プロフィール
ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
インフォメーション
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 16人

2013年02月17日

オタクと草食系

ヒット商品応援団日記No545(毎週更新)   2013.2.17.

平成世代と団塊世代の消費について、その異なる価値観を対比させることによって、時代そのものが要請する共通するものと世代ならではの違いについて書く予定であった。ところがあの誤認逮捕の原因となったPCの遠隔操作事件の容疑者が逮捕されたというニュースが飛び込んできた。Torという名前は知らなかったが、インターネットの接続経路の匿名化が可能なソフトがあるということだけは知っていた。興味をひいたのはそうしたソフトではなく、容疑者の年齢とその生い立ちについてであった。報道によれば過去8年前にも2ちゃんねるに書き込みをした「のまねこ事件」の犯人であったという。その裁判を傍聴した人物によると高校時代には陰惨ないじめにあい、大学でも空気の読めない奴と言われ中退したという。更には、警察によって自宅から押収された2台のPCは自作のもので、秋葉原のねこカフェもよく利用していたと。そして、容疑者の年齢は30才であると。

これだけの情報ではあるが、アキバに集まる多様なオタクのなかの技術系オタク、典型的なオタクの一人である。5年半程前に真性オタクは既に秋葉原にはいないとブログに書いたことがあった。モノマネだけのメイドカフェなどのブーム消費地、観光地化した秋葉原、そんなアキバを嫌ってオタクがいなくなったという指摘であった。
しかし、今回の「なりすまし事件」は勿論やってはならない犯罪ではあるが、固有なサブカルチャーを産み出す土壌はこうしたオタク達によってである。このオタクという呼称は、例えばアニメの世界でいうと、微妙に違う美少女の色合いにまで注視する、一種の「過剰さ」に対してである。私が興味深くニュースに接したのはこの「過剰さ」についてであった。

この事件の容疑者の年齢は30才。2年程前「under30」という名称で若い世代の価値観、欲望喪失世代として指摘をしたのが日経新聞であった。私の場合は平成生まれからunder30ぐらいまでの世代を平成世代と読んでその消費を分析することにしている。
ところでこの平成世代の特徴を草食系と呼び、あたかも欲望を喪失してしまったかのように見える世代である。草食系男女のライフスタイル特徴と言えば、車離れ、アルコール離れ、ゴルフ離れ、結婚離れ、社会離れ、政治離れ、・・・・多くの「離れ現象」が見られるからである。
つまり、オタク的世界から見ていくと、「過剰さ」「過激さ」の対極にある「バランス」や「ゆるさ」への志向をはかってきた世代で、1980年代から始まった仮想現実物語の終焉世代と私は位置づけをしている。ところが、今回の事件から見えてくるのは、この仮想世界への過剰なのめり込みである。その根底にはいじめや「のまねこ事件」による警察への恨みががあったのかもしれない。ああ、まだ真性オタクはいたんだというのが素直な感想であった。

一方、「バランス」よく誰とでもうまく付き合うゆるい関係、空気の読める仲間社会を指し「だよね世代」と呼ばれている。最近のヒット商品であるスマホの無料通話ソフトLINEの一番の愛用者である。そもそもLINEは「だよね」という差し障りの無い世界、空気感の交換のようなものである。オシャレも、食も、旅も、一様に平均的一般的な世界に準じることとなる。他者と競い合うような強い自己主張はない。結果、大きな消費ブームを起こすことはなく、そこそこ消費になる。こうした関係消費のヒット商品がLINEであり、「だよね」コミュニケーションの延長線上にある。そして、学生から社会へと、いわゆる競争世界に身を置き、それまで友達といったゆるいフラットな世界から否応なく勝者敗者の関係、あるいは上下関係や得意先関係といった複雑な社会を生きる時、そうした仲間内から外れたのが今回の遠隔操作事件の容疑者であろう。その避難場所として現実世界のどこかではなく、ネット世界とねこカフェという仮想世界を選んだということだ。

ところで特徴のない、というより強い消費欲望が現れてこない世代ではあるが、ここ1〜2年で新しい価値観の下での消費が見え始めてきた。前述のLINEもそうであるが、あるいはこの世代にとって話題&注目され人気となっている昨年のヒット商品「俺のフレンチ」のように独自なコストパフォーマンスへの考えが見て取れる。そして、一皿1000円以下の本格フレンチを立って食べるのもコスパスタイルということである。
そして、このコスパ志向の新価値を1年前私は「スマートライフ」と名づけた。以降、ハウジングメーカーを始め、続々と「スマート」というキーワードが使われるようになった。一言でいうと、新しい合理性を追求した価値世界であるが、スマホやスマートハウスだけでなく、既に市場にある新しい合理的商品、例えば車の場合はHV車であり、ガソリン車ではあるがリッター30キロを走る軽自動車も購入価格や燃費を考えたスマート商品として加わるかもしれない。

さてこの新しい合理主義的価値観は広がっていくであろうか。勿論、世代を超えた時代が求める基本価値として生活の隅々まで浸透していく。つまり、「何が合理であるか」が、あらゆる消費の最大キーワードになっていくということだ。数年前キーワードとなったわけあり商品もこうした合理的商品の一つであり、ライフスタイルを考えていくとより鮮明な消費スタイルが浮かび上がってくる。例えば大家族の場合は業務用食品ストアで大量に買うことが合理主義となり、単身者やDINKSのような場合は小単位、食べ切りサイズが合理主義となる。1980年代から始まった個性化の時代、好き嫌いが消費の第一義であった時代を終え、価格認識に基づくライフスタイルサイズの合理主義の時代に入ったということである。

団塊世代と平成世代の価値観を対比させながら、その消費価値観の違いと共通するものを浮かび上がらせようと思ったのだが、遠隔操作事件の容疑者が逮捕されたとのニュースが頭の隅にこびりついていて、平成世代における2つの価値観について書くことになった。消費を含め、欲望を喪失してしまったかの如き世代ばかりではなく、過剰さが溢れ出たオタク達もまた浮遊し存在していたということだ。
世界からクールジャパンのシンボル的存在としてアニメやマンガが見られてきたが、そもそもその発祥の経緯を考えても分かるが、サブカルチャーではなくカウンター(アンチ)カルチャーであった。既存、既成へのアンチ、反というエネルギーを内在させたものであり、過剰さこそがその証しでもあった。注視されてきたのは日本の精神文化であったということだ。容疑を否認しているので確定的なことは言えないが、遠隔操作事件の容疑者のような技術系オタク、道を外れなければホワイトハッカーにもなり得たオタクである。また周知のAKBオタクも既成カルチャー、音楽業界を席巻してしまった。このAKB48が現実空間、アナログ空間のアイドルであるのに対し、周知の初音ミクはネット上のアイドルとして多くのユーザー、オタク達によって仮想空間で育てられた。

話が少し横道にそれたが、こうしたオタク達は過剰さこそが「居場所」となり、バランスの取れたゆるい関係の草食系とは反対の極に位置している。非合理的であり、スマートではない世界である。しかし、過剰さという土壌から産まれたAKB48はオタク達の手を離れ既成音楽産業へとマスプロダクト化の道へと進んできた。一方、初音ミクも同様にネット上で育てられ、仮想世界から演劇やコンサートへとマスプロダクト化の道へと歩き始めた。一見非消費的世界に見えるが、決してそうではない。今後オタク文化ビジネスは様々なところに生まれてくる。
次回は当初のテーマである平成世代と団塊世代の消費について、その異なる価値観を対比させることによって、時代そのものが要請する共通するものと世代ならではの違いについて書いてみたい。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:46Comments(0)新市場創造