プロフィール
ヒット商品応援団
「人力経営」という本を書きました。ヒット商品の裏に潜んでいる「人」がテーマです。取材先はダスキン、エゴイスト、野の葡萄、叶匠寿庵、桑野造船の経営リーダー。ユニーク、常識はずれ、そこまでやるのか、とにかく面白い経営です。星雲社刊、735円、新書判。
インフォメーション
アクセスカウンタ
読者登録
メールアドレスを入力して登録する事で、このブログの新着エントリーをメールでお届けいたします。解除は→こちら
現在の読者数 16人

スポンサーリンク

上記の広告は、30日以上更新がないブログに表示されています。
新たに記事を投稿することで、広告を消すことができます。  

Posted by だてBLOG運営事務局 at

2008年08月06日

ジャーナリストの眼

ヒット商品応援団日記No289(毎週2回更新)  2008.8.6.

先日漫画家赤塚不二夫さんが亡くなられた。ほぼ一年前に亡くなられた阿久悠さんの時にも感じたことだが、ああまた批評家精神溢れる方が亡くなられたな、と。時代が抱える病や気分、あるいは飢餓感そのものを、漫画で歌謡曲でわかりやすく批判・批評してくれた方達だ。ジャーナリストの果たす役割は、権威や権力あるいは既成から離れ、批判批評的精神をもって、「見張る」こと、「指摘(表現)する」ことにある。そうした意味で、赤塚不二夫さんも阿久悠さんもジャーナリストであった。

既成マスメディアによる情報から離れ、「常識の嘘」あるいは「本質をつこうとしない既成情報」を指摘するメディアは極めて少ない。その少ない中で、周知の村上龍さんが主宰するJMM(http://ryumurakami.jmm.co.jp/)で今面白い論議が行われている。それは福田改造内閣における財政立て直し、数年前からマスメディアから一方的に流されてきた「日本の財政赤字」についてである。結論から言うと、800数十兆に及ぶ赤字はほんとうに「過大」であるのかという素直な疑問と指摘である。ある意味、絶えず流されてくる情報による刷り込みで今や「常識」となったテーマである。最初に指摘をしたのは経済評論家・楽天証券経済研究所客員研究員の山崎元氏である。国家の借金を家計の借金になぞらえて、借金の大きさの危機感を煽っていると指摘。全てを売却できる訳ではないが、国は300数十兆円もの資産を保有している。そうしたことを踏まえ、まず必要なことは国の借金の最適化、つまりいくらぐらいであれば返済可能であるか目標を明確にすべきで、国民とのコンセンサスこそ大切であるとの論議である。つまり、グローバリゼーションという初めて経験する時代にあって、財政健全化とは「何を」指していうのか、ということだ。

私はこの議論をするだけの金融経済のプロではないので、JMMで展開されている「常識の嘘」論議を見守りたいと思う。ただ、こうした嘘を見抜こうとするジャーナリストの眼はビジネスにおいても必要不可欠であると思っている。経営の師といわれるP.ドラッカーは自らを社会生態学者(ソーシャルエコロジスト)とし、社会に起きている様々な事象・変化を追い続け、結果として膨大なビジネス指針を書いた。社会学者であり、経営学者であり、歴史学者であるが、何よりもまして文明批評家であった。

私はこのブログで少し前にこのように書いた。
「バブル崩壊以降、失われた10年と言われてきたが、そうではない。生活者も、作り手も、十分学習してきた。その学習のヒント、未来への芽が『過去』にあるということだ。」
一昨日、数年前に一度見に行った東京奥沢環八沿いにある「D&DEPARTMENT」(http://web.d-department.jp/project/index.html)を再訪した。一見時代遅れのような試みを始めたナガオカケンメイさんによるショップである。モノ不足を終え、豊かになり始めた1960年代に「デザイン意識の原型」があるとし、流行に左右されないデザインを追求しようとするデザイナーである。阿久悠さんが作詞し河島英五が歌った「時代おくれ」そのものを実践しているかのような人物である。

「ロングライフデザイン」をポリシーとするデザイナーであり、当たり前であるが、ロフトの2階にあるショップは数年前とあまり変わらない印象であった。商品のライフサイクルがどんどん短くなる時代にあって、廃番商品を復刻させ、売り続けることこそが、結果としてブランディング=アイデンティティとなるという試みだ。売れないから廃番にした訳で、それを復刻させるなんてと誰しもが考える。しかし、ナガオカケンメイさんは自らショップを創り、売ってみせている。ここにも常識の嘘があるのだ。

実は店頭にあった柳宗理さんのフライパンを買ってしまったが、柳宗理さんの実父であるあの柳宗悦を思い起こしたせいである。周知の実父柳宗悦は、まさに 「生活美の追求者」と呼ぶのにふさわしい人物である。生活の中の「勝手道具」とか「不断遣い」というふうに呼ばれてきた生活道具の中に「無名の美」を見出した。日本で初めて常識である「有名の美」ではなく、「無名の美」を日本民芸運動として広めた方だ。今、ナガオカケンメイさんが実践されている世界は、柳宗悦の一見非常識に見える「無名の美」とつながっている。これも私にとってジャーナリストの眼の一つである。

今まで私たちは「有名の美」ばかりを追い求めてきた。いつしかそれらは常識となっていく。トレンドマーケティング、ベストセラー、サプライズ手法、勿論これら全てが間違いであるというのではない。しかし、一方で「使い慣れた、着慣れた、食べ慣れた普通が一番」とした顧客価値観が表へと出てきた。私はこのブログで「今、地方が面白い」「裏が表になる時代」「道草のすすめ」、「オネスト(正直)コンセプト」、・・・・・常識的に言われてきた時代認識とは逆行するようなテーマを書いてきたのも、既成となった常識を疑って、実際現場に足を運び実感したことによる。確実に新しいパラダイムへと転換が始まっている。そして、そこには必ず新しいパラダイムを体現したジャーナリストの眼を持つビジネス表現者がいるということだ。(続く)  


Posted by ヒット商品応援団 at 13:33Comments(0)新市場創造