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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2015年01月09日

大いなる決断の時/日本マクドナルド

ヒット商品応援団日記No602(毎週更新) 2015.1.9.

日本マクドナルドがおかしくなっている。おかしくなっているとは、勿論経営という本質がである。1月7日に行われた異物混入に関する記者会見で一層その思いを強くした。社長ではなく、執行役員によるものだからと言う意味ではない。謝罪会見ではなく、単なる説明会見ということで、当日までに把握された異物混入の経緯についての説明であった。ここ数年日本マクドナルドだけでなく、食品偽装をはじめとした不祥事について必ず危機管理コンサルタントや弁護士の指導・サジェッションの上、記者会見が行われる。その目的はいかに企業を防衛するかに終始することになる。そこには異物混入の被害者やそれらに不安を感じている顧客はいない。

ここ2年ほど日本マクドナルドのメニュー開発や価格戦略についてブログ上で取り上げることが多数あった。その理由はデフレ下にあってどうメニューや価格をもってデフレの壁を超えようとしているかについてであった。結果についてはブログを読んでいただければと思うが、結論から言うと100円マックの値上げからすぐさま元の100円マックに戻したことに象徴される「迷走するマクドナルド」という一言につきるものであった。勿論、迷走の結果は赤字決算である。
ところで日本マクドナルドは1971年銀座三越の1Fにテイクアウト店としてオープンするが、周知のように藤田田氏のオーナー企業として運営された。当時私は外資系広告会社に勤務しており、隣のチームがマクドナルドを担当していた。米国から送られてくる各種のシステムやマニュアル類を読みながら、特にそのチェーンオペレーションの新しさに感嘆した記憶がある。ちょうど多店舗展開する拡大期であったと思うが、私もマーケティング実態について少しだけ手伝ったことがある。それはマニュアルには載っていない顧客要望、そうしたサービスの対応実態についてであった。例えば、ビッグマックをオーダーし、マスタードを塗って欲しい、といった個別注文である。米国マクドナルドでは多様なトッピングサービスが既にあるので、今ではそうしたことまでマニュアル化されている思うが、当時はそうした現場対応そのものが不可欠であった。そのためのトレーニングが極めて重要で、今で言うところの「現場力」「人間力」が成長のエネルギーになっていた。そうした現場力を育む必要性を説き、推進したのがその藤田社長であった。そして、日本独自の商品開発をはじめ、マクドナルドの日本化を進めるなど単なる米国のビジネスモデルの導入ではなかった。そうした異色のリーダーが藤田社長であり、当時から超ワンマン社長であった。毎週月曜日朝の幹部との朝礼は御前会議と称されるほどであると担当者から聞いていた。

マニュアルは言語や文化の異なる人間が集まった多国籍国家米国ならではの一種のノウハウで、マニュアルに準じてやれば一定のクオリティが得られるものとして策定されていた。一つのブランドとして均一な商品・サービスを提供するには不可欠なもので、ノウハウが凝縮されたものとしてある。しかし、マニュアルというツールに安住してはならないということが実は「現実」である。拡大・成長期こそ安住できる場所など無いということを藤田田氏は指摘していた。マニュアルはいわば提供する側の合理的なツールではあるが、今や多様に変化し続ける顧客要望に対してはマニュアルを超えた自在な対応力が求められている。そのことを藤田社長は一番理解していた経営者の一人であった。

たしか1980年代半ばであったと記憶しているが、「あのマクドナルドのハンバーガーの肉はミミズである」という根拠のない風説による都市伝説が流行ったことがある。勿論、根拠のないマクドナルドにとって迷惑な風評であるが、マクドナルドのハンバーガーは実はビーフ以外にも他の肉を使い、消費者に知らせていなかった事実があった。確かNHKが調査を行い指摘したと記憶しているが、その指摘を受けて1985年に日本マクドナルドは「100%ビーフ」として再スタートした経緯がある。
さて、この時の経験、ある意味日本マクドナルドの創業精神はその後どのように生かされてきたのであろうか。藤田商店として揶揄されてきたが、BSE問題などから売り上げが低迷し赤字決算を迎えてしまう。そして、日本マクドナルドの全てを米国に移管し、会長職を辞してからわずか2年後に藤田田氏は亡くなられた。その退任の記者会見でデフレからの脱却を願っているとの発言があったと記憶している。そして、周知のようにアップル社から原田氏を社長として迎えるのだが、それまでの直営方式からFC(フランチャイズ)方式に転換し、不採算店舗を積極的に閉めるなどして業績を立て直して今日に至るのである。

話を元に戻すが、理屈っぽくいうと、マニュアルという形式知を超えて、体験という暗黙知を踏まえどのような思いで今回の異物混入事件を見つめ直すかである。FC(フランチャイズ)方式の最大課題は現場の教育である。マニュアルによる絶え間ない訓練が必要となる。現状でのマクドナルドの人材については分からないが、現場でのモチベーションは下がり、しかも人手不足にあって教育も十分されていたとは思えない。
当時「ミミズである」といったうわさを払拭するには「100%ビーフ」といった大いなる経営決断を必要とした。いわんや異物混入が現実問題としてある以上、当時の経営判断以上のものが用意されなければならないということだ。

多くの食品を扱う企業の製造工程において、金属といった異物については発見、更には除去するシステムが用意され実行されている。しかし、ビニール等の非鉄金属については人間による「目視」が異物混入防止策となっている。しかも、大手外食チェーンの場合、中国やタイといった「顔の見えないところ」で作られている場合がほとんどである。消費期限を超えたチキンナゲット問題をはじめ、日本マクドナルドへの不安はいっさい払拭されていないどころか、異物混入問題によって増幅すらされている。それは昨年8月以降の売り上げ数字を見れば明らかである。
今回の記者会見は、「嘘」は言わないが「本当のこと」も言わない、そんな記者会見であった。この状態が続けば、更なる顧客離れが加速する。出来る限り早く大いなる決断」をもってカサノバ社長自身が記者会見に臨んで欲しい。これがグローバル経済、グローバル企業の常識である。(続く)
  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:13Comments(0)新市場創造