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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2019年05月23日

「テーマから学ぶ 差分が生み出す第3の世界」 後半 再掲  

ヒット商品応援団日記No737(毎週更新) 2019.5.23.




(前半からの続き)

時代ならではの新しい「差」の創り方

今まで取り上げてきた飲食業態は、どちらかというと一定の規模、チェーン展開を可能とする「差」の創り方ビジネスである。「俺の」のビジネスの場合、地価の高い東京での経営の第一として、立席スタイルによる顧客の回転率を高めたことにある。このように地価の高い都市部、賃料に見合うビジネスとして様々なアイディア溢れる「差」創りによる集客が行われている。
そうしたアイディアの方向について整理すると、ほぼ次の4つの「差」創りに分けることができる。

1、迷い店
看板のない、入り口がどこかわからない、雑居ビルの地下や3~4階、あるいはごく普通の住宅街にあるなかなかたどり着けない迷い店。こうした店舗立地の分かりづらさを逆に活用した、面白がり・ゲーム感覚を売り物にした「差」づくりの店である。

かなり前のことになるが、表通りからは入ることができない中華料理の行列店がある。帝里加 (デリカ)という店で銀座8丁目の首都高速汐留パーキング(地下駐車場)にあるまさに知る人ぞ知る店である。古い店で今もやっているかどうか食べログで調べたが今も健在のようだ。銀座の中心からは少し離れてはいるが、当時のランチは確か550円程度であったと記憶している。当時は銀座の外れとはいえ安く食べられる店として人気があったが、確か数年前に「地下駐車場にある中華料理店」という珍しさがTV局に取材され、そうした意味での観光客も訪れるようになっているようだ。

こうした隠れ家的な店から、今や見事にたどり着けない店が至る所に出てきている。こうしたたどり着けない光景はTV的で見られた人もいることと思う。例えば、テレビ朝日 スーパーJチャンネルで紹介された新宿三丁目の「ホルモン鍋盛岡五郎」はまさに迷い店の典型であろう。雑居ビルに看板は出ているが、店があるべき場所には、業務用大型冷蔵庫の扉があるだけ。実は冷蔵庫の扉=店の入口で、店主いわく「店名は忘れても冷蔵庫の扉は印象深い」ことから、からくりめいた構造にしたのだという。

2、狭小店
地価の高い都市、更には使えないほどの狭い空間、ある意味都市が生み出すデッドスペースをうまく活用した店舗である。

「すし処まさ」という名前を知っている人はかなりのすし通として食べ歩いている人であろう。もしそうでなくても”ああ、あの店か!”と思い出す人もいると思う。新橋駅前ビル2号館の地下にあるわずか3席しかない寿司店としてTVなどでも取り上げられた店だ。勿論、完全予約制で、2~3年先まで予約で一杯という店で、プライベートな「マイ寿司店」である。

「すし処まさ」も古い店であるが、古くからある狭小店となると、JR神田駅高架下の焼肉「六花界」も同じで数名も入れば一杯となるわずか2坪半の立ち飲み焼肉店である。肉を焼く七輪はわずか2つ、隣り合わせの見知らぬ客と一緒に焼いて食べるので、仲良くなること請け合い、縁結びの店としても有名である。TVでも何度となく取り上げられてきたので、遠方から「六花界」を目当てに来る「観光地」にもなっている。

また小田急線新百合ケ丘駅には階段下にこれも狭いカレー専門店がある。「チェリーブロッサム」という店で、ここも席数はわずか5席。階段下というデッドスペースを女性店主が小田急電鉄と交渉の末、了解を得て店舗にしたという。「チェリーブロッサム」も「六花界」と同様、見知らぬ者同士が仲良くなるとして「縁結びの店」としても知られている。

マーケティングに「プロブレム・イコール・オポチニティ」というキーワードがある。問題点こそ新たな解決の入り口となるという意味だが、狭小であればこその世界、「差」の創り方があるということだ。

3、遠い店
4年ほど前からテレビ朝日による行列ができる即日完売の店を漫才コンビU字工事が訪れる「いきなり!黄金伝説」という番組がある。この番組放映を見て、全国各地にある行列店観光の旅をする人も多く出てきたと思う。「そこまでしても食べたい」というのは食欲のそれではなく、食べ歩きの趣味が高じた一種の「行列オタク」といった方が分かりやすい。

迷いはしないが、とにかく遠くても行きたい人気店がある。最近ではハイキングコースとして知られる高尾山に温浴施設が出来て、登山と共に楽しめるようになったが、それまでのもう一つの楽しみが名物の蕎麦である。
最近ではこうした遠くても行列オタクが出没する日本一標高の高い山頂のパン屋さん「横手山頂ヒュッテ」が人気となっている。長野県と群馬県の県境にそびえる横手山の山頂にあるパン屋さんであるが、毎朝山頂で焼き上げる絶品のパンは、一度食べたら忘れられない味という。

これもTV番組的な話題として格好のものであるが、ここ数年「遠くても行きたい」オタクが増えてきている。撮り鉄、乗り鉄といった鉄道フアンはよく知られた存在であるが、全国各地の食による町おこしイベントであるB1グランプリがスタートして以降、全国各地のフードイベントを食べに旅行する「食べ歩きオタク」が多くなってきている。そうした意味で、「遠く」は問題とはならず、逆に「遠く」を楽しむ世界が生まれてきたということである。
勿論、そのためには「際立った」、「ここだけ」「この時だけ」という明確な「差」創りが求められていることは言うまでもない。

4、まさか店
「まさか」とは、あり得ない、いくらなんでも、本当!といった意味で使われる言葉であるが、常識を覆した店が激増している。特に、激増しているのが「デカ盛り」「メガ盛り」といった「量」の意外性を売り物とした、「差」創り店。もう一つが「価格」のまさかで当然原価割れしていることがわかる超低価格の設定である。こうした店の多くは口コミを始めTV局が取材してくれるであろうことを期待したもので、いわゆる宣伝費として実施しているところが多い。

こうした宣伝費として行う店は一定期間集客し、経験してもらえれば終了するというところがほとんどである。「まさか」を継続している店、今なお経営している店の一つが横浜を中心に展開している蕎麦店「味奈登庵(みなとあん)」であろう。創業40年、フルサービス店とセルフサービス店の2タイプがあるチェーン店だが、製麺工場に店舗がある、そんな業態である。1番の人気はつけ天。注文が入ってから天ぷらはあげる。美味しくて値段が手頃のため一日に400人以上が押し寄せる店である。
ところで、そのメニューであるが、セルフサービス店の人気の蕎麦の「富士山もり」はまさに超デカ盛りの蕎麦である。(是非HPを見て頂けれと思う。)
もり 300円
大もり 400円
富士山もり 500円
皿もり 300円
冷やしそば500円
おそらく「デカ盛り」と言った言葉がない時代から継続して提供しており、いわば元祖デカ盛り蕎麦店と言えよう。

これ以上数多くある「まさか店」を取り上げてもおまり意味はないので取り上げないが、いずれの場合もその最初の驚きは次第に慣れと共に無くなっていく。店も、メニューも、サービスも、オープンの時が一番新鮮な驚きを提供する。この鮮度を保つには次々と異なる「まさか」を導入し続けるか、もしくは「味奈登庵」のようにプロモーションとしてのそれではなく経営ポリシーとして持続させ、そのことを顧客が良く理解し共感を得られるか、そのどちらかである。
「味奈登庵」の場合、富士山もりに象徴されるデカ盛りによって創られる「差」は、独自な世界、第三の世界を見事に創り得ることに成功し、一つのブランドにまで高め得た事例である。
価格における「まさか」と思わせる「安さ」をブランドの根底に据えた専門店には、あのドン・キホーテがあり、均一価格100円としてはダイソーがある。この2社がブランドとして成立し得たのは、「差」創りという視点に立てば、見事なくらい第三の世界を新たに創り得たことによる。


テーマから学ぶ


今回のテーマは競争市場という避けて通ることができない現在にあって、「差分」という発想から見た幾つかの事例を取り上げ、顧客支持が得られる「差」とは何かを分析してみた。

5つ目の「差」創り

ところで私のブログや拙著を読んでいただいている人には、チョットいつもとは違うなと思われると思う。特に、4つの「差」創りのところである。実は4つではなく、5つであるのだが、一番重要なことは人による「差」である。例えば、周りを大型商業施設に囲まれ、衰退するかのように誰もが考えた江東区の砂町銀座商店街には、個性豊かな「あさり屋」の看板娘や昭和の匂いのする銀座ホールには人の良い名物オヤジがいる。そうした多彩な「役者」が日々商売している商店街である。それを目当てにご近所顧客どころか、都内から多くのシニアが押しかける商店街となっている。
街場の商店の最大の競争力、他に代えがたい「差」は人である。その人が作るメニューは量産できるものではなく、家庭料理、おふくろの味といっても過言ではない。それを人情食堂と呼ぼうが、昭和の洋食屋と呼ぼうが、その多くは「人」が創る「差」、固有な世界、まさに第三の世界がそこにはある。今回はそれらを分かった上での「差」とは何かを事例をもって分析した。

「差」の大きさがその後の明暗を分ける

今から3年ほど前に「俺のフレンチ・イタリアン」を取り上げた時、「ありそうで無かった」飲食店として「東京チカラめし」についても同じような視点で取り上げたことがあった。いわゆる焼肉丼の専門業態であるが、取り上げてから2年後には半年で一気に39店舗の閉鎖という結果となった。「焼き牛丼」(並盛330円)というスタイルと安さで、「吉野家」や「すき家」、「松屋」といった牛丼チェーンを猛追し、急成長した専門店である。その縮小(直営12店舗、フランチャイズ3店舗のみ運営)理由や背景は業界的には様々言われてきたが、俯瞰的に見れば「価格差」と「メニュー差」共に、実は大きな「差」として新しい世界を創り得なかったということになる。「東京チカラめし」導入後、牛丼大手にはすぐに「焼肉丼」というメニューが並び、メニュージャンルとしての「差」はなくなった。また、価格についても他の競争相手となっている牛丼だけでなく、今や外食最大手のコンビニ弁当との「差」を創り得なかったということである。
一方、同時期に「ありそうでなかった」メニュー業態で、多くの顧客支持を得た「俺の」も今手直しが入っている。スクラップ&ビルトは常であるとは言え、新しい「差」創りの成功と失敗という一つの事例として学ばなければならない。
情報の時代とは類似を生む時代だけでなく、顧客の側に立てば自在に選択できる時代ということである。小さな「差」は次第に周りの食の情報に埋もれ、選択のテーブルには上がらなくなっていく。

サイドメニュー戦略の進化と深化

今までのサイドメニューと言うと前述のナタデココのようなデザートが代表的なものであった。女性客を獲得するには甘いものは別腹という言葉があるように、飲食業界はこぞってデザートを競い合ってきた。こうしたサイドメニューの原型はどこにあるかと言えば、ファミレスがお手本として導入したのはホテルレストランであった。1970年代お手頃価格でホテル並みのサービスを満喫できる、そんなスタイルの最後に出てくるのがデザートであった。つまり、食のスタイルとしてのデザートである。この考え方は、外食で言うとファミレスから居酒屋まで取り入れられてきた。例えば、それまでの焼肉店ではデザートはあまり充実してはいなかったが、「差」創りとしてアイスクリームなど充実させたのが牛角チェーンであった。

しかし、競争はそうした「差」を差としなくなってきた。つまり、顧客の側にとってあらゆるところにスイーツが氾濫するようになり、特にコンビニにおけるスイーツのクオリティは高く、消費の先鞭をつける女性にとって最早差を感じることは少なくなってきた。結論から言うと、デザートの「戦略性」はどんどん減少してきたということである。

そして、こうしたメニュー環境を進化させたのは同一業種間の競争ではなく、業際という垣根がなくなり、選択肢は顧客の側に移った時代の只中にいるという認識が重要となる。7年ほど前から「ワンコインランチ」という言葉が当たり前のように使われてきた。何をランチで食べるかではなく、500円のランチを食べるという、デフレ型消費心理の象徴となるキーワードであった。また、同時期に流行った言葉がガツン系とかデカ盛りといった言葉であった。しかし、一方では一番活発な消費を見せる30代男子は「草食系」と呼ばれ、「お弁当族」なる言葉も流行った。多様な消費といえばそれで終いであるが、実は「多様さ」を突き抜けるようなメニュー模索が始まっている。

その一つがメインメニューとしてのサイドメニューである。言葉遊びのように思えるかもしれないが、両輪としてのメインメニューとサイドメニューといった方が的確であろう。「よもだそば」の看板には”自家製麺とインドカレーの店”とある。文字通り読むとなると、「そばとカレーの店」となる。
業際とは異なる事業にまたがった新事業を指す言葉だが、「よもだそば」の場合は異なるジャンルの異なるメニューにまたがる新しい専門店とでも表現したくなるそば店である。つまり、それほどまでに、専門店並みのカレーを提供しているということである。
新橋「丹波屋」のネパールカレーしかり、回転寿司の「くら寿司」のラーメンやシャリカレーもしかりである。そして、このサイドメニューのメインメニュー化によって新たな顧客層の拡大と客単価のアップという2つの戦略が同時に行なわれているということに注視する必要がある。
そば屋なのにここまでやるのか、回転すしなのにここまでやるのか、といったサイドメニューに「差」を創るところまで競争は進化し、深化してきたということである。そして、今後の競争はこうしたサイドメニューにおける「差」創りによって新たに生まれる第三の世界間の競争へと向かう。

課題をチャンスに変えるアイディア

外食特に客層を広げる必要のある店の第一のポイントは出店立地である。しかし、都市部の一等立地と言われる場所は賃料も当然高くなる。賃料に見合う経営をするにはどうすべきか、その良き事例の一つが「立ち食い」=「高回転」=「ニュースタイル」を生み出した「俺の」であった。今回さらに取り上げてみた「迷い店」「狭小店」「遠い店」「まさか店」はそうした課題に対し、いわば逆転の発想を持ってチャンスに変える店づくり、「差」創りである。
その「差」創りは情報の時代ならではのもので、「迷い店」「狭小店」「遠い店」も含め、その意外性、驚きをどうつくるかという「まさか店」である。話題性が最大の集客力となるのだが、その話題も時間経過と共にその「鮮度」は落ちてくる。ちょうど東京ディズニーリゾートが一定の間隔で新たなアトラクションを導入し、常に変化あるエンターテイメントを提供し続ける構図と同じ宿命を持っている。飲食業におけるアトラクションは「メニュー」ということである。

激安、激盛り、激辛、・・・・・・激であればあるほどまさかという「情報」を求めて行列ができる。行列という情報は、また次なる行列を呼ぶこととなる。いわば観光地化が進んでいくということである。こうした観光地化を「街単位」「エリア単位」で再生したのが、「谷根千」(谷中、根津、千駄木)である。拙著「未来の消滅都市論」にも書いたが、その後も「谷根千」には続々と和物の雑貨などの「観光地土産店」が誕生している。観光客に対し、昭和レトロというテーマ集積、テーマパーク化が進行しているということである。「まさか店」もメニュー創りとして、同様のテーマパーク化に向かうこととなる。つまり、「まさかメニューの充実と拡大」が観光鮮度を維持するということになる。

こうした「まさか店」を成立させる着眼の一つが、「差」創りにおける「あっと思わせるようなトリック世界」、あるいは「なるほどと思わせる物語世界」である。前者は「迷い店」で取り上げた業務用大型冷蔵庫の扉を入り口とした新宿の「ホルモン焼き店」であり、後者は「狭小店」の神田の立ち食い焼肉の「六花界」における縁結び物語となる。

ところで、この未来塾を書いている最中に再来年春に導入予定である新消費税における軽減税率の概要が政府&与党内でほぼ決まったと報道された。その内容だが外食とアルコール飲料以外の生鮮食品、加工食品については現行の8%に据え置くと。逆に、外食産業は10%になるということである。テイクアウトやデリバリーは軽減税率の適用を受けるようだ。そして、誰もが考えることは、2017年春以降は「内食化」が進むであろうと。それは更に「食」における競争が質的に激化するということであり、どんな「差」を創るべきか、チェーン店も、個人事業者店も、その明確な戦略が一層求められていくことは間違いない。
繰り返しになるが、「差」によって生まれる、顧客の脳が創りあげる「お値段以上の何か」「新しい何か」「第三の世界」をめぐる競争となる。そして、ほぼ軽減税率が決まったことで、外食産業は次なる戦略と実行への準備が一斉にスタートする。創り手の主張、メッセージがこの「差」に託され、顧客の側もその選択肢で応える、そんな市場になる。
どんな時代であっても、顧客の選択肢とは理屈としてではなく、自ら経験・食べもし、そのことによって「差」を体験するのである。今まで体験したことのなかったような、そんな突き抜けるほどの「差のある世界」であれば、リピーターやオタクとなる。ある意味、オタクという存在は突き抜けた「何か」を感じる、そんな「差」を決めてくれる存在である。いわば次の何かを感じ取るアンテナショップならぬ、アンテナオタクの時代を迎えたということだ。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:11Comments(0)新市場創造