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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2020年07月26日

「密」を求めて、街へ向かう若者たち

ヒット商品応援団日記No769(毎週更新) 2020.7.26.

「密」を求めて、街へ向かう若者たち


新型コロナウイルスの感染が拡大し続けている。その震源地は若い世代で次第に中高年世代へと広がっていると報道されている。緊急事態宣言が解除されてから約2ヶ月半近く経つが、一旦治った感染はその後東京新宿から始まり、全国へと広がり始めている。前回の未来塾で5月の家計調査結果についてレポートしたが、今の調査方法に変えてから初めての激しい消費の落ち込みが示されていた。特に観光産業関連は軒並み前年比90数%の落ち込みとなっており、その時にも書いたが政府は持続化給付金が切れる前に計画されていたGOTOキャンペーンを前倒しで行うことを決めたのではないかと。

ほとんどのメディア、特にTVメディアは消費実態、その「数値」の意味については報じない。その極端な落ち込みによる企業破綻、倒産についても同様で、5月の倒産件数は314件で56年ぶりの低水準であったこともあって経済の危機についての関心はなく、記事にすることはなかった。実は倒産件数が少なかったのは、裁判所もコロナ禍によって業務が縮小されており、つまり受付なかったということによるものであった。こうしたことを報じたのは唯一日経新聞ぐらいで、TVのワイドショーなどで取り上げられることはなかった。ところが7月に入り、やっと知っている中堅企業が続々とその破綻が明らかになってきた。例えば、主にSC(ショッピングセンター)などに出店していた「すし常」やエゴイストと共に渋谷109を代表すっるブランドであった「セシルマクビー」の破綻、更にはファッションであれば「ナチュラルビューティー」も事業を廃止した。その背景にはファストファッションの台頭やネット通販業態への転換など多くの要因はあるが、消費増税の壁の先に出現したコロナ禍が破綻に追い込んだことは間違いない。
家計調査にも出ているが化粧品やファッション衣料はまるで売れてはいない。勿論、外出自粛によって着ていく場所、街という舞台を失っているからである。ただ面白いことに化粧品について唯一売れているのがマスクからでも見えるアイラインなどは好調であると。このようにコロナ禍にあって売れている商品もある。また業績は低迷している手芸のユザワヤは都心部の店舗を撤退させてきたが、手作りマスク需要から活況を見せている、そんな事例も見られる。こうした事例はある意味で例外であり、残念ながら、メディアの舞台に上がることのない中小零細企業の破綻は進行している。

私は何事かを決めつけるやり方として、あまり「世代論」が好きではない。俗に言う「今の若者は」と言う言い方に象徴されるのだが、今から10数年前に社会現象となった若い世代のコミュニケーション、KYについてブログに書いたことがあった。それは2007年の流行語大賞の一つに選ばれた言葉、KY(空気が読めないに当時の若い世代の時代感覚のようなものを感じたからであった。当時次のようにその「意味」を書いたことがあった。

『KY語の発生はコミュニケーションスピードを上げるために圧縮・簡略化してきたと考えられている。既に死語となったドッグイヤーを更に上回るスピードであらゆるものが動く時代に即したコミュニケーションスタイルである。特に、ケータイのメールなどで使われており、絵文字などもこうした使われ方と同様であろう。こうしたコミュニケーションは理解を促し、理解を得ることにあるのではない。「返信」を相互に繰り返すだけであると指摘する専門家もいる。
もう一つの背景が家庭崩壊、学校崩壊、コミュニティ崩壊といった社会の単位の崩壊である。つまり、バラバラになって関係性を失った「個」同士が「聞き手」を欲求する。つながっているという「感覚」、「仲間幻想」を保持したいということからであろう。裏返せば、仲間幻想を成立させるためにも「外側」に異なる世界の人間を必要とし、その延長線上には「いじめ」がある。これは中高生ばかりか、大人のビジネス社会でも同様に起こっている。誰がをいじめることによって、「仲間幻想」を維持するということだ。
KY語は現代における記号であると認識した方が分かりやすい。記号はある社会集団が一つの制度として取り決めた「しるしと意味の組み合わせ」のことだ。この「しるし」と「意味」との間には自然的関係、内在的関係はない。例えば、CB(超微妙)というKY語を見れば歴然である。仲間内でそのように取り決めただけである。つまり、記号の本質は「あいまい」というより、一種の「でたらめさ」と言った方が分かりやすい。』

更に、若い世代の常用語である「かっわいい~ぃ」も「私ってかわいいでしょ」という「聞き手」を求め、認めて欲しい記号として読み解くべきだとも書いた。以降、多くの社会現象、例えば渋谷スクランブル交差点に集まるバレンタインイベントも、「聞き手」と言う仲間を求めて集まる出来事であることからわかるかと思う。
記号、つまり絵文字やスタンプを使った即時のやりとりは「反応」という「自動機械」の潤滑油となる。そこには個性はなく入れ替え可能と言うことである。むしろコミュニケーションに遅れが生じると「意識」や「考え」の働きを目ざとく見つけられて叩かれる。それを恐れるから意識や考えを極端なまでに抑制する、「自動機械」に埋没したがる。その結果、今時の若い世代は、文脈を分析して「他者に対して想像力を働かせる」ことができなくなってしまった。私はそうしたコミュニケーションをあいづちを打つだけの「だよねコミュニケーションであると名付けることにしたことがあった。

ところで新型コロナウイルスについて置き換えるならば、最近東京都が言い始めた「感染をしない、うつさない」と言う標語、他者への想像力は働かないと言うことである。勿論、悪気があってのことではない。「大人」がいくら社会的責任の意味を説いてもコミュニケーションは成立しないと言うことだ。自分がうつってしまうかも、という不安はあっても、コロナ禍が始まった3月以降、若い世代の感染者は軽傷者がほとんどであるとの認識が強くあり、街中で行われる多くのインタビューには”自分はうつらない、大丈夫」とだけ答え、他者にうつす危険性についてはほとんど答えがないのはこうした理由からである。

ところでこの若い世代の消費について少しだけ分析したことがあった。それは日経新聞が「under30」という名称で若い世代の価値観、欲望喪失世代として指摘をしたことがきっかけであった。ちょうど「草食世代」などといったキーワードが流行った時代である。そのライフスタイル特徴と言えば、車離れ、アルコール離れ、ゴルフ離れ、結婚離れ、社会離れ、政治離れ、・・・・多くの「離れ現象」が見られた。一方で「オタク」という超マニヤックな行動を見せる世代が社会の舞台に出て来てもいた。周知のようにオタクは過剰、過激さをその特徴としているが、このunder30はオタクの対極にある「バランス」や「ゆるさ」への志向をはかってきたグループ世代で、外見は気のいい優しい「人物」である。
「バランス」が取れた誰とでもうまく付き合うゆるい関係、空気の読める仲間社会を指し「だよね世代」と私は呼んでいたが、もっとわかりやすく言えばスマホの無料通話ソフトLINEの一番の愛用者である。そもそもLINEは「だよね」という差し障りの無い世界、空気感の交換のような道具である。オシャレも、食も、旅も、一様に平均的一般的な世界に準じることとなる。他者と競い合うような強い自己主張はない。結果、大きな消費ブームを起こすことはなく、そこそこ消費になる。そして、学生から社会へと、いわゆる競争世界に身を置き、それまで友達といったゆるいフラットな世界から否応なく勝者敗者の関係、あるいは上下関係や得意先関係といった複雑な社会を生きる時、そうした仲間内関係から外れることを恐れ、逆にそれを求めて街へ出る。今のコロナ禍の表現をするならば、「密」な関係を求めて、東京へ、街へ、出かけるのである。
未来塾の第一回目には「正しく、恐る」をテーマとしたが、この若い世代にとって「正しさ」の認識は「かかりにくい、かかっても軽症で済む」と言うのが彼らの認識である。そして、その「正しさ」を大人の論理で強制するのではなく、まず「聞き手」になることから始めると言うことである。感染症の専門家も、特にTVメディアも伝え方が根底から間違えていると言うことだ。その聞き手とは言うまでもなく「現場」であり、大学も、職場も、夜の街・ホストクラブの大人達である。東京アラートに際し、レインボーブリッジを赤く染めたら、お台場には見物客が多数集まり、つまり東京の新たな観光スポットになってしまった失敗を思い起こすべきである。「正しく、恐る」その正しさが一切伝わっていない証明そのものである。ロックダウンではなく、セルフダウンを選んだ日本は、まずすべきは「大人」が聞き手になるということだ。(続く)


タグ :コロナ禍

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Posted by ヒット商品応援団 at 12:56│Comments(0)新市場創造
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