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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2016年09月07日

未来塾(24)パラダイム転換から学ぶ 回帰から見える未来 後半

ヒット商品応援団日記No656(毎週更新) 2016.9.7.

第1回の「パラダイム転換から学ぶ」では日本の近世から近代への転換点である江戸から明治への変化について、その痕跡をもとに考えてみた。第2回ではそうした変化の源であり今日のライフスタイルの原型が作られた江戸の変化について考えてきた。そして、今回は戦後の大きな転換点であるバブル崩壊、昭和から平成へと向かう変化、最大の変化イデアル2つの回帰について考えてみることにした。




「パラダイム転換から学ぶ」

後半

回帰から見える「未来」


昭和から平成というこの30年弱に起こったパラダイム転換による現象から何を学ぶかである。このことは「今」と重なっており、ある意味直接的にビジネスに反映されることとなる。そうしたことを踏まえ、これからの学びは仮説に基づくものであると理解していただきたい。

パラダイム転換を迫ったものは勿論グローバル化であり、その中でも「時間」に対する転換が大きく、そうした転換内容を境目のない「24時間化・無時間化」とした。前回のテーマ「江戸と京」では、”日の出とともに起き、夕に眠る”といったライフスタイルは崩れ、今日を予感させるような夜半に商売する屋台業態が生まれていたと指摘をした。
あるいは個人化社会が進行し、社会の単位が家族から個人へと転換することによる新たな問題も生まれ、また新たな市場も生まれてきた。前回の「江戸と京」でも指摘したことだが、江戸の住民の半分は武士で、そのほとんどが単身赴任であった。しかも、全国から集まる、いわば雑居都市であり、何故か今日の「無縁社会」及び「グローバル社会」と同じような構造に符合していると。更には江戸も東京も生産することなく、消費のみの都市である。

回帰の背景:失われたものの回復

江戸時代と今日とがある意味つながっており、昭和から平成というパラダイムの転換は平成固有の変化だけでなく、明治以降の近代化による転換と共に失ってしまったものの回復傾向が、この平成時代に一挙に出てきている。いつの時代も時代の変化と共に、残すべきものと新しく変えていくこと、この狭間で悩むのであるが、この「失われたものの回復」は、実は2つの回帰、過去回帰と自分回帰による回復の背景にあった。この回帰することによる回復は大きな潮流としてあり、平成という時代の大きな特徴となっている。その回復は次の3つに整理することができる。
1、自然・健康
2、仲間・家族
3、歴史・文化




「自然・健康」は既に周知のことで都市化が進む街の生活者にとっては最大の関心事である。最近では宮崎駿監督の描くジブリの世界のような「ツリーハウス」といった一種の自然生活に注目が集まっている。そして、今なお自然が残っている地方へのIターン、移住もこうした背景からである。前回の「江戸と京」でも書いたが、都市生活者が取り戻したい自然との生活は家庭菜園やキャンピングの「次」のライフスタイル潮流としてある。
また、都市においても多摩川などをフィールドにした子供達の自然学校が開かれたり、銀座の周辺には日比谷公園や浜離宮など自然があることから、銀座のビルの屋上でミツバチを飼ってスイーツなどに蜂蜜を活用する、そんな都市の中で自然と向き合う動きも見られる。

また、無時間化が進む都市にあって自然を感じるための工夫が進化していく。例えば、「四季」をコンセプトとした「食」のみならず、今以上に季節感を楽しむ催事は盛んになる。春は桜だけでなく、その前後の梅や桃、そして、ツツジ、アジサイ・・・・・・こうした自然を感じるための様々な工夫、例えば「朝らしさ」「夏らしさ」・・・・・・「らしさ」MDとでも表現したくなるようなものである。この「らしさ」創りの着眼については、第1回の「パラダイム転換」に書いた「和回帰」ということになる。和の夏であれば、風鈴や打ち水といった夏らしさ作りが夏物商品の販売には必要になるということである。

次に「仲間・家族」の回復であるが、東日本大震災による気づきもあるが、その「縁」の取り戻しについてはSNSなどを使った「情報縁」による新たな縁づくりも見られる。古いキーワードであるが、「5つの縁」によって少なくとも昭和までは問題があるにせよ縁が保たれていた。血縁、地縁、有縁、職場などの職縁、仏教で言うところのご縁。そして今その5つの縁にプラスし、情報によって結ばれる情報縁の6縁となった。そして、バラバラとなった個人化社会にあって、関係の回復や縁づくりのために、まずすべき課題として「居場所」づくりが多様な人間関係の中で始まった。例えば、2000年代半ばのヒット商品であった一人鍋から家族全員で食べる鍋やバーベキューに変わり、企業や団体では福利厚生を踏まえた運動会が盛んになった。
また無縁社会のシニア世代の居場所づくりとして、数年前から注目しているのが、仙台にあるNPOが運営している「シニアサロン井戸端会議」である。月額1000円の会員制度であるが、リタイアしたシニアの社会貢献として経験などを持ち寄る活動もあるが、そのコアとなっているのが「居酒屋事業」である。つまり、誰でもが利用出来る「居場所」を作ったことがポイントとなっている。そして、その活動の視野の広がりは、例えば9月の活動のテーマである「若者vsシニアの井戸端会議」となっていることを見てもわかるように、新しいコミュニティづくりへの広がりが感じられる。

3つ目の歴史・文化については前述の過去回帰としてのアシュラーや歴女ではないが、社会現象としても大きく出てきている。その総称を和回帰とも言うが、その奥行きは深く広い。そして、次なるテーマとなるのが「グローバル化の中の日本語や日本美」といった固有の日本文化については次回とするが、そうしたテーマへの評価は海外・欧米によるところが大きい。クールジャパンもそうであるが、古くは江戸時代の浮世絵であり、日本人自身が逆に気付かされるほどである。
グローバル化の波はかなり前から、教育特に語学に大きな影響を及ぼし、地球の共通語である英語による教育を行う大学に人気が集中し、母国語デアル日本語による思考力が低下しているとの指摘すら出始めている。

家族から個人へ、その未来

回帰という2つの現象が社会に、生活に、消費にと出てくる背景には、「失われたものの回復」というメガ潮流ともう一つの大きな変化、パラダイム転換を促す変化が、昭和から平成への変化の過程で起きてきている。個人化社会、無縁社会、個人サイズ、縁の復活、こうした社会現象をもう少し俯瞰的に見ていくと、そこには大きな「単位変化」、「単位の物差しの変化」、社会を構成する単位変化が劇的に進んでいることがわかる。そうした社会の単位変化、「家族から個人へ」という変化を整理・図解すると次のようになる。




読んでいただくとわかると思うが、家族という依存的関係から自ら社会に向き合うという自立への転換。日本の選挙制度もやっと18歳からの選挙権へと変わったが、これも自立への制度的整備であろう。そして、社会に出ればそれまでの家族にあった一元的価値から、多様な人たち、多様な価値観を認め合う、そうした価値へと変化していく。結婚関係はどうかといえば、離婚率の増加、あるいは晩婚化を見ていくとわかるが、経済を含めた婚姻条件による婚姻から、一種の共感関係、それが生き方や信念といった人生観の共感関係の大切さへと向かうであろう。親子関係については、20年以上前になるが団塊親子を称し、友達親子と呼ばれたことがあった。まるで友達であるかのように、仲良し親子とも呼ばれた。当時はそうした関係に着眼して、母娘消費と呼んでいた。

消費面では「個人サイズ」というキーワードで表現したが、市場が心理化しており、「心理サイズ」が重要となっている。これも10数年前からの常識となっているが、「あれこれちょっとずつ」といった消費はそうした心理サイズの代表的事例であろう。また、物はすでに充足しており、特別に買う必要性はほとんどない時代である。デパ地下の売り出しを見ればわかるように、例えば春には「花見弁当」を売り、定番となっている「全国駅弁大会」も新しいメニューをプラスし、新鮮さを出し続けている。こうしたテーマに惹かれ、それでは食べてみるかという気が起きるのだ。
また、高齢社会を映し出しているかと思うが、元気なシニア世代が多い。後ろ姿を見たらほとんど年齢も性別もわからないほどである。物理的年齢から心理的年齢へと、この単位変化も極めて大きい。

また、時間についての考え方も、24時間化といういわば地球時間と個人の生活時間との間で生きている。仕事の場が地球サイズになり、スマホ一つでいつでもどこでも仕事をしなければならない時代である。そうした意味で、仕事時間とプライベートな時間をどう分けて生活するかが時代の課題にもなっている。
そうしたことをも踏まえてだが、際目のないボーダレス時代にあっては、地球温暖化といったことも実感する声明を感じる時代である。と同時に、自身の人生価値も大切にしたいと考える時代でもある。

こうした進行しつつある多くの「単位変化」、単位の物差し変化の先に、どんな社会へと向かうのか。これも推測ではあるが、個人単位の組合せ社会、有機的結合社会へと向かうであろう。家族も従属関係ではなく、互いに尊重し合う関係という家族、個々人組み合わせ家族、そんな時代に向かうのではないかと推測する。そうした家族生活、ライフスタイルはどう変わっていくのであろうか、当然消費のあり方も変わっていく。

自分確認の時代

家族から個人へ、という潮流は再び家族へという揺れ戻しがあっても、その方向に変わりはない。この個人化社会の進行は常に「自分確認」を必要とする時代のことである。
そこに生まれてくるのが2つの「記念日」市場、自己を褒め、ある時は慰めるといった「自己(確認)投資」市場。もう一つが他者との関係において生まれてくる「関係(確認)投資」市場。つまり、確認しないと不安になる、そんな新しい市場である。

この味がいいねと君が言ったから
7月6日はサラダ記念日    俵万智

1987年260万部というベストセラーとなった「サラダ記念日」の一首である。青春期にあって人と人との関係の中で、その想いを瑞々しい感性で歌ったものであるが、マーケティングという視点に立てば、今日の生活者心理に潜む「自分」認識を彷彿とさせる歌となる。
心がそう想えばどんな小さな、ささいな出来事も記念「時」となる。つまり、顧客に「そう想える」出来事を創ることによって、記念としての商品が販売できることへとつながる。




「ミーギフト」というキーワードが10年ほど前に若い女性の消費市場を代表するとして流行ったことがあった。自分にご褒美という意味であるが、自己確認を行う自己回復市場といっても差し支えない。近年のバレンタインデーにおけるギフトは、義理チョコはどんどん減少し、その多くがミーギフトとなっている。このようにすでにある行事や出来事における消費の多くはミーギフト=自家使用・自家消費ということである。俵万智さんが歌ったように、そう想えば全てが記念日、自己確認記念日になるということである。

もう一つの記念日消費が「関係消費」、バラバラとなった人間関係をつなぎ、さらにより深めたり、あるいは修復したりする「失われた縁の回復」である。
こうした記念日とは少しずれるが、東京新橋に和菓子の老舗「新生堂」に「切腹最中」という菓子がある。「忠臣蔵」の起こりとなった浅野内匠頭が切腹されたことにちなんだ商品であるが、面白いことにサラリーマンがビジネスで失敗し得意先などにお詫びするときの手土産に利用するという。”切腹最中にて、御免”というわけである。


生きるための必要に迫られた消費もあるが、物が買われることには自分確認であったり、人と人の関係を創ったり維持したりといった心の機微が動機となっている。これが心理市場の内容である。そして、マーケティングの役割はこうした小さな心理を捉えることがカギとなっている。

第1回のパラダイム転換から学ぶ「グローバル化」その概要編では、その最大の転換点であった江戸から明治という西欧化、外からの変化の取り入れ方について取り上げてみた。そして、垣根のない時代は既に江戸から始まっていたことと共に、外からの変化の取り入れ方とその揺れ戻しについて。具体的には新しい、珍しい、面白い「洋」の取り入れ方、そして「洋」一辺倒のライフスタイルから「和」への揺れ戻しについても分析してみた。
第2回では、そうした変化の取り入れ方は既に江戸時代にも「江戸と京」という関係の中で「下りもの」という形で生まれていた。そして、東京一極集中は江戸時代から始まっていて、個人化社会、しかも巨大な消費都市が既にあり、今日の東京の原型となっていた。
今回の未来塾はパラダイム転換とタイトルをつけたが、生活者が時々の「変化」にどう対応してきたか、特に消費という視座を持って読み解くことを主眼とした。極めて大きなテーマであり、簡単なレポートでないことは重々承知している。ただ、面白いことに江戸から今日に至る数百年を通じ、変わらぬ価値観、変化の受け止め方が見られる。山本七平はユダヤ人との比較の上で「日本人論」を書いた人物であるが、私にとってはユダヤ人ではなく、「外からの変化」という時代による比較によって、日本人の特異な消費を浮かび上がらせてみたい、そうした思いが強くなった。

そうした意味を踏まえ、第3回ではバブル崩壊を境とした昭和から平成という転換点ではどのような変化が生まれているか、社会現象を通じより詳細に具体的に読み解くことにした。
今回は「回帰」というキーワードを使って読み解くことにしたが、2009年一斉に消費の舞台に回帰現象が出現した。周知のリーマンショックの翌年であるが、大きな危機に直面した時、まるで揺れ戻したかのように「過去」に「自分」に戻ってくる、そうした傾向が強く特徴的に出た1年であった。
そして、第1・2回共に、社会現象として現れてきた事実を読み解くことを中心としたが、第3回ではそうした事象を踏まえた仮説を図解したものを多用してみた。掲載した図解は、概要・フレームの理解のためでどのように推論していただいても構わない。

ところで、日本の消費生活に大きな影響を及ぼしてきた3つのパラダイム転換点、江戸、明治、そして昭和から平成について分析してきた。パラダイム転換はどんな新たな変化、特に新たな消費を生んでいくのか、そのメカニズムについてはある程度理解した。第4回以降は、消費生活の変化を促すいわば今日的なテーマを取り上げることとする。例えば、年齢を問わず最大の関心事である「健康」はどのように変わってきたか、そしてこれからどんな健康が求められるか、昭和から平成への転換点を軸とした今日的テーマを取り上げてみたい。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:07Comments(0)新市場創造