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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2019年12月08日

2019年ヒット商品番付を読み解く 

ヒット商品応援団日記No751(毎週更新) 2019.12.8.
2019年ヒット商品番付を読み解く 

ブログの更新に1ヶ月ほどかかってしまった。ところで今年もまた日経MJによるヒット商品番付が発表された。少し前には新語流行語大賞も発表され、重なるものが多く、一種の時代が求めている空気感のようなものが色濃く示された1年であった。まず、その以下が日経MJによる2019年の主要なヒット商品番付である。

東横綱 ラグビーW杯 、 西横綱 キャッシュレス 
大関 令和 、 大関 タピオカ
関脇 天気の子 、 関脇 ドラクエウオーク
小結 ウーバーイーツ 、小結 こだわり酒場のレモンサワー

ところで新語流行語大賞は「ONE TEAM」の受賞者となり、日本列島を熱狂の渦に巻き込んだラグビー日本代表チームのスローガンである。日本チームの公式キャッチフレーズは「4年に一度じゃない。一生に一度だ。」の公式キャッチフレーズであったが、多くのにわかフアンを惹きつけたのはこの「ONE TEAM」であった。トランプ大統領の出現や英国のEU離脱に見られるように「分断」「自国(自分)主義」が世界に広がっているなかにあって、7ヶ国15人の海外出身選手を含む31人はリーチマイケル主将を中心に桜の戦士ONE TEAMとして結束し、快進撃を続けた、この「ONE TEAM」に強く共感したということである。
ちなみにノミネート語30を見てもわかるように以下となっている。

1.あな番(あなたの番です) 2.命を守る行動を 3.おむすびころりんクレーター
4.キャッシュレス/ポイント還元 5.#KuToo 6.計画運休 7.軽減税率 8.後悔などあろうはずがありません
9.サブスク(サブスクリプション) 10.ジャッカル 11.上級国民 12.スマイリングシンデレラ/しぶこ 13.タピる
14.ドラクエウォーク 15.翔んで埼玉 16.肉肉しい 17.にわかファン 18.パプリカ 19.ハンディファン(携帯扇風機)
20.ポエム/セクシー発言 21.ホワイト国 22.MGC(マラソングランドチャンピオンシップ) 23.◯◯ペイ
24.免許返納 25.闇営業 26.4年に一度じゃない。一生に一度だ。 27.令和 28.れいわ新選組/れいわ旋風
29.笑わない男 30.ONE TEAM(ワンチーム)

また、同じような傾向が日経トレンデイにおいても次のようなものとなっている。

【1位】ワークマン
【2位】タピオカ
【3位】PayPay
【4位】ラグビーW杯2019日本大会
【5位】令和&さよなら平成
【6位】ボヘミアン・ラプソディ
【7位】Netflix
【8位】米津玄師
【9位】ルックプラス バスタブクレンジング
【10位】ハンディーファン

複数重複しているヒット商品や注目したキーワードを見ていくと、やはりラグビーW杯となる。経済効果は4370億円に上ると言われているが、停滞。鬱屈した「社会」にあってひととき夢中になれたラグビーであった。初戦であるロシア戦では18.3%(関東地区・ビデオリサーチ)であったTV視聴率は徐々に上がり、準決勝の南アフリカ戦では41.6%にまて達し、周知のようににわかフアンという新たば市場をも生み出した。それは「ONE TEAM」というスローガン、いや私の言葉で言えばコンセプトがビジネス世界のみならず、スポーツ界は言うに及ばずコミュニティ・家庭に至るまでの各組織単位で最も求められているキーワードが「ONE TEAM」、つまり一つになることであったということだ。個人化社会と言うバラバラ時代に最も求められていることであり、例えばビジネス世界にあっては「心を合わせること」を目的にした全社運動会や小さな単位では食事会までコミュニケーションを通じ「一つになること」の模索が続けられている。戦後の昭和の時代は創業者がONE TEAMのリーダーとして引っ張ってきた。今なおそうした創業型リーダーシップ企業は大手ではソフトバンクとファーストリテーリングぐらいになってしまった。平成を経て令和になり、こうしたリーダー無き後の組織運営にあって、ONE TEAM運営が最大課題となっていることの証左であろう。単なる言葉だけのONE TEAMではなく、一人一人が固有の役割を持って31人が試合を創っていたことを実感させてくれたと言うことである。その象徴がトライとは縁のないポジションであったフォワート稲垣啓太が「笑わない男」として流行語大賞にノミネートされていたことが物語っている。にわかフアンを創ったのはそうしたONE TEAMの「実感」を提供し得たからであると言うことだ。

次にランキングされているのはやはり軽減税率やキャッシュレスに見られる消費増税に関するものであった。このブログを書いている最中に内閣府から消費増税後10月の景気に関する発表があった。多くの人が案の定と想定した通りの結果となっている。今回の増税による駆け込み需要は前回と比較し大きくはならなかったが、10月の家計支出は前年度と比較して5.1%のマイナスであったとのこと。しかも、前回の5%から8%への増税後の落ち込み幅と比較し、更に大きく落ち込んだとのことだが、どれ以上に深刻なのは、10%となった外食ばかりか最も日常消費される洗剤やトイレットペーパーなどの支出が減少していることだ。
また、10月の景気動向指数(2015年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比5.6ポイント低下の94.8だった。更に、内閣府が11日発表した10月の景気ウオッチャー調査では街角の景況感が急低下し、東日本大震災後の11年5月以来の低い水準にとどまった。つまり、足元の景気が減速感を強めていると言うことであり、どの指標を見ても暗いものばかりである。
そもそもキャッシュレスに注目が集まったのも、ソストバンクのPayPayをはじめ新たな決済サービス市場が誕生した背景には政府からの5%還元を含め各社のポイント還元プロモーションによるところが大きい。逆に言えば、「お得」に多くの生活者、特に若い世代が注目し、そのお得競争が生まれたのも消費増税に起因していると言っても過言ではない。

ところで昨年からブームとなったタピオカであるが、タピオカの原材料の供給が限られていることから来年春頃まではブームが続くと言われている。元々デニーズのデザートから生まれたティラミスやナタデココであるが、特にナタデココを流行らせたのは女子高校生でその「食感」の新しさから、食品メーカーをはじめ新食感の開発競争が生まれてきた。その中にはミスタードーナツのポンデリングなどがあり、今回のタピオカもそうした新食感メニューの延長線上にあると言うことだ。
ただ、こうしたトレンド型商品は必ずブームが終わり衰退する時がくる。例えば、2013年以降原宿に出店したポップコーンショップの内、5社ほど参入したが生き残っているのは「ギャレット」だけである。つまり、タピオカも来年後半にはかなりの店舗のメニューからなくなっていくことが予測されると言うことである。

ヒット商品番付にランクされた「令和」であるが、新元号の前後には大いに注目されたが、以降天皇陛下の即位の礼についても、TV報道ほど大きな話題になることはなかった。新元号自体そのものが一過性のものであり、日常使用のものとして生活の中に組み入れられてきたと言うことであろう。つまり、ある意味生活価値観を一変させるような「驚き」を持って迎えたものではないと言うことである。
一方、関脇にランクされた「天気の子」は新海誠監督の第7作として140億円と言う興行収入を挙げ、国内映画のトップを走っている。前作「君の名は。」から3年ぶりの作品であるが、ジブリアニメとは異なるもう一つの新海ワールドが確立されたと言うことであろう。ただジブリ映画が自然との共生や生き方、あるいは教育といった時代が求めるテーマを主軸としているのに対し、新海映画は若い世代の感性世界、デジタル感性を主軸としていることから自ずとその広がりは小さくなっていることがこれからの課題であろう。
また、小結に入った「ウーバーイーツ」であるが、海外でスタートしたハイヤーの配車サービス「Uber(ウーバー)」を応用した、新機軸の「料理宅配サービス」が人気となっている。多くの飲食店から選択注文できるアプリを使った新しいサービスで、配達パートナーにとっても自由な時間に従事できることから、飲食店にとっても配達パートナーにとっても、両者にとってプラスとなる新しいプラットホームビジネスとして急速に伸びてきている。しかし、こうした新しいシステムビジネスの場合、往々にして問題も出てきている。今回の問題は会社側からの一方的な配達報酬の改定にあると言う。配達パートナーは個人事業主として契約をしており、そうしたことから新たに組合が作られ活動している。こうした新規ビジネスにおいては、必ずこうした改善されるべき時が来る。ウーバーイーツもそうした曲がり角に来ていると言うことだ。

さて2019年を通して着目すべきキーワードとして言えば「感」が明確に出た年であった。SNSの「いいな」といった片言の言葉で評価される時代から、「感」が動かされる時代に向かったと言うことである。それを教えてくくれたのがONE TEAMというキーワードの受け止め方であり、消費増税における価格感による消費行動であったということである。勿論、タピオカもそうだが、益々上滑りなコミュニケーションには踊らされない時代を迎えたということである。実感という本質をどれだけ続けられるかがビジネスの課題になったということだ。(続く)


タグ :ヒット商品

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