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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2018年03月18日

観光の概念が変わる 

ヒット商品応援団日記No706(毎週更新) 2018.3.18.



昨年から消費の舞台に横丁路地裏をはじめとした「裏側」というキーワードを多く使うようになってきた。10年前に「わけあり」というキーワードを使ってきたが、それと同じような頻度で使うようになってきている。「わけあり」が主にデフレ時代の低価格化についてでありリーマンショックがその浸透を加速させてきた。「横丁路地裏」の場合は成熟時代の消費行動についてで、デフレが常態化した時代のキーワードである。実はこの横丁路地裏についても15年ほど前にも別な表現で使われていたことがあった。「隠れ家」あるいは「裏メニュー」「表通りから裏通りへ」、見えているようで、実は見えていなかったとの気づきが始まった結果のキーワードであった。あるいは見ないようにしてきたことへの反省でもあった。例えば誰も知らないところで細々と愚直にやってきたことが、表舞台へと出てくるということだ。サプライズという学習を経て、外側では見えなかったことを見えるように見えるようにと想像力を働かせるように気づき始めたということである。

こうした「裏側」への気づきは「昭和回帰」「ふるさと回帰」といった回帰現象にもつながっている。見るために過去を遡り、今を考えようとしているのだ。あるいは特に地方という未知への興味も根っこのところでは同じである。いかに知らないことが多かったかという自覚であり、自省でもある。横丁路地裏も然りということである。そして、裏はいづれ表となる情報の時代である。この裏が表に出ることを加速させているのが周知のインターネットということである。その象徴としてあるのがこれも周知の訪日外国人市場である。

年が明けても1月の訪日外国人は予測通り増加の傾向を示している。その増加の内容はリピーターであり、地方観光へと向かっていることによる。楽天トラベルによれば島根・鳥取という山陰地方が人気になっており、2017年度のランキングは以下とのこと。
2017年 訪日観光客 人気上昇都道府県ランキング(※前年同期比伸び率順)
1位 島根県 +135.0%
2位 三重県 +132.6%
3位 鳥取県 +130.9%
4位 宮城県 +123.1%
5位 鹿児島県 +119.1%
(母数が小さいので伸び率だけを注視してください)
その理由であるが、出雲大社や松江城、そして玉造温泉という訪日外国人の興味を満たす「観光コンテンツ」があるということと、最大の理由は何と言ってもアクセスが拡充したということに尽きる。そのアクセスであるが、2016年の香港航空による米子-香港線就航など、国際線の拡充が増加の主要因となっている。
また、大きく増加しているのが東北地方で中でも青森県の伸びが極めて大きい。ちなみに、2017年1~10月の東北6県でトップは青森は19万6千人で、宮城(18万5千人)、岩手(14万9千人)と続く。その理由であるが、青森県は北海道新幹線開業をにらみ、空路と新幹線、フェリーの青森―函館航路を最大限活用して交流人口を増やす「立体観光」戦略を推進。中国、台湾、香港、韓国の4カ国・地域を海外誘客重点エリアに位置づけている。空路では、青森空港初の中国定期便となる中国・奥凱航空の青森―天津線が5月に就航。大韓航空は高い搭乗率を受け、週3往復だった青森―ソウル線を10月から週5往復に増便するなど、海外とのアクセスの利便性が一段と高まった。客船誘致も早くから力を入れ、17年に青森港に寄港した大型クルーズ客船は22隻と東北トップ。19年には英国の豪華客船「クイーン・エリザベス」が青森港に初寄港する予定とのこと。そして、青森市の居酒屋「ねぶたの国たか久」は津軽三味線ライブなど青森の伝統文化を体験できるのが売りで、台湾人で連日賑わっているという。
このようにアクセスの拡充が行われた結果が地方に観光客を大きく誘致できた理由となっている。このように山陰地方も東北・青森も従来のゴールデンルート的発想からは生まれない観光地であった。私の言葉でいうならば、日本の「裏側」観光ということで、そのコンテンツは地方には無尽蔵にあると言うことだ。

ところで冒頭の写真についてであるが、大阪梅田の新梅田食道街にある笑卵(わらう)というカウンターだけのうどん・そばと卵を使った親子丼などを食べさせてくれる梅田のビジネスマンにはよく知られた店である。いくつかあるメニューの中でも人気なのが、うどん(そば)+卵かけ定食でワンコイン500円。なぜこんな写真を使ったかというと、訪日外国人の興味関心事は日本の「裏側」へ、「日常生活」へと向かっており、次に向かうのは都市の裏側が予測されるからである。写真の新梅田食道街はJR大阪駅と阪急梅田駅のはざま、しかもJR線の高架下にある食堂街で、大阪人にとってはよく知られた場所であるが、こうした場所にも訪日外国人は現れてくるということである。更に言うならば、店の名物メニューである「卵かけご飯」という日本人には慣れ親しんだ食ではあるが、訪日外国人にとっては20年前の刺身がそうであったように初めての「食」となる。つまり、こうしたサラリーマンの日常にも押し寄せてくるであろうということである。
この食堂街には立ち食い串カツの松葉本店や奴(やっこ)といった居酒屋などその多くは立ったままのスタイルの店が多い。ある意味、梅田のサラリーマンにとって聖地であり、東京であれば新橋の西側に広がる飲食街と同じである。こうした訪日外国人が東京新橋の路地裏にある例えば大露路という居酒屋に現れるかと言えば、すぐそこにまで来ていると言うことである。
こうした表から裏へ、既知から未知へ、あるいは現代から過去へ、といった傾向は観光だけでなく、食で言えば賄い飯のような裏メニューから始まりサラリーマンのワンコインランチにまで、勿論食べ放題も体験する、そんな訪日外国人が増えてきている。情報の時代がこうした興味を入り口とした小さな知的冒険の旅と化してきたということだ。



こうした興味関心事の「表」から「裏側」への変化は勿論訪日外国人市場だけではない。隠れ家や裏メニューといった「裏側」への興味は実は足元にも広がっていることに気づき始めた時代に生活している。足元とは地域で言えば国内であり、もっと狭い地元となり、楽しみ方としては「非日常」「特別」ではなく「日常」「普通」の中にある。つまり、視点を変えればそこは「新しい、面白い、珍しい」世界が広がっていることに気づかされ始めたたということである。こうした背景には所得が伸び悩んでいることが一番の理由であり、余暇市場としては縮小傾向にあり、今なおその傾向にある。余暇市場も成熟時代にあっていわゆる「身の丈消費」となっている。日本生産性本部による調査データが新聞記事にまとめられていたので掲載しておく。ちなみにこのデータは全体値であり、1年365日自由時間となったシニア世代がその余暇市場の多くを占めていることは言うまでもない。そして、このシニア市場のシンボル的旅行が周知の日帰りバス旅行である。温泉や旬のグルメ、食べ放題といったメニューのバスツアーであるが、この市場にも訪日外国人が少しづつ増え始めている。

昨年ブログにも書いたが、京都などの名所観光には訪日外国人も多く、日本人観光客はその多さにひいてしまい敬遠する傾向にあるという。このように2つの市場がクロスし、雑踏状態になった観光地も出てきている。そして、6月にはいわゆる民泊が実施されることになり、観光地のみならず生活者の住居地域にも多くの訪日外国人とのクロス状態が生まれることとなる。当然、街場の定食などの食堂にも食べに来るであろうし、銭湯を楽しむ人も出てくる。つまり、日常生活の中にどんどん入り込んでくるということである。
今年度の訪日外国人は3200万人と予測されているが間違いなく実現されるであろう。日本はマレーシアや香港、ギリシアの観光客数を超えて、オーストラリアやタイと同じような観光客が訪れるということである。つまり、世界で有数の観光地になったということである。この日本という狭い国土に、人口1億2700万人の街に、生活の中に、観光客が訪れるということである。

日本の「表」となる観光地は、新梅田食道街ではないが「裏側」にも興味関心事は向かって行く。東京であれば裏浅草や銀座であれば路地裏観光が進んで行く。実は日本は驚くほどの観光資源を持っている国である。それは日本人が知らないだけで、世界からは「未知」という魅力に満ちた国であると見られているのだ。クールジャパンと言われていた20年前と比べ、それまでのアニメやコミック、あるいはサムライ、忍者、禅、寿司、といった「日本イメージ」から大きく広がりを持った日本へと向かっている。ちょうど、家電製品の爆買いを終え、コンビニやドラッグストアでの買い物へと変化したように、日本の生活文化、日常へと進んできたということである。昨年秋に「もう一つのクールジャパン」というタイトルでブログを書いたが、もう一つどころではなく、路地裏にまで進出してきたということである。
これから桜の季節である。今年も多くの訪日観光客が花見に訪れるであろう。花見の名所は日本全国至る所にあり、日本が世界に誇れるものの一つが「四季」にある。四季から生まれた日本固有のライフスタイル、祭事や行事、食は勿論のこと暮らしの道具まで楽しむことができるコンテンツ王国であるということだ。今までブログを読んでいただいた読者は理解していただけると思うが、日本の産業構造が脱工業化へと変われるチャンスが生まれつつあるということだ。地方創生の新しい芽もまた生まれつつあるということでもある。但し、観光産業は平和産業である。そして、日本文化の成熟度がこれから試されるということでもある。より具体的に言うならば、「おもてなし」の心や宗教的寛容さ、さらには清潔で安全という日本ならではの魅力を観光商品の新しい価値として確立させて行くことが課題となる。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:18Comments(0)新市場創造