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「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
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2009年06月21日

2009年上期ヒット商品を読み解く

ヒット商品応援団日記No377(毎週2回更新)  2009.6.21.

日経MJによる2009年上期ヒット商品番付が発表された。前回、私なりに読み解いてみたいと書いたが、正直言ってこの1年間私が着目し、その裏側にある生活者の価値観を指摘してきたことばかりである。繰り返し書いても意味がないと思っているので、詳しく知りたい方は私のブログを検索して読んでいただきたい。
既に1年以上前から「節約」は始まっており、私は「どんなに良い商品でも価格の壁を越えなければならない時代である」と書いてきた。そして、その価格は原油や穀物などの資源高騰を背景に、上流ではインフレ、下流ではデフレという「ねじれ現象」が生まれているとも。こうしたねじれの中から生まれたのが、実は「訳あり商品」であった。規格外といった訳あり商品をいち早く取り入れ急成長したのがOKストアであり、大手スーパーも次々とOKストアと同様のエブリデーロープライス業態を出店し、PB商品の開発を拡大していく。この延長線上に、従来はプロ用と言われてきた卸売り市場や業務用スーパーにまで、一般生活者が買い物に出かける現象も生まれた。これら全て生活者が望む「価格観」を表している。

ところでその番付であるが、東西横綱には「インサイト、プリウス」及び「ファストファッション(H&Mやフォーエバー21等)」となっているが、その根底にあるのは「安さ」である。大関の「gu(990円ジーンズ)」や「下取りセール」以下、そのほとんどが価格の「安さ」がヒットの背景・理由となっている。1年以上前から、生半可な付加価値など「安さ」に勝つことはできないと言ってきたが、その通りになっている。まあ、日経MJが巣ごもり代表商品として関脇に「節約弁当」を入れたのは良いとしても、「もやし&ひき肉」まで番付に入れるとは思わなかった。つまり、それだけヒット商品が無かったと言うことだ。

さて、この番付を見て、何か変だなと気づかれた人もいると思う。前回テーマとした健康や美容といった数年前までは必ずヒット商品番付に入っていた商品が、今回は一切入っていないということである。更に言うと、観光ではウオン安による韓国旅行が入っているだけである。少し前に、東京ディズニーリゾートの入場者数が減少に転じた時、本格的な消費氷河期に入ったと見なければならない、と私は指摘した。前回、高速道の「千円効果」についても、周辺観光地への経済効果はほとんどなく、アウトレットだけが大混雑であったと指摘した。以前、取り上げたことがあったが、番付にも売れ残りマンションの再販業者が入っている。売れている「インサイト、プリウス」も価格設定のうまさとエコカー減税が販売を後押ししている。つまり、生活の衣食住遊休知美、あらゆるものについて見直され、新しい価値観へと向かっているということだ。表面上は経済不況という理由でモノが売れないように見えるが、そうではない。多くの生活者のお金の使い方が変わったということだ。

健康志向も、美しくありたい、痩せたい、といった欲望が無くなった訳ではない。海外旅行にも行きたい、時には美味しい外食を家族と楽しみたい、こうした欲望は今なおあるのだ。健康志向、あるいは美容・ダイエットについては、前回書いたように自己解決型消費に向かうであろう。遊びについては、原則安近短への代替消費へと向かう。但し、繰り返しになるが、東京ディズニーリゾートの入場者数が減少に転じた時、赤信号となる。この遊びの中で特筆すべきは、やはり任天堂DSiであろう。ベストセラーでなおかつロングセラーという一人勝ち商品は見事である。家族回帰、家庭内回帰という、いわば家庭内消費の象徴としてあり、単なるゲーム・遊びを超えた商品である。
低迷する外食も全てが駄目ということではない。ファミレスと言えば、すかいらーくが始めた業態であるが、ホテル並みのメニューとサービスをファミリー向けに安く提供することで市場を拡大してきた。しかし、最早単一のビジネスファーマットで全てをやりきれる時代ではない。ファミレス業態全てとは言わないが一つの時代を終えようとしている。ていねいに顧客を見てメニューが用意できるフレキシブルな業態が支持を得る時代だ。そのシンボル的存在が餃子の王将であろう。あるいは寿司屋の概念を根底から変えた回転寿司が今やファミリーレストランとなった。

実は、ここ2ヶ月ほど私のブログへのアクセスが増えている。その中でも「巣ごもりから冬眠消費へ」(5月3日)、「激変する消費への指標」(5月27日)、そして前回の「自己解決型ライフスタイルへ」(6月17日)は群を抜いてアクセスが多い。これは私の推測ではあるが、大きなパラダイム転換、消費価値観の転換が起こっていると気づかれた方がアクセスされたのだと思う。
昨年秋、銀座にH&Mが1号店を出店させた時、まず百貨店の平場のファッションが打撃を受けるであろうと。更にその傾向はファッション専門店へも広がるであろうと書いた。百貨店ビジネスは周知のことなのでここでは書かないが、今年に入り専門店の売上が急速に落とし始めていると聞いている。売れないファッションの中で、唯一売上を伸ばしていた代表的商業施設が渋谷109であり、新宿ルミネであった。この2つの商業施設の伸びも止まったとも聞いている。

日経MJはこうした巣ごもり状態の消費心理に対し、「我慢疲れに元気の素」としてWBCの「侍ジャパン」を番付に入れているが、コトの本質をついた「元気の素」にはなっていない。私がこの1年ほど指摘をしてきたように、消費価値観を含め、人生観や生命観など価値観が広範囲にわたって変わり始めたということである。その背景として、日経MJも取り上げているが、「国宝阿修羅展」「映画おくりびと」、あるいは「NHK大河ドラマ」における戦国武将や「勝間本」といった、歴史や文化、生き方への関心・共感が高まっていることに着目すべきである。つまり、次なる新しい価値観を我がものとするための模索であり、一見バラバラに見える模索現象もいくつかの方向へと収束していく。その時、巣ごもり状態を脱し、新たな価値観による成熟した消費が見られるであろう。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:54Comments(0)新市場創造