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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2011年05月28日

信者をつくる

ヒット商品応援団日記No506(毎週更新)   2011.5.28.

1990年代初頭、狭い国土の日本では地価が下がることはないという土地神話が崩れ、いわゆるバブル崩壊を経験した。途中ITバブルの崩壊を経験し立ち直った2008年9月、お金がお金を生む金融工学による金融神話はサブプライムローンの破綻をきっかけにリーマンショックという金融バブルが崩壊し、金融恐慌を経験したが、今なおその再生途上にある。
そして、今回の東日本大震災、特に福島原発事故を経験している最中にある。過去のバブルには必ずバブルを産み出す神話があった訳であるが、今回の原発事故も原子力の平和利用という安全神話が崩れ、レベル7という最悪の事態となり、いまなお福島では応急避難が続いている。首都圏で言えば節電という形で電力バブルの崩壊を経験している。恐らく、誰もが実感したのは、水素爆発を起こし、冷却するために自衛隊のヘリコプターが上空から水を散布する光景であった。こんな子どもだましのような稚拙なやり方で果たして冷却できるのであろうか、そう不安を感じたと思う。

そして、以降不安は増幅し、不信へと向かった。私が放射性物質による汚染という風評問題に対し、その原因は政府・東電の情報の「不確かさ」「曖昧さ」にあると、事故発生の数週間後には指摘をしていた。こうした情報隠し、いや科学の最先端をいく原子力に対して素人以下の専門家集団によって今日の原発が推進されてきたのか、どちらにせよ不信に値する出来事が時間を追うごとに表へと出てきた。国内ではなく、諸外国の方が事故情報の「不確かさ」「曖昧さ」に敏感で、日本のマスメディアも2ヶ月経ってやっと報道するていたらくさである。その極め付きは、サミット直前、IAEA調査団の訪日直前に炉心溶融、メルトダウンの事実を発表したことに表れている。放射性物質の拡散分布予測のシュミレーションモデル「スピーディ」の公開も遅すぎるどころか、隠蔽であると言われてても仕方がない。「スピーディ」の分布を見ても分かるように、北西方向にある福島県飯舘村はその象徴でまさに放射性物質のホットスポットであった。その飯舘村住民が今になって避難という要請に怒るのは至極当然である。
ブログに書くのがうんざりするのだが、最近では国会で質疑応答された福島原発への海水注入問題での2転3転する発表もそうである。その結果は不信の二文字に集約される。

既に、こうした不信の先に何があるか、その一つが「自己防衛」であると数週間前に指摘をしてきた。その一つが放射線量を計る線量計がヒット商品になると半分そうあって欲しくはないとブログに書いたが、その通り品不足で手に入れることが困難な状態になっている。買い求めたのは食品メーカーや生産者だけでなく、福島県の被災住民であった。そして、周知のように住民自らが、子どもを守る為に校庭や保育園の庭につもった放射性物質を除去する行動へと移った。

放射性物質の汚染は、自主的に調査して発見された神奈川県足柄茶を始め、海産物への影響が出てきた。3月末時点ではマスメディアに出てきた放射性物質の専門家は口を揃えて「海水に希釈されて安全で問題はない」と説明していた。しかし、海外の環境団体による汚染調査が始まっており、中部大学武田教授はブログ(http://takedanet.com/2011/05/post_ab4a.html)で次のように報告している。

『 ある出版社が、「外国」の環境団体が測定したデータを送ってくれました。 それによると、5月5日に江名港での測定では、アカモク(海藻)から放射性ヨウ素が基準値の60倍、セシウムが3倍でした(フランス環境団体測定)。 また四倉港のコンブ(5月5日)はヨウ素が50倍、セシウムが4倍で、海草類に汚染が拡がっていることを示しています(ベルギー原子力研究センター測定). おそらく海藻の表面か、海水から直接、吸収したものと思われます. また、勿来港のシラス(5月9日)は、ヨウ素は低いのですが、セシウムは2.2倍含まれていました。』

そして、外国の環境団体による情報で、信頼性がまだ十分ではないことから、漁業関係者に安心して食べてもらうために自分たちの手で測定してくださいと呼びかけている。これも神奈川県足柄茶のように安心を目指す為の自主検査という自己防衛策であろう。

ところで、2008年に起こった事故米不正転売事件を覚えているであろうか。事故米を安く落札して、通常米として売っていた三笠フーズが起こした事件である。その販売先の1社である鹿児島の焼酎宝山(西酒蔵)は汚染米使用の事実がないにも関わらず、風評・うわさが広く流布された。宝山がとった行動はまず安心を得るために自主回収し、仕込み等も全て廃棄処分する。勿論、倒産の危機に直面したが、その後汚染米が使用された事実がないことが明確になり、顧客の信頼を取り戻し倒産の危機を回避することが出来た。一方、同じ汚染米を使ったとされた熊本の美少年酒造は、汚染米であることを分かって使っていたことから、結果廃業となった。
自主検査をした足柄茶は記憶にとどめておかなければならない。福島県、茨城県、あるいは千葉県もそうであると思うが、漁業関係者は放射性物質に対する自主検査を進め、広く公開することだ。残念ながら、そうした自主検査にしか信用が置けない時代にいる。

古くから言われていることだが、信者をつくりなさい、それが儲けにつながる、と。2つの漢字、信者を足し算すれば儲けになるという語呂合わせである。不信が渦巻く時代にあっては、自らコトを起こす、問題があれば自ら解決に挑む、それら全てを公開する。それがどんなに小さな一歩であっても必ず顧客の信は得られる。
反面教師であるが、政府・東電は間違いなく、事故米であると知っていながら製造販売していた美少年酒造と同じように廃業へと向かう。一方、風評にもめげず損を承知で自主回収し、全てを公開した焼酎宝山は、今販売が好調であると聞いている。足柄茶も、汚染海域の漁業関係者も、「自主検査」、場合によっては「自主回収」し、それらを公開することによって、間違いなく顧客支持は回復する。いや、顧客支持どころか、信者になってくれるということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:47Comments(0)新市場創造