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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2011年03月23日

うわさの時代にあって 

ヒット商品応援団日記No490(毎週更新)   2011.3.23.

福島第一原発事故に関連した風評被害が出始めているという。災害復旧には大型重機が必要となるが、福島原発半径30km圏内にはその重機を動かすオペレーターが行きたがらないので復旧が遅々として進まない。つまり、放射能汚染された半径30kmには行きたくないという事態が生まれているという。また、政府発表のように周辺地域(茨城、栃木、群馬、福島)の農畜産物が暫定基準値を超えた放射性物質が検出され、出荷停止が行われている。今は産地表示が当たり前となっている時代だ。結果、スーパーを始めとした小売店は対象となった商品以外に於いても仕入れを控えるようになる。しかし、これが風評被害であるかというと、過去あったうわさやデマといったものではない。

私のブログにも頻繁に出てくるキーワードがある。「過剰情報の時代」というキーワードであるが、このことが意味することの一つが「言葉の軽さ」である。例えば、2008年新語・流行語大賞は「グ〜!」と「アラフォー」であったが、共通していることは言葉の軽さであり、浸透していくスピードは速いが瞬時に忘れ去られるのも速い。情報過剰の時代とは、いわば供給過剰、言葉のデフレ時代のことである。広告的言い方をすると、キャッチコピーだけで、人の興味・関心は惹きつけるが、それ以上でも以下でもない。
ところが、その興味関心が「生命にかかわるような場合」は、その軽さは一変する。つまり、以前「うわさの法則」というテーマでブログにも書いたが、その法則のような過剰反応の連鎖が起こりつつある。その「うわさの法則」(オルポート&ポストマン)であるが、以下のような法則である。

R=うわさの流布(rumor),
I=情報の重要さ(importance),
A=情報の曖昧さ(ambiguity)
< うわさの法則:R∝(比例) I×A >  

つまり、情報の「重要さ」と「曖昧さ」が大きければ大きいほど「うわさ」になりやすい、という法則である。但し、重要さと曖昧さのどちらか1つが0であればうわさはかけ算となり0となる。つまり、うわさにはならないということである。例えば、今回の原発事故を当てはめてみると、
・情報の重要さ:放射能汚染は人命にかかわることだ   
・情報の曖昧さ:健康被害にはならないと言うが、農畜産物を出荷停止することと矛盾するのでは?
 ・うわさの流布:よく分からないが、取り敢えず避けておこう!

大震災後、2〜3日の間盛んに使われた言葉は「想定外」及び「未曾有の」であった。つまり、未知の世界であり、今回の風評を誘発させる不安心理は直後の報道による巨大津波という目に見える映像と目に見えない放射能という二つ恐怖から生まれたものであった。実は、このことによって引き起こされた 不安心理を前提とした政府発表や報道がなされなければならなかった。
例えば、前回のブログにも書いたが、今回の計画停電は実は無計画停電であった、いや今なお無計画停電となっている。東京・関東の東電の管轄エリアを5グループに分けて、時間帯ごとに停電を行っている。ところがこのグループのなかでは今なお実施されなかったエリアも多く含まれている。特に東京23区の場合、この間実施されたのは3/21現在荒川区だけである。都内での実施は混乱は免れないという判断であろうが、停電した地域とそうでない地域があり、計画とは名ばかりで無計画停電となっている。まさに予定は未定になっているということだ。
このブログを書いている最中に、東電からの発表があった。5グループを更に小さく5グループ化し、全部で25グループにして停電を実施するということであった。取り敢えず、少しは丁寧になったと思ったが、そうではなく特定されたエリアの停電が前日にならないとわからない、しかも実際の停電は数時間前でないと分からないという内容であった。そんなあやふやな計画で、生活であれ、ビジネスであれ、無計画であることには変わらない。これほどまでに、電力の需要予測が立てられていないとは思いもしなかった。需要予測とは単なる過去の統計データの延長線上にあるのではない。一番大切なことはその「需要の内容」を把握しているか否かである。それは単なる数字の把握ではなく、どんな使用によって電力が使われているかであって、そのことがわかれば「節電」のお願いは可能で、しかも計画停電などには至らないアイディアも生まれる。こうした顧客分析は一般消費財などのメーカーや流通では当たり前のこととしてやっている。

原発の放射性物質の拡散についても、情報の不確かさ、いや問題はないという論理は既に矛盾している。健康被害はないと言うが、そうであれば何故出荷停止するのかという矛盾である。詳しく出荷停止の理由、暫定基準値設定の背景を10〜20分説明を受ければそれなりの理解は得られる。しかし、広告のキャッチーコピーの如く、ワンフレーズしか情報は流通しないのが現代である。過剰な情報が行き交う時代においては、「出荷停止」という部分、ワンフレーズが全体の如く思ってしまう一種の錯覚を生む。そして、忘れてはならないのが、中国製毒入り餃子事件、更には多くの食品偽装事件を経験してきたことを踏まえて、対策をとらなければならないとうことである。

今回の大震災で未だパニックを生じてはいないが、誰もが知っているパニックというと、1973年に起こった「トイレットペーパー騒動」であろう。原油価格を70%引き上げる決定を受けて、「紙の節約」を発表したところ、「紙がなくなる」という噂が流れパニックに陥り、その騒動を「あっという間に値段は2倍」と新聞メディアが報じたことにより、更に買い付け騒ぎが大きくなった社会的事件である。あるいは給食によるO157集団感染の原因と噂され大きく報道され、結果カイワレ大根業界が壊滅的打撃を受けた事件を思い起こさせる。
更には、「あのマクドナルドのハンバーガーの肉はミミズである」という根拠のない風説による都市伝説が流行ったことがある。勿論、根拠のないマクドナルドにとって迷惑な風評であるが、マクドナルドはビーフ以外にも他の肉を使い、消費者に知らせていなかった事実があった。確かNHKが調査を行い指摘したと記憶しているが、その指摘を受けて1985年にマクドナルドは「100%ビーフ」として再スタートした経緯がある。

このように、うわさは一人歩きをするのだが、その極端な例であるうわさやデマに終わらないで伝説化していくことを経験してきた。図式化すると、「もしかして」→「きっとそうだ」→「間違いない」・・・・という想像を超えた理解し難い世界へと向かってしまうのだが、受け手側に理解したいという潜在的欲求があることによってうわさは伝説化して行く。つまり、こうしたうわさやデマは「ある」ものとしてではなく、「求められて」、そして「作られて」いくものとしてある。つまり、「伝説」や「うわさ」を作っていくのは、私たちの「内なるこころ」が作らせているということだ。そして、パニックを引き起こすのである。

しかし、今のところそうした「作られていくうわさ」段階には至ってはいない。というより、極めて強い自己抑制がはたらいているのだと思う。今回の原発事故が最悪のメルトダウンには至らないことが確認できたが、米国スリーマイル島の原発事故と同じように放射能汚染が広がっている。当初は大気汚染、次に土壌汚染、更に海水汚染といった具合に、健康被害はないとはいうものの、全ての情報がバラバラで小出しになっている。生活とは、時に食事でほうれん草も食べ、仕事や学校に出かけ、そして帰宅し食事をし、眠る、という日常の繰り返しである。そうした生活という全体に対する汚染影響に対する情報が全く出てきていない。多くの人は、政府も東電も混乱しており、今批判しても汚染が止まる訳でもないと寛容である。
正確な情報だけが必要と私もそう思うが、その根底には「信じてくれた人の情報」しか信じない、という相互関係が透かして見えてくる。当たり前であるが、誰もが信じてくれる人の言うことしか信じないのだ。もし、信じてくれていなかったということが分かった時、内なるこころはうわさどころかデマを作って行くことになる。そして、その先にはパニックがあるということだ。(続く)

追記 このブログをアップさせようとしていた時、政府から農畜産物の出荷制限(停止)だけではなく、福島県産のほうれん草については摂取制限、食べることを控えて欲しいとの発表があった。このことは長期にわたることが想定されることから、念のために摂取制限としたと発表されたが、こうした一段階よりシビアな判断をしたのも、うわさやデマへと向かうことに歯止めをかけたものと思われる。  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:28Comments(0)新市場創造