2018年07月22日
まだまだあるすき間市場
ヒット商品応援団日記No717(毎週更新) 2018.7.22.
「日本一高い 日本一うまい」花園饅頭が2018年5月31日東京地裁に破産申請を行っていた。1834年創業、180年もの歴史を持つ和菓子の老舗である。東京・新宿に本店を持つ花園万頭はその饅頭もさることながら「ぬれ甘納豆」で知られた和菓子店で虎屋の塩羊羹ほどのブランド和菓子ではないが、それでも冒頭のフレーズ「日本一高い 日本一うまい」が破綻したのはこの時代の象徴でもある。東京商工リサーチによればバブル期の不動産投資が重く再建に向けてスポンサー探しを進めていたが上手くいかなかったとのこと、負債総額は約22億円。
デフレ経済下においては、かなり前の不動産投資のリスクが尾を引き今になって資金繰りが悪化し自己破産というパターンは珍しくはないが、この間「変わる」ことができなかった事例であろう。
ところで旧来の業態である居酒屋チェーンにあって、急成長を見せてきた「鳥貴族」は昨年10月フードとドリンクメニューの一律値上げを行っている。280円均一から298円均一(いずれも税抜き)に約6%の値上げである。28年ぶりとなる値上げであるが、多くの外食事業と同様人件費や食材の仕入れコストの上昇のためとしている。結果どうであったか、誰もが想定する通り客数の減少であった。値上げ分と新規出店分で客数のマイナスを補えるとしていたが、2018年になってからも苦戦が続いている。3月7日に発表された月次報告によると、既存店の売上高は前年同月比で1月は96.4%、2月には94.0%まで落ち込んだ。客数の落ち込みはもっと厳しい状況になっており、前年同月比で1月は93.8%、2月は92.0%であった。新規出店によって全体の売り上げ成長などは確保できるが、果たして顧客離れを起こした既存店の行方には懸念が残る。
周知のように2014年牛丼大手の「すき家」がアルバイト人員の確保ができないことから深夜店が続々閉店することがあった。しかも「ワンオペ」という一人回しの運営が過重労働であると指摘されブラック企業の代表であるかのごとく言われていた。しかし、その後のすき家はどうなったか、2016年3月期決算は大幅な増益となった。売上高は5257億円(2015年3月期比2.7%増)、営業利益は121億円(同384.9%増)、当期純利益は40億円(同111億円の損失)だった。すき家の業態の特徴の一つが富士そばと同様24時間営業であったが、2014年10月、国内約2000店のうち1200店で深夜営業の休止に追いこまれた。「深夜0時~朝5時は従業員複数勤務体制にする」という条件が設けられることになった。店舗により上昇幅はまちまちだが、人員確保のため、深夜時間帯の時給を上げている。条件を満たした店舗から順次、深夜営業を再開。次第に深夜営業店が増え、2016年期末には休止していた店舗が616店あったが、期末には232店にまで減少したとのこと。当然売り上げも利益も改善する。
つまり、すき家にとって深夜市場という顧客市場は経営の根幹であったということである。面白いことに、開店・閉店することによって食材の廃棄ロスが生まれていたが、深夜営業によってロス率が改善され利益貢献に繋がったということであった。
ところで先日は土用の丑の日であったが、スーパーの店頭には国内産、中国産2種のうなぎの蒲焼が店頭に並んでいた。季節の食ということからうなぎは外せないものだが、やはり国内産うなぎは高く、中国産や台湾産に手が伸びているようだ。春頃稚魚であるしらすうなぎの不漁が伝えられており、今年のうなぎは高いとの話が伝わっていることからであろう。ところが国内産の産地である宮崎や鹿児島ではうなぎがだぶついているという。うなぎもこの頃が旬の大きさで、時間がたつと大きくなり皮が硬くなってしまうという。そうであればこの時期、安く放出した方が良いのではと誰もが思うが、旧来の流通慣習から脱皮できない小さな市場になっている。ちなみに、前述のすき家はかなり前から中国で養鰻事業を手がけており、今キャンペーンをしているが、「うな牛 しじみ汁 おしんこセット/990円」はヒット商品になるであろう。1年に1度ぐらいはうなぎ専門店でうな重を食べたいと思うが、4000円以上はするのでわざわざ酷暑の中並んでまで食べに行くかとどうか。すき家のうなぎも一つのすき間を言い当てているかと思う。
こうした価格の隙間については昨年から注目していたホテルがある。素泊まりのロードサイドホテルチェーンの旅籠屋である。ファミリーロッジをキャッチフレーズとしているが、日本版モーテルといったほうがわかりやすい。全て室料制でシーズンごとに価格が変わるが、例えばレギュラーシーズンで1室10000円、家族4名で泊まれば一人2500円という料金になる。また、ペット連れもOKで、ペットも人間と同じ人数分とのこと。
こうした既存のホテル・旅館業態ではない宿泊業態が生まれており、ユニークなのはロードサイドということから地方が中心となるが土地所有者(個人や企業、場合によっては自治体)から土地を借受ける活動を行なっている。つまり、訪日観光客だけが注目されているが、形を変えた小さな地方創生、小さな魅力再発見など観光産業の一翼にもなりえる事業である。これも一つのすき間事業と言えよう。
ここ数年のすき間市場から見える世界には必ず「価格」という世界が見えてくる。その価格を判断する指標の一つが「客数」である。顧客を惹きつけるものは「何か」という古くて新しい命題である。旧来の考えに一度待ったをかけて考えて見ることだ。すき家には深夜営業という顧客要望が厳然としてあったということである。チェーンビジネスはともすると一店、一人が見えなくなる。「マス市場=チェーンビジネス」という視点、あたかもそれが効率が良い合理的なものだと考えがちである。深夜働く人の環境改善がなされ営業再開すれば、結果顧客もまた戻ってくるのだ。鳥貴族の経営実態は今ひとつわからないが、鳥貴族の成長を促した魅力は何かということに今一度立ち返ることだ。そこにある顧客の「価格の目」を通して何が見えてくるかである。これは私の推測の域を出ないが、280円と298円の差18円に価格の目が集まっていると思う。実は280円という価格に「すき間」があったということだ。ではどうすれば良いのか、すき家が行ったように、食材だけでなく小さなロスを徹底して無くすことなど、ローコスト経営を目指すことだ。(続く)

デフレ経済下においては、かなり前の不動産投資のリスクが尾を引き今になって資金繰りが悪化し自己破産というパターンは珍しくはないが、この間「変わる」ことができなかった事例であろう。
ところで旧来の業態である居酒屋チェーンにあって、急成長を見せてきた「鳥貴族」は昨年10月フードとドリンクメニューの一律値上げを行っている。280円均一から298円均一(いずれも税抜き)に約6%の値上げである。28年ぶりとなる値上げであるが、多くの外食事業と同様人件費や食材の仕入れコストの上昇のためとしている。結果どうであったか、誰もが想定する通り客数の減少であった。値上げ分と新規出店分で客数のマイナスを補えるとしていたが、2018年になってからも苦戦が続いている。3月7日に発表された月次報告によると、既存店の売上高は前年同月比で1月は96.4%、2月には94.0%まで落ち込んだ。客数の落ち込みはもっと厳しい状況になっており、前年同月比で1月は93.8%、2月は92.0%であった。新規出店によって全体の売り上げ成長などは確保できるが、果たして顧客離れを起こした既存店の行方には懸念が残る。
周知のように2014年牛丼大手の「すき家」がアルバイト人員の確保ができないことから深夜店が続々閉店することがあった。しかも「ワンオペ」という一人回しの運営が過重労働であると指摘されブラック企業の代表であるかのごとく言われていた。しかし、その後のすき家はどうなったか、2016年3月期決算は大幅な増益となった。売上高は5257億円(2015年3月期比2.7%増)、営業利益は121億円(同384.9%増)、当期純利益は40億円(同111億円の損失)だった。すき家の業態の特徴の一つが富士そばと同様24時間営業であったが、2014年10月、国内約2000店のうち1200店で深夜営業の休止に追いこまれた。「深夜0時~朝5時は従業員複数勤務体制にする」という条件が設けられることになった。店舗により上昇幅はまちまちだが、人員確保のため、深夜時間帯の時給を上げている。条件を満たした店舗から順次、深夜営業を再開。次第に深夜営業店が増え、2016年期末には休止していた店舗が616店あったが、期末には232店にまで減少したとのこと。当然売り上げも利益も改善する。
つまり、すき家にとって深夜市場という顧客市場は経営の根幹であったということである。面白いことに、開店・閉店することによって食材の廃棄ロスが生まれていたが、深夜営業によってロス率が改善され利益貢献に繋がったということであった。
ところで先日は土用の丑の日であったが、スーパーの店頭には国内産、中国産2種のうなぎの蒲焼が店頭に並んでいた。季節の食ということからうなぎは外せないものだが、やはり国内産うなぎは高く、中国産や台湾産に手が伸びているようだ。春頃稚魚であるしらすうなぎの不漁が伝えられており、今年のうなぎは高いとの話が伝わっていることからであろう。ところが国内産の産地である宮崎や鹿児島ではうなぎがだぶついているという。うなぎもこの頃が旬の大きさで、時間がたつと大きくなり皮が硬くなってしまうという。そうであればこの時期、安く放出した方が良いのではと誰もが思うが、旧来の流通慣習から脱皮できない小さな市場になっている。ちなみに、前述のすき家はかなり前から中国で養鰻事業を手がけており、今キャンペーンをしているが、「うな牛 しじみ汁 おしんこセット/990円」はヒット商品になるであろう。1年に1度ぐらいはうなぎ専門店でうな重を食べたいと思うが、4000円以上はするのでわざわざ酷暑の中並んでまで食べに行くかとどうか。すき家のうなぎも一つのすき間を言い当てているかと思う。
こうした価格の隙間については昨年から注目していたホテルがある。素泊まりのロードサイドホテルチェーンの旅籠屋である。ファミリーロッジをキャッチフレーズとしているが、日本版モーテルといったほうがわかりやすい。全て室料制でシーズンごとに価格が変わるが、例えばレギュラーシーズンで1室10000円、家族4名で泊まれば一人2500円という料金になる。また、ペット連れもOKで、ペットも人間と同じ人数分とのこと。
こうした既存のホテル・旅館業態ではない宿泊業態が生まれており、ユニークなのはロードサイドということから地方が中心となるが土地所有者(個人や企業、場合によっては自治体)から土地を借受ける活動を行なっている。つまり、訪日観光客だけが注目されているが、形を変えた小さな地方創生、小さな魅力再発見など観光産業の一翼にもなりえる事業である。これも一つのすき間事業と言えよう。
ここ数年のすき間市場から見える世界には必ず「価格」という世界が見えてくる。その価格を判断する指標の一つが「客数」である。顧客を惹きつけるものは「何か」という古くて新しい命題である。旧来の考えに一度待ったをかけて考えて見ることだ。すき家には深夜営業という顧客要望が厳然としてあったということである。チェーンビジネスはともすると一店、一人が見えなくなる。「マス市場=チェーンビジネス」という視点、あたかもそれが効率が良い合理的なものだと考えがちである。深夜働く人の環境改善がなされ営業再開すれば、結果顧客もまた戻ってくるのだ。鳥貴族の経営実態は今ひとつわからないが、鳥貴族の成長を促した魅力は何かということに今一度立ち返ることだ。そこにある顧客の「価格の目」を通して何が見えてくるかである。これは私の推測の域を出ないが、280円と298円の差18円に価格の目が集まっていると思う。実は280円という価格に「すき間」があったということだ。ではどうすれば良いのか、すき家が行ったように、食材だけでなく小さなロスを徹底して無くすことなど、ローコスト経営を目指すことだ。(続く)
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