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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2011年08月29日

消費移動の中心を探す

ヒット商品応援団日記No517(毎週更新)   2011.8.28.

今夏も昨年同様、お中元の売れ残り商品を特価バラ売りする百貨店に人が押し寄せ混雑している。いわゆる訳あり商品であるが、3年程前から始まったわけありブームも、日常化し、最早話題になることはない。既に10年以上前から、確かTV通販で「たらこの切れこ」を安く販売し人気となっており、当時はわけあり商品と呼んではいなかっただけである。
わけあり商品はデフレ時代を象徴的に表したキーワードであるが、食品から始まりアウトレットは言うに及ばず、ホテルや旅館の部屋に至るまで、多面多様な生活領域に広がる傾向を、私は消費の中心移動が低価格へと向かったと表現してきた。

ところで、それまではどこに向かっていたかと言えば、他人との違い(=分散化)をどれだけ生活のなかに取り入れるかが生活者の最大関心事で、私たちはそうした消費傾向を成熟した時代の中心が個性化に向かっていると表現してきた。その個性化の象徴はと言うと、やはり渋谷109ということになる。1990年代末、特異なファッション、ガングロ、山姥が渋谷の街を歩き、中学の修学旅行先には東京ディズニーランドと共に渋谷109は観光名所となっていた。しかし、数年前から、H&Mやフォーエバー21、あるいは新宿マルイにも売り場化されているが、上から下まで1万円で揃う、いわゆるファストファッションが登場した。そして、ティーン世代を中心にその低価格の波が押し寄せ、渋谷109の各ブランドが苦戦している。これも中心点が移動していることの証左であろう。

さて、3.11以降今起こっていることは、中心化と分散化がどのように錯綜しているかということだ。情報の時代は、情報によって、普通と特別、一般と固有、といった異なる価値観を行ったり来たりする。マーケッターはどこに生活者の興味関心の中心が移動し、どこは分散化が進んでいるかを見極めることが主要な仕事となった。そのためには「見晴らしの良い場所」に立つことが必要となる。そうした意味で、東京という世界中のあらゆるものが一極集中する世界は見晴らしが可能な良い場所と言えよう。3.11以降その見晴し台から出てきた消費傾向の一つが私の言葉で表現すると「関係消費」となる。分かりやすく言えば、従来の「頑張った自分へのご褒美」から、家族や仲間、友人へのコミュニケーション商品、メッセージ商品への変化である。俗にいうところの「絆」商品といってもかまわない。婚約指輪が突如売れ始めたり、母の日需要は旺盛であったことが、その現象だ。「私」から「他者」への移動といっても良い。

数年前「ワンコイン商店街」が、空洞化した中心市街地活性化や街起こしの手法として実施されてきた。その成果は一定程度あったが、ワンコインという価格から次の中心点へと移動が始まっている。つまり、ワンコインという価格から、次の生活者興味に移ったということだ。その一つが首都圏の商店街で行われているのが「テーマ商店街」である。どんなテーマかと言うと、今は「ころっけ」である。食品物販店や飲食店が中心であるが、お惣菜屋は言うの及ばずそば屋も中華店も独自のころっけを作り、互いにそのアイディアを競争し合い提供する試みが始まっている。中心点の移動という言い方をするならば、価格オンリーからテーマに移動したということである。そして、B級グルメブームの延長線上で、多くの商店が参加しやすく、消費者にとっては日常的で買い求めやすい商品で、しかもチョット変わったころっけなら購入してみようかと思うテーマ商品である。これもワンコイン商店街からテーマ商店街へと中心点が移動したということだ。

今までブログに書いてきた消費移動の変化について整理をすると、デフレ傾向を踏まえた次のような変化である。
■衣/専門店ファッションからファストファッションへ
■ブランド/百貨店・路面店からアウトレット・ネット通販へ
■食/外食から中食・内食へ
■健康/サプリメントからウオーキングへ
■住まい/自由が丘から吉祥寺へ
■遊び/外から内へ、個人から家族へ
■休み/遊びから学習へ
■全体として/プロサービスからセルフサービスへ
こうした消費移動の事例についてはブログを読んでいただきたい。大切なことは消費移動が始まっていることと共に、今までの市場が全て無くなった訳ではない。従来のやり方であれば、顧客は減り続ける、その減り続ける売上で経営をしなければならない。つまり、事業規模を縮小しなければならないということである。縮小する本業を傍らでやりながら、新しい「何か」を模索しているのが日本の企業が置かれているポジションであろう。

私が何故このように国内の消費にこだわるか、もっとマーケットは広い、勿論そうではある。しかし、日本のマスメディアが報じない、いやあまり報じない情報として中小企業、しかも第三次産業がいかに大きいか知らされてはいない。今、注目されている円高についても、輸出産業にとっては痛手ではあるが、その痛みはどれほどなのであろうか。ちなみに、日本の輸出額の対国内総生産(GDP)比率は約11.5%と極めて低い。仮に10%の円高によって単純に円ベースの輸出額が同じ割合で減少したとしても、GDP全体へのマイナス寄与度は1%程度にとどまる。日本のGDPの70%超は第三次産業によるものであり、輸出産業はマスコミ経済記者が報道するほど大きなことではない。逆に、イトーヨーカドーが円高還元セールを行っているが、そうしたことによる消費活性の方がGDPには寄与している。

ところで消費の中心移動のスピードは極めて速い。ワッと売れて、パタっと止む、こうした小さなベストセラー型のヒット商品が多く出るのが情報の時代の特徴である。いわゆる商品のライフサイクルの短さであるが、特にマスメディアが取り上げて話題となるマスプロダクト化商品が短命に終わる。
ここ数年前から住んでみたい街ランキングNO1は吉祥寺であるが、面白いことにこの街には全国から新しい業態や新製品導入エリアとなっている。以前ブログに書いたので省略するが、都心から20分程の駅を中心とした商業とその外縁には緑の多い公園のある住宅街である。駅の四方を囲む商業は、新旧商店街が横丁路地裏を形成する界隈性のある街となっている。この吉祥寺も他の街と同様に百貨店は3店あったが、近鉄百貨店は家電量販のヨドバシに替わり、吉祥寺のランドマークでもあった伊勢丹は昨年3月に撤退し、跡地にはコピス吉祥寺というニューファミリー層をターゲットとしたSCへと生まれ変わった。百貨店業態は東急だけが残っている。このようにある意味大型流通は淘汰された街となっている。そうした街で成功すれば都内へと拡大するとした専門店ビジネスが多い。しかし、こうした新しい大型商業のなかに、旧商店街の一角に今なお毎日々行列ができる店がある。和菓子の小笹とさとうのめんちかつである。ベストセラー&ロングセラーという極めて稀な商店である。しかし、象徴的に言えばこの2店こそが吉祥寺の中心点の一つになっているということである。美味しさはいうまでもないが、ワンコイン的安さと懐かしい手作りの昔ながらの普通のお店である。もう一つの中心点は食でいうと、常に、新しい専門店や売り場をつくっている吉祥寺駅のSCアトレと東急百貨店のFoodShowで特別な食を提供、まさに新旧が混在した街となっている。住みたい街とはこうした混在する魅力のことである。吉祥寺を調べると分かるが、新しさだけでも、古さだけでも駄目であるということだ。中心となる新しさは何か、それはどこへ向かっているかの発見と共に、今なお毎日が行列となっている小笹やさとうのめんちかつのような慣れ親しんだ古さに中心を見出し大切にする、消費移動という変化を見据える複眼が必要な時代だ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 17:16Comments(0)新市場創造