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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2020年01月05日

正体見たり枯れ尾花  

ヒット商品応援団日記No754(毎週更新) 2020.1.5.

正体見たり枯れ尾花  

毎年元旦には主要各紙を読み大手新聞メディアは新年に当たりどんなテーマを掲げるかを読むことにしていたが、ここ数年ほとんどニュースにもならないような内容ばかりで辟易していた。ところが年末年始にかけて大きなニュースが飛び込んできた。周知の日産自動車の前会長ゴーン被告が日本を無断出国し、レバノンに身を寄せているという報道である。読売新聞の取材によればゴーン被告は木箱に隠れ外交特権を使い、プライベートジェット機で関空を出国し、トルコ経由でレバノンに入国したとのこと。また、元旦のTV番組でも日本の司法では推定有罪になるであろうとのゴーン被告の声明を使って、ゴーン被告を擁護するフランスメディアを紹介していたが、誰一人国際秩序がすでに壊れ始めているとの指摘はなかった。

周知のようにそれまでの政治・経済における国際秩序を壊したのは米国のトランプ大統領である。そして、今月末には英国のEU離脱が本格化するであろう。この2つのニュースについては当時欧米メディアを始め大手メディアの予測とは異なる結果が今日に至っている。つまり、混沌とした世界が地球上を覆っているということで、簡単に言ってしまえば「なんでもあり」の時代を迎えているということである。例えば、ゴーン被告は日本の司法制度を批判し、日本におけるこれからの裁判は成立しなくなる。国際法は存在するが、それも欧米圏は勿論のこと日本の司法もローカルな「法」に過ぎないということだ。ましてやレバノンという国家は周知のように、キリスト教、イスラム・シーア派、イスラム・スンニ派という3つの「権力」が混在する国である。身柄引き渡しなど日本との外交関係がどうなるかわからないが、推測するにレバノン政府が声明を出しているように「ゴーン氏の入国は合法である」という立場を変えることはないであろう。ほとんど報道されてはいなかったが、レバノン政府は以前からゴーン被告のレバノンへの入国を日本政府に要請していたという。

トランプ大統領が誕生した時、「分断と対立」が時代のキーワードであった。このキーワードは米国内だけのことではなく、国際社会全体に対してであったことを想起する。実はこのキーワードの先には「何が」あるかである。3年半ほど前になるが、未来塾「パラダイム転換から学ぶ-1」で英国のEU離脱の国民投票にについて、「グローバル化する世界、その揺り戻し」について書いたことがあった。戦後の一大潮流であったローカルからグローバルへの潮流に対し「揺り戻し」が始まっているという指摘であった。勿論、単に過去に元に戻ることではなく、”忘れ去られた何か、その復権、再登場、見直し”であり、そこに新しい価値を見出すことであった。
しかし、今回の「ゴーン被告の脱出劇」はローカル日本の「司法」とグローバルビジネスマンであったゴーン被告の「正義」との衝突で、しかもローカル日本では初めて本格的な司法取引に基づく起訴であった。そして、その裁判では金融商品取引法違反という一種の形式犯罪を入り口に3つの特別背任が争点になると考えられていた。春には公判が始まり、事件の争点が明らかになると考えられていたが裁判は行われないことになるであろう。私が興味を持っていたのは、日産自動車の再生を果たした「功労者」がその功労故に絶大な権力を手に入れたことによって起こる「問題」が明らかにされることであった。しかし、今回の事件に該当する刑訴法では、事件の被告は公判に出頭しなければ開廷できないと規定しているため、ゴーン被告が帰国しなかった場合、公判を開くことはできないこととなる。東京地裁はどんな判断を下すのであろうか、これもグローバル経営における日産自動車による「揺れ戻し」の中に生じた「衝突劇」である。

ゴーン被告の脱出劇で思い起こさせるのが、中国ファーウエイの副会長の逮捕であろう。周知の5Gの主役企業の副会長が米国の要請によりカナダで逮捕された事件である。イランとの金融取引を口実としているが、米国の通信技術の覇権争いがあることは多くの専門家が指摘していることである。米国政府はカナダ政府に身柄引き渡し請求をしてきたが、この1月には審理が始まる予定である。どのような結果となるか注目されるが、イランへの経済制裁に反するとして金融機関への嘘の申告をしたという罪による逮捕の衝撃と共に、孟被告は逮捕の数日後、1000万カナダ・ドル(約8億円)を支払い保釈され、電子監視装置の装着と旅券(パスポート)の提出が義務付けられたとのニュースであった。ゴーン被告との比較で言えば、パスポートの管理についてほぼ同じではあるが、GPSを使った監視装置をつけて勝手に出国できないようにした措置が取られたことである。この2つの事件に共通していることは日産自動車については日本と仏政府(ルノー)の主導権争いがあり、ファーウエイについては米中の貿易戦争の一つであり、共に「政治」が関与しているということである。

3年半ほど前の未来塾にも書いたのだが、グローバル化という「外」からの変化に対しては各国「受け止め方」「取り入れ方」は異なる。日本の場合、もっとわかりやすく言えば「外圧」となる。今回のゴーン脱出劇の第二幕はまず、欧米のメディアからローカルジャパンの歪んだ司法として徹底的に叩かれるであろう。確かに日本の刑事司法制度には問題があることは事実であろう。しかし、問題を外圧によって変えていくのではなく、自ら変えていくことが必要である。その「問題」を理由にゴーン被告の脱出劇が正当化されることではない。私は脱出劇と書いたが逃亡劇であり、立場が異なればどちらを使っても構わないが、明らかにすべきことは同じ世界である。その明らかにすべき世界とは日産自動車再生の功労者であるとも書いたが、どれだけの「痛み」を伴った「再生」であったかを今一度考えるべきであると思う。

その日産自動車のつまずきはバブル崩壊による高級車種の販売不振とグローバル化、つまり海外進出で特に英国での生産であった。ここでは詳しくは書かないが、赤字を出し続け、クライスラーやフォードに提携の打診をする。こうした交渉の間にも赤字は増え続け、最後の救済策を出したのがルノーであった。そのリーダーがゴーン被告であったということである。
こうして約2兆円の有利子負債を抱えて破綻寸前の日産自動車は1999年3月、仏自動車大手のルノーと資本提携する。元々ルノー自身が業績が低迷し、大リストラに辣腕をふるって再生したのがのがゴーン被告で、日産のCOOとして「5年以内に日産の再建を果たせなければ、失敗ということだ」と強調し登場する。後に再生の背景にあった脆弱な財務体質を不動産などの資産売却を通じ改善していく。
さてその再生の痛みであるが、村山工場(東京)など5工場の閉鎖、2万1千人の人員削減、系列取引の見直し……。これがゴーン被告がCOOとしてまとめたリバイバルプランであった。過去に例のない大リストラ策、当時コストカッターと言われ、経済界でもその評価は分かれていたことを覚えている。

こうした再生は功を奏しV字回復したことは周知の通りである。ましてや日産が開発先行してきた電気自動車時代を前にしてである。ルノー(仏政府)が支配下に置きたがるまでに復活し、同時に今回のような事件へと向かうのである。裁判で明らかにして欲しかったのは、「功労者」であるが故の立場を利用して特別背任など不正に利得を得てきたか否かを客観的に明らかにして欲しかった。このことは何よりもグローバル化、巨大化する企業にとって陥りやすい一種の「罠」を防ぐためである。
グローバル企業というとGAFA(Apple, Google, Facebook, Amazon)であるが。各社明確なポリシー、特に顧客市場に対し目指す理念を持っている。そうしたポリシーに共感して、従業員も集まり、顧客もビジネスとして納得して消費している。果たしてゴーン被告を始め日産の経営者は次の顧客市場に理念を持っていたのかどうか、ルノーと日産の保有株式の力関係に固執し政争の愚に陥ったのではないか、そうしたことが裁判で明らかにして欲しかったということである。

しかし、今回のゴーン被告のレバノンへの逃亡劇は「正体見たり枯れ尾花」と言われても仕方がない。以前から指摘されていたことだが、蓄財と節税に凝り固まった経営者という正体である。日本の司法制度の問題点を理由に「国際世論」を味方にして戦う姿は醜いとしか言いようがない。ゴーン被告が日産をV字回復した当時、「プロ経営者」「高い報酬に見合う人材」と、多くの経済ジャーナリストは褒め称えていた。確かに欧米においては経営者の引き抜きは日常茶飯事で、その条件の第一は高い報酬である。株を提供し、株価に連動した報酬をさらに盛り込んだ報酬制度が一般化していることも事実である。高い報酬を否定はしないが、分断と対立が深まる時代にあって必要とされることは依って立つ「持つべき理念」である。
日産自動車のV字回復における「痛み」について書いたが、ある意味それは第二の創業の痛みである。今なお苦難は続いており、更にゴーン逃亡劇もある。今すべきことは「変わらぬこと。変えないこと」を明確にすることにある。実は日本は世界でも類を見ないほどの「老舗大国」である。その筆頭である金剛組は創業1400年以上、聖徳太子の招聘で朝鮮半島の百済から来た3人の工匠の一人が創業したと言われ、日本書紀にも書かれている宮大工の会社である。世界を見渡しても創業200年以上の老舗企業ではだんとつ日本が1位で約3000社、2位がドイツで約800社、3位はオランドの約200社、米国は4位でなんと14社しかない。何故、日本だけが今なお生き残り活動しえているのであろうか。それは明確な理念を持ち続けてきたことによる。日産自動車の場合、第二の創業の原点として、その「痛み」を「変わらぬこと。変えないこと」として継承する努力を怠らないことに尽きる。(続く)


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