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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2016年12月04日

雑エンターテイメントの広がり  

ヒット商品応援団日記No665(毎週更新) 2016.12.4.

今年のヒット商品には誰もが「ポケモンGo」や「君の名は。」を挙げることになるであろう。こうしたヒット商品の分析は日経MJによるヒット商品番付の発表を待ちたいと思っている。こうしたある意味消費の表舞台に出てきたヒット商品とは別に、消費の裏側で、大きな話題になることはないが、静かに売れている、そんな商品の傾向を取り上げてみたいと思う。

こうしたブログを書こうと思ったのも、先日久しぶりに大阪ステーションシティのリニューアル後の「ルクアイーレ」を見て回ったことによる。(この詳細については未来塾「街から学ぶ」 東京・大阪編 をお読みください。)特に見たかった売り場が新たに作られた2階の「ワールド雑貨マルシェ」であった。雑貨というと10数年ほど前から北欧がテーマとなっており、「ルクアイーレ」の7階にある売り場には周知の「フライングタイガー」を始めいくつかのブランドが出店している。実は私が見たかったのは「ワールド雑貨マルシェ」というネーミングのごとく市場感覚あふれる雑集積の売り場である。ちなみに下記のような小さなショップが見やすく、手に取りやすい形で視線を遮蔽するすることなく低い売り場として構成されている。
・マックスブレナーチョコレートバー(MAX BRENNER CHOCOLATE BAR):イスラエル発、NY他世界で人気のチョコレートブランド(西日本初出店)
・カーサヴィアバスストップ(CASA VIA BUS STOP):レディースファッション雑貨(梅田初出店)
・日本市:中川政七商店の生活雑貨(大阪初出店)
・シュシュ(CHOUCHOU):上質なギフト&雑貨類、アクセサリー&ファッション雑貨
・伊勢丹コスメ
・伊勢丹アーバンマーケット:ファッション雑貨
・マノン:デンマーク食器、ヨーロッパ雑貨とインテリアアイテムのセレクトショップ
・キキ&ララ・ゆめ星雲 おもいやり星:リトルツインスターズ40周年記念ショップ

イスラエルのブランドもあれば国産ブランドもある。女性の好みである可愛らしい雑貨が集積された売り場であるが、ブランド単体としてのそれではなく、全体として「雑貨市場」がつくられており、あれこれ楽しさ巡りができるようになっている点にある。つまり、全体の編集力、そのあり方を見て回ったのである。そして、見て回った後にチョット一休みにと奥まったところにはスターバックスが配置されており、フロア全体についてもよく考えられている。

こうした市場感覚、自由に見て回れる、本来買い物の楽しさが満喫できる売り場空間が多くのジャンルで広がっている。これは「食」に於いても特徴的に出てきており、いわゆる市場であるが、その市場感覚は併設されている「食堂」にも表れていてメニューの多さと価格の安さで、賑わいを創っている。東京であれば昔ながらの「ときわ食堂」はもちろんのこと、商店街にある多くの店に○△食堂といった新しい業態がここ数年増えてきている。数年前から若い世代を中心に流行り始めたバルもそのスペイン居酒屋から進化し、より広くメニューを用意した食堂スタイルへと変化している。
先日江戸時代の絵師葛飾北斎の作品を集めた「すみだ北斎美術館」に行ってきたが、その最寄駅であるJR両国駅の横に「粋な江戸」をテーマにした食の小さなテーマパーク「江戸NOREN」がオープンしていた。旧駅舎を活用した商業施設であるが、その中でも一番活気があってほぼ満席(全306席)に近かったのが築地食堂 源ちゃん」であった。
築地の活気とにぎわいを将来に向けて継承するため、中央区が設置した生鮮市場「築地魚河岸」が11月19日オープンした。鮮魚店、水産物店、青果店約60軒が入居した商業施設であるが、食のプロ向けと一般客・観光客に分けてオープンしたのだが、一般客・観光客が押し寄せすし詰め状態が続いていると報じられている。こうした常設市場以外にも関東近県の漁港や道の駅では朝市が人気でここも観光地化している状態だ。

雑エンターテイメントというテーマについては「未来塾」に於いて上野アメ横を取り上げ、その「雑」集積の集客効果のメカニズムについて描いたことがある。戦後、いや明治以降の日本は「外」から多くのものを取り入れてきた。ある意味、雑文化国家日本といっても過言ではない。紀元前文字を持たなかった日本は世界の中のいわば後進国であった。そして、当時先進国であった中国からもたらされた文字、漢字をひらがなに変化させ固有の文化を創ってきたように。消化不良もあったと思うが、外から多様なものを取り入れ咀嚼してきた歴史がある。それは食にとどまらず、例えばスポーツの世界においても同様でその象徴が「駅伝」であろう。今や世界のエキデンというチームスポーツになった駅伝であるが、その誕生は東京奠都(てんと)50周年を記念し、大正7年に京都三条大橋をスタート地点に東京上野まで508キロを3日間で走るスポーツとして始まっていた。勿論、マラソンを下敷きにした競技であるが、そのマラソンが行われたオリンピックはギリシャを中心にしたヘレニズム文化圏の宗教行事であった。駅伝が広く浸透していったのも個人の利益よりチームの栄光、1本の「たすき」に心をつなぐスポーツという精神性を重視する点にある。まさに日本人の精神文化をよく表したスポーツである。
あるいは英国から取り入れたテニスのその後の開発経過からあの柔らかなゴムまりが生まれ、そして今や日本からアジアに輸出されているという。プロテニスでは錦織圭選手が活躍する一方、こうしたソフトテニス(軟式庭球)をも輸出するというまさにこれぞ日本ならではのスポーツであり、その着想は見事である。このように外の世界を取り入れることに巧みな民族である。

話が横道に逸れてしまったが、変化の激しい時代、しかもデフレマインドが蔓延している状況にあって、「これが正解」という答えはない。以前にも必要なことは「賑わい」にあるとブログにも書いたことがあったが、その本質は消費することの楽しさをどう創っていくかに答えの入り口があるということである。
かなり前になるが、横浜の松原商店街を取り上げた時に、急成長した100円ショップのダイソーについて次のように書いたことがあった。
『東広島に誕生したダイソーは国内2800店舗、海外840店舗、3700億円を超える売り上げという、その成長には目を見張るものがある。特に、バブル以降デフレの時代の旗手の一社であったダイソーを当時多くの顧客が支持したのは次の3つの魅力であった。
1.「買い物の自由」;
すべて100円、価格を気にせず買える。買い物の解放感、普段の不満解消。「ダイソーは主婦のレジャーランド」。
2.「新しい発見」;
「これも100円で買えるの?!」という新鮮な驚き。月80品目新製品導入。(現在ではもっと多く導入となっている)
3.「選択の自由」;
色違い、型違い、素材違い、どれを取ってもすべて100円。
一言で言えば、”100円で「こんなものが買えるのか」という新鮮な感動”であった。このダイソーが松原商店街において見事に共振しているのはこうした買い物の楽しさにある。そして、この買い物の楽しさは、消費金額の差はあるが、ある意味日常化したアウトレット人気に通じるものである。』

ダイソーに限らず「楽しさ」の原点はここにある。過疎、高齢といった地域での買い物難民も増えつつあるが、そうした地域には移動スーパーの「とくし丸」をはじめ空白市場に参入しはじめているが、顧客の中心となるシニア世代にとって必要に迫られた買い物ではあるが、それでも顧客接点においては会話のある「楽しさ」が溢れている。そして、このとくし丸は野菜宅配のオイシックスが買収し、同じビジネスモデルで2019年3月期には売り上げ100億円超、トラックの台数は500台以上への拡大を目指すと言われている。
こうした移動販売であれ、通販であれ、あるいは顧客と直接顔を合わすことのないネット通販においても小売の原則「楽しさ」の工夫は必要である。

この楽しさ創造のポイントとなるのが今回のテーマである「雑」集積によるものである。この雑をどのように取り入れていくのか、「外」から仕入れる多様なルートを持たない街場の小さな店がまずすべきことは顧客要望の中からその着眼・ヒントを見出すことだ。ロングセラーを続ける街場の食堂や居酒屋のメニューは常連顧客からの要望によって生まれたものが多い。結果、50ほどあったメニューは次第に増え、100を超えメニュー表には載せられないほどとなる。ある意味、効率から一度離れてトライしてみるということである。
あるいは東京新橋にサラリーマン御用達の行列の絶えない立ち食いそば屋「丹波屋」がある。この店の春菊のかき揚げそばも美味しいのだが、店を手伝うネパール人のアルバイト女性が作る本格インドカレーが人気で、このカレーを求める顧客も多い。こうしたサイドメニューから生まれたヒットメニューであるが、これも「雑」による楽しみの広がりと言えよう。こうした考え方には回転すしのくら寿司におけるラーメンやシャリカレー、うな丼、牛丼なども同様である。一応サイドメニューとしているが寿司を中心にした雑集積メニューということだ。

つまり、食べる前に、あれこれ選ぶ楽しさ、そして新しい発見という面白さを提供してみようということである。市場巡りならぬ、メニュー巡りである。こうした心理は街歩きにも通じるものである。横丁路地裏という「裏」の他に、埋もれて見過ごしがちになっていた「雑」の中に自分好みを見つける、そんな楽しみ方である。
そして、もう一つ大切なことは、顧客という成熟した消費のプロがいることを忘れてはならない。品質と価格のバランスへの理解を踏まえた新たな発見を求めてということである。ユニクロの値上げの失敗はこの価格とのバランスを見誤ったことであり、牛丼の吉野家が以前と同じ価格で豚丼を復活させ、最近では日本マクドナルドが過去のヒットメニューを次々と復活させているのも、ヒットメニューの理由と共にこの価格バランスを再学習した結果による。理屈っぽく言うならば、客単価を追うのではなく、客数を求める時代ということだ。
その客数を追い求めるということは、「雑」の中から自分の好みを見出し、ライフデザインできるまでに成長してきた顧客に応えるという認識を持つということである。まずは効率を前提とするのではなく、「雑」の楽しさを提供し、次の段階で顧客支持のあった「雑」を中心に再編集するということである。楽しさ提供という編集力が問われて時代にあっては、損して、徳(得)を取るということに他ならない。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:48Comments(0)新市場創造