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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2017年09月06日

再び、「人力経営」の時代へ 

ヒット商品応援団日記No685(毎週更新) 2017.9.6.

「訳あり」というキーワードが広く使われ始めたのは2008年のリーマンショック少し前からであった。当時は「エブリデーロープライス」というポリシーのもと躍進を続けるOKというスーパーマーケットの安さの背景を「訳あり」という説明を店頭で説明していたことに端を発する。そして、次第に「訳あり」というキーワードが浸透していくのだが、その考え方はスーパーのみならず飲食店やホテルなどのサービス業にまで急速に浸透していく。もちろん、景気低迷をさらに加速させたのは周知のリーマンショックであった。その後、町歩きをしながら多くの商店街や商業施設を観察した結果、実は「訳あり」というキーワードこそ使ってはいないが、同じような考えのもとに仕入れや販売を行い成長しているところは数多く生まれていた。その代表的な事例が、ハマのアメ横と呼ばれている興福寺松原商店街の鮮魚店や青果店であった。

その「訳あり」というキーワードは、10年を経て既に一般化し、当たり前のこととなった。言葉としての鮮度を失ったという意味ではない。生半可な「訳あり」は消費を促進する「訳」にならなくなったということである。今年に入り、ユニクロや無印、あのセブンイレブンやイオンが値下げに踏み切った状況にあって、今までの「訳」は購入の動機、選択理由にすらなくなったということである。私はこれをデフレの日常化と呼び、死語になったと指摘をしてきた。

2年ほど前、単なる「安さ」だけでは競争市場下にあっては「差」となりえない消費に向かっているとブログに書いた。その象徴例が圧倒的な「安さ」を売り物とした居酒屋チェーン「和民」の衰退である。(現在はスクラップ&ビルトの再生中である)その時、次のような4つの「差」の作り方があると整理をした。

●業態としての「差」ex,「俺のフレンチ」
●メニューとしての「差」ex,「くら寿司」
●価格における「差」ex,「味奈登庵(みなとあん」
●ネーミングなどコミュニケーションの「差」ex,「俺のフレンチ」

そして、最も大きな「差」づくりは「人」であると、”他に変えがたい”人材について書いたことがあった。もう少し分かりやすく言えば、「看板娘(おばあちゃん)」とか「頑固おやじ」といった名物店となる。人手不足の時代を迎えているが、この「人」による「差」づくりは益々重要なものとなっている。大手チェーン店は省力化が更に進み、ロボット化していくこととなる。あるいはセルフスタイルがどんどん増えていくこととなる。既にタグのついた商品をカゴに入れるだけで自動的に価格を読み取り清算できる、そんなシステムが浸透し始めている。
しかし、こうした省力化・自動化できない販売サービス業も当然ある。生活雑貨専門店のロフトにおける事例で、以前ブログで次のように書いたことがあった。

『確か7~8年前になるかと思うが、生活雑貨専門店のロフトは全パート社員を正社員とする思い切った制度の導入を図っている。その背景には、毎年1700名ほどのパート従業員を募集しても退職者も1700人。しかも、1年未満の退職者は75%にも及んでいた。ロフトの場合は「同一労働同一賃金」より更に進めた勤務時間を選択できる制度で、週20時間以上(職務によっては32時間以上)の勤務が可能となり、子育てなどの両立が可能となり、いわゆるワークライフバランスが取れた人事制度となっている。しかも、時給についてもベースアップが実施されている。こうした人手不足対応という側面もさることながら、ロフトの場合商品数が30万点を超えており、商品に精通することが必要で、ノウハウや売場作りなどのアイディアが現場に求められ、人材の定着が売り上げに直接的に結びつく。つまり、キャリアを積むということは「考える人材」に成長するということであり、この成長に比例するように売り上げもまた伸びるということである。

人口減少時代にあっては至極当然の経営である。「省力化・自動化」も、「人の成長」も、同じ課題に向かっている不可欠な方法である。ところがマスメディアはこの「差」づくりに注目が集まっていることもあって、違いを際立たせるために更にエスカレートさせているところが続出している。例えば、激安、激盛り、激辛、・・・・・・「激」であればあるほどまさかという「情報」を求めて行列ができる。行列という情報は、また次なる行列を呼ぶことに繋がることは事実ではある。いわば観光地化が進んでいくということである。しかし、単なる「激」だけであれば、それはブームであり、次第に寂れた観光地になる。インスタグラムで写真映えした観光地が数ヶ月後には集客を終えていくように。

前回のブログ「未来塾」で、大阪の街歩きから”「笑い」、「やりすぎ」、・・・・・・これでもかと顧客を喜ばせる工夫が満ち溢れているのが「今」の大阪である”と書いた。実はこのことは商業の本質としてあることを思い起こさせてくれたことによる。必要に迫られ、どこよりも安く、しかも便利に・・・・・・そんな買い物ばかりの日常にあって、本来の「楽しみを持って買い物をする」といういわば原点に気付かされた。効率、合理性、そんなことばかりに目がいってしまい、大事なことを忘れてしまってはいないだろうかということである。特に、笑いを誘うような、ちょっとしたアイディア・工夫から始めることが必要だ。それがメニューであっても、顧客にかける一声であっても、である。それが再来店を促すことへと繋がる。”会いに行けるアイドル”はAKB48であるが、また会って話ができる人、楽しみが生まれる店、それが「訳あり需要」の次に目指す課題となる。つまり、再び「人力経営」の時代に向かうということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:30Comments(0)新市場創造