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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2012年08月14日

消費増税と消費変化(2)どんな文脈で消費を考えていくべきか

ヒット商品応援団日記No530(毎週更新)   2012.8.14.

前回の続きで、自己防衛志向はどんな生活場面に出てきているかであるが、こども手当の給付についても単純に子どもへの消費に回る訳ではない。博報堂の実施前調査では給付された場合使用時期に関わらず「教育・育児の費用」とするグループが全体の3分の2(67.3%)を占めている。このグループの使用時期を見てみると、「将来的に、教育・育児に使う(42.5%)」が、「給付された年度内に、教育・育児に使う( 24.8%)」を大きく上回っている。また、給付年度内に”生活全般の費用”に使うというグループも24.5%に及び生活財源とする意向も出てきていた。そして、給付実施後の給付結果もほぼ同様となり、大きな消費活性にはいたらなかった。

こどもの将来に使う、とは教育資金として貯蓄するということである。また、生活全般の費用とは生活費の補助である。つまりある程度は消費に回すが、子の未来を考えて貯蓄に回すという極めて賢明な生活者像が浮かび上がって来る。特に、子育て中の専業主婦の場合は生活費に、有職主婦の場合は貯蓄に回す傾向が見られ、使い道については体験型教育に使いたいと答えていた。
こうした賢明さは、未来への不確かさ・不安定さへの裏返しであり、表現を変えれば、自ら未来に備える自己防衛策ということだ。

そして、こうした自己防衛的価値観をより強めたのが、あの3.11東日本大震災である。その影響としてどんな消費が表れてきたかブログを読んでいただきたいが、そのポイントについて、次のようにブログに書いた。

『東日本大震災によってより鮮明となった市場が自己防衛市場である。「絆」とは真逆のように見えるかもしれないが、自然災害などに対しては自らを守る志向が極めて強く出てきている。防災グッズは言うに及ばず、電気自動車を蓄電池代わりとする。帰宅難民化に対処するために自転車が飛ぶように売れ、避難住宅にもなるとしてキャンピングカーまで売れ行きを伸ばした。また、主婦感覚とでも言うべきなのか、賞味期限の長い日持ちする商品が売れている。ソーセージなどがその代表であるが、従来鮮度価値の日配品と言われてきた牛乳やお豆腐にも賞味期限の長い新商品が出てきた。こうした商品以外にも、レトルト食品や缶詰も再認識されている。』

いつ起こるか分からない自然災害に対する備えであり、この備えは「計画停電」という無計画停電がこうした備えをより強くした。大手企業は工場の移転や分散化、あるいは自家発電を含めたエネルギー確保、更には営業時間を変え、工場稼働は曜日を変えた輪番制を取り入れた。個人の側は節電もさることながら、夏場であれば新技術による涼感衣類を始め打ち水といった昔ながらの知恵や工夫ある暮しへと向かった。勿論、こうした自己防衛的備えは今年の夏も同様に続いている。

こうした消費価値観を私は新しい合理的生活とし、「スマートライフ」と名づけた。今や2人に一人が所有するスマートフォンをはじめ、創エネ・畜エネでしかも経済的なスマートハウス、あるいはHVカーもそうであるし、リッター30キロ走る軽自動車も新しい暮しのスマートツールである。
このスマートライフについては既に3年程前に「個人サイズの合理主義」というタイトルでその賢い「合理性」に着目しブログにも次のように書いた。

『個人サイズの合理主義は平成世代ばかりでなく、他の世代、他のエリア(都市と地方)においても浸透していくと考えている。「何が合理であるか」が、あらゆる消費の最大キーワードになってくる。昨年のヒット商品の一つであるパナソニックの電球型蛍光灯のように価格は高いが長持ちし電気代も節約できて結果として安く済む、といった費用対効果を物差しとした合理主義もある。1年前から生活者の消費キーワードとなっている「わけあり消費」も、その「わけ」が合理的判断の物差しとなっている。数年前から始まっている単位革命、例えば大家族の場合は業務用食品ショップで大量に買うことが合理主義となり、単身者やDINKSのような場合は小単位、食べ切りサイズが合理主義となる。1980年代から始まった個性化の時代、好き嫌いが消費の第一義であった時代を終え、価格認識に基づく個人サイズの合理主義の時代に入った。』

こうした新しい合理的価値によって生活の再編集が始まっているということだ。そして、消費増税に対する「備え」も、この新合理的価値を踏まえて始まると理解すべきである。それではどんな「備え」という消費が出現するか、「わけあり商品」の生活全体への広がり、あるいはシンプルライフという表層から進んだ一つの価値観として出てきた断捨離なども新たなスマートライフを構成するものである。そうした新たな芽を含め次回以降具体的に考えてみたい。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 10:08Comments(0)新市場創造