プロフィール
ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
インフォメーション
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 16人

2013年09月23日

既に始まっている消費の未来

ヒット商品応援団日記No562(毎週更新)   2013.9.23

安倍首相による最終の新消費税導入の決断を待たずに、既に半年以上前から増税後の消費は始まっている。その先行事例として東京湾岸地域のタワーマンション人気をブログにも書いてきたが、2020年のオリンピック東京招致がマンション購入を更に加速させている。
勿論、不動産企業やマンションデベロッパー・住宅メーカーは当然であるが、増税後の消費変化を見据えた各企業の準備・対応も活発化している。いわば増税による消費変化という事前に行なわれるテストマーケティンのようなものであるが、その象徴としてマクドナルドを取り上げ、競争相手でもある牛丼3社を含めその動きを半年前からブログに書いて来た。それは住宅という人生で一番大きな買物とは異なる外食=日常消費の変化についてであり、実は消費の未来は既に始まっているということでもあった。

政府は低所得者への支援として現金給付を考えているようだが、給付の多くは生活費への補填にまわるであろう。緊急経済対策の一施策として2009年3月に定額給付金が実施され、市町村による地元商店街活性化を目的としたプレミアム付きの商品券などの案も含め実施されてきたことを思い出す。更に前政権の時のこども手当の使い道についても、事前調査の結果もそうであったが、その多くは生活費の補填と将来への貯蓄であった。本来使ってもらいたいこどもの教育などには回らなかった。今回はどんな給付になるのか分からないが、定額給付金の時と同様の金額になるであろうとの予測が報じられているが、目立った消費効果は得られいと思う。そして、給付が想定される生活者にとっても給付は一時的なものであり、生活への不安が解消される訳ではない。

ところで今年の夏も異常な猛暑であったが、供給電力の限界といわれる98%にはほとんど至らない電力消費量であった。東日本大震災という体験が生活の根底にある省エネを強く促進させた結果である。その震災の少し前からであるが、車購入に際しても省エネ・省マネーが購入の基本となった。今や燃費効率競争はリッター35㌔台となり、数年経てば40㌔に届くであろう。いやその頃にはEV車もしくは水素自動車の時代の幕開けとなり、軽以外のガソリン車はどんどん減っていくこととなる。
3年前のヒット商品にLED電球があった。導入当時は1個7000円台であったLED電球はその量産効果により、明るさの違いにもよるが1000円未満からのラインアップとなっている。こうした量産効果のある工業製品は電気製品固有のものではなく、周知のようにファッションといった繊維製品にまで及んでいる。

景気高揚を煽る訳ではないと思うが、TVメディアは百貨店の高額商品、時計や宝飾品が売れていると報道する。確かに売れていることも事実で百貨店協会のHPを見れば分かるようにリーマンショックや東日本大震災後の落ち込みからは回復している。しかし、よくよく考えれば百貨店という業態はどんどん統合・再編を繰り返し、結果縮小し今日に至っている。つまり、パイ、需要に見合った売上になったということである。その中に優良顧客による購買が水面の上に出てきたということである。
この現象と同じステップに至ったのが、ファミリーレストランである。1970年代ホテル並みの料理&サービスを手の届く価格で提供するという業態は、すかいらーくを先頭に全国へと広がった。その後、多様な外食産業、特に回転寿司などとの競争のなかで、リーマンショック後不採算店をスクラップしてきた。すかいらーく500店、デニーズ200店、ロイヤルホスト100店大手3社で800店が撤退。そして、デニーズやロイヤルホストは初めて2000円台のステーキメニューを出し、顧客単価も1000円台にまで戻し本来の安定経営を行なっている。これも、顧客需要に見合った規模へと再編・縮小した結果ということだ。

こうした事例を見ていくと、あのマクドナルドも同じように1000円バーガーを始め高額バーガーを発売しているのかと思われるが、4月の値上げに続き9月13日からまた価格改定・値上げ(一部値下げもある)を行なうと発表があった。しかも地域価格ではなく、店舗単位による価格設定への変更であると。その中でも注目すべきはマクドナルドの代表商品、ザ・マックとも言うべきビッグマックが290〜340円から新価格310〜390円への大幅値上げである。
発売された1000円バーガーは従来のマーケットとは異なるハンバーガー専門レストラン並の価格帯メニューである。異なるメニュー導入は異なるマーケットを新たに創る。こうした戦略はセオリー通りであり、全体として客単価を押し上げる成果が得られていると報じられている。
果たして、こうした経営は継続性ある経営であろうか。今夏は猛暑により多くのファストフード店は売上を落としており、短兵急に答えを出してはいけないが、8月度のマクドナルド既存店売上は前年比▲1.9%。しかも客数が9.3%減と大幅に減り、客単価アップでは補いきれないマイナス売上になった。つまり、それまでマックを支えてきた顧客が更に離れてきたということである。

さて、このことはファミリーレストランにおける2000円台のステーキメニューの導入の在り方と同じである。コトの本質は、何故客数が減ったのか、顧客離れが起きたのか、という問題である。マクドナルドに即して言えば、日経MJが不振を続けるマクドナルについて顧客調査を行ない、その結果を記事として掲載している。(2/27号)以下、その要約である。(答えの中で一番多かった答えとその占める%)

1)一年前と比べてマックはどう変わった? マックの価格が高くなった:31.5%
2)マックの代わりに行くのは? 牛丼店等のファストフード:40.1%
3)マックでいくら支払いますか? 300円〜500円未満:41.3%
4)マックに期待することは? 低価格:63.5%

この調査結果からは「1000円バーガー」という答えは出てこない。マックから離れていった顧客がマックに代わって利用しているのが牛丼店である。大手牛丼3社のメニューと価格を見ていくと見事なくらいマーチャンダイジング&マーケティングされていることが分かる。大手3社は牛丼を基本に豚丼、焼鳥丼、そして季節メニュー(客単価アップメニュー)として鰻丼が用意されている。しかも、その鰻丼は「1000円バーガー」ではなく、既存客にとって手の届く価格設定がなされている。また、牛肉という高い原材料だけでなく、豚や鳥といった比較的安いメニュー構成となっており、顧客の好みの変化にも応え、しかも利益が確保し得る経営となっている。それらを含め、顧客の価格心理にうまく応えられている。価格心理とは常に相対的なものである。

消費者は想定される増税後の商品やサービスを踏まえ、「今」どうすべきか既に行動している。住宅ローンの借り換えや住宅の購入といった増税対策だけではない。日常的に利用するファストフード店などにもその購買心理はつながっている。今一度、顧客主義、顧客にどんな「満足」を提供しなければならないか、再検討すべき時となっている。企業として生き残らなければ顧客貢献できないという論議もあるが、実はその逆である。顧客貢献できなければ生き残れないのだ。そうしたことを消費増税は迫っている。
最近のマクドナルドを見ていると、値上げを否定はしないが、企業論理優先で顧客の傍らにいる企業とは思えない。マクドナルドが日本に導入された時、米国本社での活動を子細に調べたことがあった。その活動の根底にはコミュニティ、特に子ども達に愛される企業であること、そのためのパブリックイベントや奉仕活動の多様さと充実さに驚いたことがあった。
増税は既に始まっており、”増税前vs増税後どちらがお得”などといった表層的な情報に惑わされることなく、消費者は行動している。こうした消費行動を学び、顧客の傍らにいるための知恵とアイディアを創造しなければならない。(続く)  
タグ :消費増税


Posted by ヒット商品応援団 at 13:22Comments(0)新市場創造