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ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2013年04月09日

4月の消費風景

ヒット商品応援団日記No552(毎週更新)   2013.4.9.

4月4日黒田日銀総裁による新たな金融政策の発表があった。自ら以前の金融緩和策とは次元の異なるものであるとした記者会見であったが、市場はすぐ反応し翌日には円安株高へと動き、マスメディアはそうした動きを追いかけるように、街の生活者へのインタビューと共に報じていた。どのTV局も同じように証券会社の前で株価を見ているシニア層へのものであった。更にはカリスマデイトレーダーへのインタビューで今日一日で300〜400万円儲けたと語っていた。そう今から8年程前であったと思うが、ファンドマネージャーと共にデイトレーダーが脚光を浴びていたミニバブルのことを思い出した。
そうした報道を受けたニュース番組のコメンテータであったと思うが、牛丼チェーンの値下げキャンペーンにふれデフレ脱却に水を注すようなキャンペーンであるとコメントしていた。いわゆるアベノミクス応援団であると思うが、大手牛丼チェーンを始めとしたファストフーズ店は毎年新入社員や新入生を獲得するためにキャっぺーンを組む。周知のように年度が変わる3月−4月は生活を一新させる時期であり、家電量販を始め多くの専門店は「新生活応援」のセールを組む。あまりに無知なコメンテータに唖然としたが、デフレはまだまだ続くということだ。

1998年から始まったデフレ以前から、生活の節目となる各ライフステージの行事には、季節性を反映させながらも必ず小売業は提案セールを行なってきた。ちなみに今年4月のイオンは「欲しいがお得の5日間」というセールキャンペーンを行ない、イトーヨーカドーは「わけありセール」を行なっている。このわけありセールは以前から実施してきたセールであるが、
1)商品切り替えで在庫一掃したい
2)販売シーズン終了後、売れ残った
3)過剰な産地在庫が発生した
4)旧パッケージ・型落ち商品の在庫がある
5)内容に問題はないが外箱が傷んでいる
こうした提案はメーカーや生産者に呼びかけ、消費者につなぐ文字通りの流通として、こうしたわけあり商品を低価格で提供するというシステム化している時代である。

デフレの旗手でファストファッションと言えばユニクロの代名詞となっているが、H&MやZARA更にはフォーエバ−21といった海外ブランドを追いかけるようにアジアブランドが先月日本に進出してきた。シンガポールに拠点を置く靴とバッグの「チャールズ&キース」が原宿に。韓国からはアパレルファッションを中心とした「MIXXO(ミッソ)」が横浜そごうにオープンした。グローバル化した市場、世界市場への進出の第一歩、あるいはテストマーケティング地域として日本市場を位置づけるケースが増えてきている。以前にもブログに書いたが、東京であると同時にNYと同じようにTOKYOということだ。
前回のブログにて消費増税を見据えた小売業再編の幕が上がったと書いたが、もう一つの幕はやはりグローバル化する市場の深化であろう。

確か2008年1月頃であったと思うが、サブプライムローン問題について考えた時期に「消費都市TOKYO」というテーマでグローバリズムとローカリズムについてブログに書いたことがあった。それはTOKYOという市場を狙うことはそのままグローバル市場につながっている。また、国内市場という視点に立つと東京という生産地である地方を消費する都市市場の2つの側面を持った混在市場となっている点についてであった。グローバリズム、ローカリズム、2つの波に洗われ交差する都市が東京であり、新しい「何か」を見出していくには格好の場であると。例えば、古くはユニクロやダイソーがそうであったように、最近では地方から東京に進出し一定の結果を収めたラーメンチェーン店はTOKYOでの実績を持って、アジアや米国へと進出していく。東京という市場の深化とはこうした意味合いである。

2013年度の旅行動向についてJTBから堅調な予想が発表されていたが、このGW期間中(4月25日〜5月5日)の予測では過去最高2223万人の旅行者数になると4日発表があった。2011年3月の東日本大震災による急激な落ち込みから1年2か月後のGWには過去最高の旅行者数となり、今年は更に上回ると予測している。今年の人気は50周年を迎える東京ディズニーリゾートを中心とした首都圏で、いわば都市観光が人気となっており、NHKの大河ドラマ「八重の桜」の舞台となっている福島県など東北方面への観光客も伸びる見通しである。また、当然であるが、円安を反映し海外旅行は前年比5%減で、その旅行先も中国18.8%減、韓国10.9%減と、領土問題を反映した結果となっている。
このように休日の過ごし方あるいは自由時間の過ごし方にはライフスタイルの傾向、興味や関心事あるいは好みとそれらを可能とする消費の支出意識や傾向が明確に表われてくる。私が景気の動向の物差しの一つに特に東京ディズニーリゾートの入場者数を挙げているのも、東京ディズニーリゾートを支えているのがリピーター客で支出金額もそれなりに大きいことにある。この動向を見れば一般的な景気指標を見なくても景気の明暗が分かる。例えば、入場者数が減少傾向、つまりリピーター(=フアン)が行きたくても行けない経済的事情や東日本大震災の直後のような不安定な心理状態の生活者が増えている時はかなり悪く、逆に増加傾向の場合は新規顧客や休眠顧客が戻ってくるといったように先行き明るい指標となる。

ビジネス、特にマーケティングが消費心理の何を探るかと言えば、生活者の興味関心事がどこに向かっているかを見極めることにある。証券会社の店頭に掲示されている株価に注目する人は日銀の金融緩和策に関心事があり、牛丼の「すき家」の牛丼が30円安くなった店頭表示やイトーヨーカドーのわけありセールには注目はしないであろう。それぞれの顧客層の興味関心事がどこにあるのかが課題となった時代である。2013年4月の消費風景は異なる関心事が交差し、違和感をおぼえるほどの違いが東京の消費風景を作っている。アベノミクスに対し、専門家の評価は相半ばしているが、消費心理から言えば、収入が増えない限り評価を実感できないものである。今まで通り自らの生活経営に従って、少しづつではあるが賢明な消費に向かっている。勿論、デフレ認識にもとづいた賢明さであることは言うまでもない。
また、2004年頃ミニバブルが特定業種や東京都心で発生し一つの消費文化が生まれたが、今のところそうした芽は見ることは無い。しかし、今後はどうであるかと言われると、推測の域を出ないが、消費へと反映したミニバブルは起きると考えている。2004年当時はエリアとしては六本木を中心とした青山、赤坂、麻布辺りで、金融・不動産関連業種のスペシャリスト達であった。今回も既に活況を見せている金融・不動産関連業種からも生まれると思うが、恐らくエリアとしては東京駅周辺、丸の内、八重洲辺りで独自な消費が生まれるような気がしている。そして、2004年当時は「夜」の消費、「個人」であったのに対し、今回は数か月先になる予測している。ただ、「昼」の消費、「ファミリー」で東京駅や銀座に近い湾岸エリアのタワーマンションに住む生活者を含めた新たな都市型ライフスタイル消費になると推測している。そうした意味合いからすると、ミニバブルという表現とは少し異なる消費、デフレとも異なる消費が生まれてくると予感している。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:43Comments(0)新市場創造