは214店で、残りの144店は継続ブランドの低収益店が対象。中には異なるブランド同士の店舗統合なども含まれる。「現在の収支が黒字であっても、立地の将来性や条件の妥当性などを総合的に検討し、継続か閉鎖か決めていく」と言った内容であった。

敢えて、ワールドを事例として持ち出したのもアパレルファッション市場はその流通のあり方を含め構造的な問題を孕んでいるからで、昨年10月のブログでもう一つの大手企業であるオンワード樫山の100店舗もの撤退に触れて次のように書いたことがあった。
『10数年前ショッピンセンターのデベロッパーに「困った時のワールド頼み」と言われ、持っているブランド専門店を出店した婦人服大手である。結果、ワールドは数年前広げすぎた経営を再建するために数百店舗を撤退するというリストラを行っている。未だ再建途中であると思うが、そのワールドが他社のブランドも扱うアウトレット店の第1号をさいたま市西区にオープンさせたと報じられた。
実はアパレル業界では年に100万トンとも言われる在庫の廃棄が問題になっている。市場に余った服をブランドの垣根を越えて安く販売するのがアウトレットである。ワールドがこうした市場に進出するとのことだが、周知のようにフリマが数年前から急成長し、つまり個人間ネット取引が進み、2018年の市場規模は20兆円にも及んでいる。
更に言うならば、1980年代から1990年代にかけて一時代を創ったビギグループのブランド市場は2000年台以降縮小し続けてきた。そのビギグループも三井物産の傘下に入り、生き残りの道を海外に求めた動きも見られる。
 つまり、市場が根底から変わりはじめたということである。市場とは顧客のことであり、顧客が更に変わりはじめたと言うことだ。ちょうど1年前の未来塾「コンセプト再考 その良き事例から学ぶ(1)」で新業態店「WORKMAN Plus(ワークマンプラス)」1号店を取り上げたことがあった。周知のように苦戦するアパレル業界にあって一人高業績を挙げている企業である。この新業態店のコンセプトを次のように未来塾で書いた。

この時のブログのタイトルは「デフレが加速する、顧客が変わる 」であった。こうした構造的な問題を抱えている最中のコロナ禍である。「不要不急」 という言葉が、3月以降盛んにマスメディアを通じ流されて来たが、単に「生きる」ためだけの消費が必要であると言外に込められていた。そのために日本とは比べようが無いほどの外国におけるロックダウンの様子が繰り返しマスメディアを通じ流されて来た。本来の「正しく 恐る」という原則が、「正しく」がどんどん曲解されていく。周知の自粛警察から始まり、最近ではマスク警察や帰省警察まで横行するようになった。こうしたマスコミが報じることの危うさは繰り返すが、あのips細胞研究所の山中伸弥教授の指摘する通りである。そんな心理状況にあって「オシャレ」を楽しむ舞台もなければ、時代の空気感も無い。極論を言えば今は「不要」であると感じている。
唯一売れているのは若い世代に対するブランドguであろう。小さなトレンドを創り、中高校生のお小遣いでも買えるリーズナブルなファストファッションということだ。ハレとケという表現をするならば、デフレの時代にふさわしいケの日を楽しむ選択できる商品となる。そのguが化粧品市場にも進出すると言う。これも同じコンセプトによる新市場の開発ということだ。

不安な時代の気分消費

ブランドの本質は心理価値にある。以前、世界の主要ブランドのその「心理」について分析したことがある。あのシャネルは「時代の変化とともにあるシャネルの生きざま」への共感ブランドであり、ティファニーは「時代と共にある美」を追求し続けるブランドである。他にも、ロレックスやソニーのブランド創造の歴史を分析したことがあったが、全てのブランドに共通していることはブランドは「顧客がつくるものである」ということに尽きる。不安な時代ではブランドは成立しないと考えてしまいがちであるが、それはビジネスマンの態度では無い。
ところで「気分消費」という言葉がある。いや正しくはそうした言葉を使っているのは私ぐらいであるが、「不安」が横溢する時代にどうすればそうした「気分」を変えることができるかを考えて来たからである。
ともすると暗くなりネガティブ発想に陥りやすい中にあって、少しでも明るい気分になってもらうことが極めて重要な時代となっている。まず気分を決める価格という第一ハードルを少し下げ、これならチョット使ってみようか、という気分を創ることから始めることだ。夏休みの過ごし方・遊び方を見てもわかるように、安近短の本質は、全てを「小」という単位に起き直してみることにある。これなら買えるという小さな価格、サービスであれば1時間を30分に、更に10分にする。あるいは顧客接点の現場では、気分醸成のための小さな笑顔、心地よい一言、こうした何気ない小さな気遣いが気分づくりには欠かせない。こうした小さなサービスの原則と共に、店頭の雰囲気づくりも以前にも増して重要となっている。

かなり前になるが、「こころに効く商品」というタイトルで「こどもびいる」を取り上げたことがあった。福岡のもんじゃ鉄板焼「下町屋」が飲料「ガラナ」のラベルに「こどもびいる」に張り替えて出したところ、人気メニューになり全国に広がった、あのヒット商品である。チョットお洒落に、クスッと笑える癒し商品である。一種の遊び心によるものであるが、理屈っぽい、肩肘張った表現は受けない時代だ。
現場ではこうした発想が重要であるが、残念ながら心に効くものは何かといえば、ワクチンであり有効な治療薬ということになる。ただ、大阪大学の宮坂名誉教授による人工抗体の開発が進んでいる。山中伸弥教授のHPで知ったのだが、日本における免疫の第一人者であり、感染者の血液から採取したリンパ液などから抗体を抽出し、製造するものだが、問題なのは2週間程度の持続性しかないということのようだ。ただ、それでも重症化を防ぐには有効な治療薬になるという。山中教授が提言しているように、日本の「知」を挙げ総力で戦っていく一つということだ。(後半へ続く)


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